教職大学院の寺内大輔先生が作曲した作品の録音「《峡谷》―2台のピアノのために(2022)」がリリースされました

寺内大輔作曲,《峡谷》―2台のピアノのために(2022)の録音が,オランダのDonemusよりリリースされました。SpotifyとApple Musicで配信されています。演奏は,加島裕子さんと北林聖子さんです。素晴らしい演奏です。どうぞよろしくお願いいたします。

Spotify
https://open.spotify.com/album/23Tyj5Rkuqo7NjwEJ3kbsu

Apple Music
https://music.apple.com/album/1672323625

作品解説―おとなのために―

 たとえば,少し広めのテーブルの上にいくつかのものを「美しく」置こうとする行為を考える。何を,どこに,いくつ,どの向きで・・・置き方の可能性は無数にある。もちろん正解はない。しかし,この行為にはある種の美的価値判断がはたらいている。
 本作には,装飾音を伴う旋律,短く奏される和音,数少ない音から成る短い音型,オクターヴの高音,等々,異なった性格をもった音楽的要素が含まれている―ここではこれらをまとめて「素材」と呼ぶことにしよう。これら素材を,空間と時間にいかに置くか,それが本作における創作上の関心であった。
 このとき重視したのが,ソステヌートペダルの効果である。このペダルは,特定の音のみを伸ばすために用いられるのが一般的だが,本作では,特定の弦から残響を生じさせるためにも用いている。曲のはじめから終わりまで,残響は素材と素材とのあいだにたゆたい,よく似た音楽をそれぞれに奏でる2台のピアノのあいだに漂う。
 扇情的な音楽ではない。描写的な音楽ではない。題名にも特に意味はない。だが,場合によっては,聴き手に何かを思い出させるかもしれない―ごく個人的な何かを。

作品解説―子どものために―

 地味な曲です。とくにもり上がるところはありませんし,大きな音も出てきません。きく人の気持ちをワクワクさせるような曲でもありません。少しずつ変化していきますが,始めから終わりまでふんいきはさほど変わりません。
 そのような音楽をおもしろく感じるためには,どうきけばよいのでしょうか。

 私は,「音楽をよく観察すること」をおすすめします。ふんいきがあまり変わらないということは,ゆっくり観察できるということでもあるのです。
 曲のはじめにきこえてくるのは,ポツポツと奏でられる地味な音です。それらの音はせんりつや和音としてはたらき,音楽に少しの色合いをもたらします。2台のピアノはとてもよく似ていますが,いろいろな点で少し違っています。
 みなさんのなかには,ピアニストが音をひいていないときにも,ピアノがかすかにワーンとひびいているのに気づく人がいるかもしれません。これは,「ソステヌートペダル」と呼ばれるペダルの効果によるものです。ふつう,このペダルは,自分がえらんだ音だけを伸ばすために使うのですが,この曲では,音をひいていないときのかすかなひびきを出すためにも使っています。
 よく観察することで,いろいろと気づくことがあると思います。すると,いっけん地味なこの曲が,おもしろく感じられるようになるでしょう。
 ところで,「この曲を作った人は何を表現したかったのだろう?」「この曲はなぜこのような題名なのだろう?」―そんな疑問をいだいた人もいるかもしれませんが,あまり気にしないでください。それよりも,きこえる音そのものの中にあなたなりのおもしろさを見つけてほしいと思います。それこそが,この曲のもつ「美しさ」ということになるでしょう。

【お問い合せ】

人間社会科学研究科 教職開発専攻(教職大学院)
寺内 大輔 准教授
E-mail:terauchi@hiroshima-u.ac.jp


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