【研究成果】オンライン面接では、カメラを見て話したほうが高評価

本研究成果のポイント

  • オンラインの就職面接において、受験者の視線がカメラ方向を向いていない場合、評価が大幅に低下する。
  • 受験者の発話内容のみを聴いた場合と、視線がカメラを向いていた場合の評価には差がなかった。
  • 女性の受験者や評価者では、視線の影響が男性よりも顕著に現れる可能性がある。

概要

 本研究では、オンラインの就職面接において受験者の視線方向が、面接での評価にどのような影響を与えるかを検証しました。大学生12人に模擬面接をし、視線がカメラ方向(CAM条件)と画面方向(SKW条件)の2つの条件で、60~90秒程度の短い面接映像を録画しました。また、その動画から音声のみを抜き出した刺激 (VO条件)も作成しました。これら3つの映像および音声を、社会人38人に視聴評価してもらったところ、SKW条件の評価は、CAM条件やVO条件と比べて低い値でした。さらに追加分析により、女性の受験者や評価者では、この視線の影響が男性より顕著である可能性も示唆されました。結論として、受験者の視線がカメラから外れていると否定的に評価される可能性が示されました。

 本研究成果は、「Scientific Reports」に令和6年5月31日付でオンライン掲載されました。
 

論文情報

  • 論文タイトル:Off-camera gaze decreases evaluation scores in a simulated online job interview
  • 掲載誌:Scientific Reports
  • 著者名:Masahiro Shinya1,※, Noriko Yamane1,※, Yuki Mori2, Brian Teaman3
    1)広島大学大学院人間社会科学研究科
    2)広島大学総合科学部(現 パーソルキャリア株式会社)
    3)大阪女学院大学
    ※ Equal contribution
  • DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-024-60371-5
     

背景

  • オンラインコミュニケーションの一般化
     コロナ禍以降、ウェブ会議などのオンライン上のコミュニケーションが一般化しました。就職活動の面接も例外ではなく、しばしばウェブ会議ツールを用いたオンライン面接が利用されています。
     
  • コミュニケーションにおける非言語情報の重要性
     コミュニケーションにおいて、相手に対する印象は、視線などの非言語情報の影響を受けることが知られています。実際の対面コミュニケーションや、顔写真による印象判断テストを対象とした先行研究では、視線を合わせることが好印象を与えることが明らかになっています。
     
  • オンライン通話における視線の非対称性
     オンライン通話に用いられるノートPCやタブレットでは、多くの場合、カメラはコンピュータスクリーンの上に位置しており、スクリーンに映る会話相手の顔とは位置がずれています。そのため、対面での会話と異なり、お互いが視線を合わせることができません(図1)。

図1. 通常のオンライン面接では、お互いの視線が合わない

研究成果の内容

 就活生がスクリーンを注視していた条件では、面接官からの評価が有意に低下していました。また、このような視線方向によるバイアスは、男性と比較して女性において大きい可能性が示唆されました。このような実験結果からは、オンライン面接に関わる様々な立場の方に向けて、以下のような示唆が与えられます。

就活生向け:画面上の相手の顔を見ている時は、相手からは視線があっていないように見られている、ということを知っておいてください。面接を受ける側は、少なくとも時々、カメラ目線になってアイコンタクトをすることを心がけることで、評価を落としてしまうということが避けられるかもしれません。

面接をする企業向け:候補者の能力評価において、少なくとも一部は、視線があわなかったこと、に無意識的に影響を受けている可能性があります。これは、候補者が単にオンライン面接に慣れていないことに由来している可能性もあり、優秀な候補者に不当に低い評価が下される可能性があり得ます。面接中に、カメラ目線でプレゼンしてください、といったお願いをしたり、アイスブレイクの際に、カメラを見てもらったりするといった、バイアスを取り除く工夫をしてもよいかもしれません。

技術研究者向け:スクリーン上の相手の目を見ている時に、相手からもアイコンタクトを感じられるような画像を合成するようなハードウェアやソフトウェアを開発すれば、オンラインコミュニケーションの質向上に貢献できるかもしれません。

今後の展開

 視線の他にも、ジェスチャーや声の調子といったさまざまな非言語情報が、相手にどのような影響を与えるのか、言語学習の際にどのような役割を果たしているのか、について研究していきます。それにより、対面やオンラインでの効果的な情報伝達の方法を明らかにするほか、人間にとって自然かつ印象よく見えるアバターやロボットによるコミュニケーション方法の開発に貢献します。

参考資料

 方法・結果について、論文内の図を用いて説明します。

 大学生12人(男女各6人)を被験者として、就職活動を想定した自己アピール映像を撮影しました。撮影は、受験者の視線がカメラ方向を向いている条件(CAM条件)と、画面に映った顔を見ている条件(視線がずれるSKW条件)を実施しました。また、これらの映像から音声のみを抜き出した刺激 (VO条件)も用意しました。

 次に、社会人38人に上記の3条件の映像と音声を視聴評価してもらいました。評価項目は、総合的な採用可能性の他、親密さ、社会的望ましさ、一般的な仕事能力、決断力、協調性のサブ項目を合わせて、全部で6項目でした。得られた評価を、評価者ごと・被評価者ごとに、それぞれ正規化した後、条件間で統計的に比較しました。視線が逸れているSKW条件の評価は、カメラ目線のCAM条件や、音声のみのVO条件と比べて、すべての評価項目において有意に低い値でした。つまり、オンライン面接において、常に視線が逸れている場合は、否定的に評価される可能性が高いことが分かりました(図2)。

図2. 視線が逸れている条件では評価が低かった

 さらに、評価される側および評価する側の性別による違いを分析したところ、親密さや社会的望ましさといった評価項目において、女性の被面接者や女性の評価者では、男性と比較して、この視線の影響がより顕著に現れる可能性が見られました(図3)。ただし、総合的採用可能性の評価には、男女間の差は認められませんでした。

図3. 視線による影響は、男性より女性において顕著である可能性が示唆された

 コミュニケーションにおいて、視線・ジェスチャー・声の調子などの非言語情報は非常に重要な役割を果たすことが知られていました。本研究において、オンライン面接という、キャリアを左右するコミュニケーションにおいても、視線が重要な役割を果たしているということが明らかになりました。

【お問い合わせ先】

広島大学大学院人間社会科学研究科 
教授 山根典子(言語学・音声学)
TEL:082-424-6440
yamanen*hiroshima-u.ac.jp

広島大学大学院人間社会科学研究科 
准教授 進矢正宏(スポーツバイオメカニクス)
TEL:082-424-4544
mshinya*hiroshima-u.ac.jp
 (注: *は半角@に置き換えてください)

 


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