峡谷―2台のピアノのために

たとえば、少し広めのテーブルの上にいくつかのものを「美しく」置こうとする行為を考える。何を、どこに、いくつ、どの向きで・・・置き方の可能性は無数にある。もちろん正解はない。しかし、この行為にはある種の美的価値判断がはたらいている。
本作には、装飾音を伴う旋律、短く奏される和音、数少ない音から成る短い音型、オクターヴの高音、等々、異なった性格をもった音楽的要素が含まれている―ここではこれらをまとめて「素材」と呼ぶことにしよう。これら素材を、空間と時間にいかに置くか、それが本作における創作上の関心であった。
このとき重視したのが、ソステヌートペダルの効果である。このペダルは、特定の音のみを伸ばすために用いられるのが一般的だが、本作では、特定の弦から残響を生じさせるためにも用いている。曲のはじめから終わりまで、残響は素材と素材とのあいだにたゆたい、よく似た音楽をそれぞれに奏でる2台のピアノのあいだに漂う。
扇情的な音楽ではない。描写的な音楽ではない。題名にも特に意味はない。だが、場合によっては、聴き手に何かを思い出させるかもしれない―ごく個人的な何かを。
なお、同作品の音源(演奏:加島裕子、北林聖子)は、Apple MusicとSpotifyで配信されています。
Apple Music
https://music.apple.com/album/1672323625
Spotify
https://open.spotify.com/album/23Tyj5Rkuqo7NjwEJ3kbsu
著者 | 作曲:寺内大輔 |
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出版社 | Donemus |
出版年月 | 2023年3月 |
ISBN | |
値段 | ハードカバー(A4)版 24.00ユーロ、PDF (A4)ダウンロード版 14.40ユーロ |
種類 | 楽譜 |
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広島大学大学院人間社会科学研究科
寺内 大輔
terauchi*hiroshima-u.ac.jp
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