第14回柿薗俊英准教授

バイオのつぶやき第14回柿薗俊英准教授「電気ポケモンと微生物電池の差ってなんですか?」
柿薗 俊英 准教授

2016年7月27日

 7月半ばからテレビや新聞で連日最も大きく取り上げられる話題。米大統領選挙?東京都知事選?いえいえ、スマートフォンアプリのポケモンGOです。ポケットモンスターの愛称ポケモンとはボールに収まる小さな架空の生物で、1990年後半に始まるゲームとアニメで、国内外で大ヒットしました。それが20年を経て携帯カメラにアニメを組み合わせて登場。まず海外で、そしてポケモン本家の日本で突然の公開。拡張現実(Augmented Reality, AR)と呼ばれる位置情報をもとに携帯カメラの現実世界でポケモンを捕獲します。連日ニュースはNHKを始めトップ扱いでその熱中ぶりと功罪を論じています。子どもがゲームに熱中して家の外に遊びに行かなくなって困る、という親の声から作られたとか、その真偽のほどは知りませんが、大人も子どもも昼夜の区別なくポケモンのよく現れるスポットで、ポケモンの所在情報や交換でコミュニケーションするそうです・・と、このくらい概要を残しておけば年末に見ても、そんなことあったと思い出してもらえるじゃないかなと。

 当時アニメでポケモンを子供たちと見ていたので主要なキャラクターと主題歌なら記憶にある程度の私。週末、世の中に遅れてはならじとやってみました。アプリをインストールして、なかなか使いたい名前を許してもらえず(やった人だけわかりますね)、やっと開始。3匹も家の中にいる。とりあえずテーブルの上のヒトカゲを捕獲。

 ところで、ARはすでに外科手術で活用されています。患者さんの体表に事前にスキャンした血管映像を投影したり、開腹したあと臓器の相互位置関係を示すことで手術の難易度が改善されるらしいです。仮想現実(Virtural Reality, VR)とも呼ばれ、カメラの捉える現実とデジタル情報を重ね合わせ携帯電話で見るポケモンGOとどこかでつながってますね。

 ここまでが前振りです。私の研究では、発電細菌を使って排水処理をさせながら電力を取り出す実験をしています。発電細菌とはデンキウナギのようなレアな生き物でなく、酸素の少ない田んぼや海底などを始め酸素の比較的多いはずの下水処理場などどこにでもいます。電圧は0.5ボルト程度で、10万ボルトも出せません、あの人気ポケモンと違って。電力源が排水なので、工場や家庭の排水を生かせれば、下水処理場を排水から大電流を生み出す発電所に変えようとの展望です。微生物燃料電池といいます。

 昨年までなら、現実的には期待する電流変換率がまだ低く・・と書いていたところが、ありがたいことに、今年の上半期で最大40%近くまで排水処理の電力変換率が改善されました。はい、およそ変換率1桁からの改善ですので、劇的な向上です。ここではその改良条件はさておき、なぜ上がったのか、そのメカニズムを調べています。それがわかればさらなる改善も期待できます。

 少し詳細に入ると、使っている微生物は下水処理場の活性汚泥という雑多な微生物の複合集団。そのため電池の環境に合わない細菌は死んで溶解し、発電菌たちの栄養源となり、栄養を得た細菌群は増殖するという、複雑系です。全体として排水という栄養を与えているのに、奇妙なことに細菌の総体重量は減ります。測定できる変量の種類に限界があり、微生物電池の中で現実に何が起こっているのか、解析は容易ではありません。

 はっと我に返るとつぶやきでなくぼやきに。これはいかん。まだ大学ではポケモンGOをやったことがないですが(本当です!)実験室で稼働している微生物電池の近くにピカチュウが現れますように。現れたら、記念写真撮ってつかまえて、こいつと旅に出る〜♪。

 本稿の初案は光合成の太陽光をエネルギー変換する仕組みが近年量子力学で説明されるようになり、初期の受光アンテナタンパク質が電子を同時に!別のタンパク質と分け合うことで反応中心への100%効率!で輸送するらしい。ナノ環境では電子のような量子的粒子は1つ以上の存在状態をとる!という重ね合わせ(Superposition)の振る舞いを見せることがわかってきました、と展開するはずが・・。乞うご期待。末尾に、この文章全般または一部がたいへん不謹慎であると思われた方々に深くお詫び申し上げます。


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