第15回荒川賢治准教授

バイオのつぶやき第15回荒川賢治准教授「CrossRoad」
荒川 賢治 准教授

2016年8月25日

 学部4年次に研究室配属されて以来、指導教員および様々な先生方からの薫陶やアドバイスをいただきながら現在に至っています。その間、研究テーマはもちろんのこと、研究分野を含めて色んな転機もありました。今回のコラムでは、研究の転機となった「海外留学」と「ノーベル賞受賞者とのふれあい」について紹介させていただきます。

 

1.海外留学

 博士課程後期に進学後、古細菌のもつ特異な大環状エーテル型脂質の全合成およびその膜機能に関する研究を引き続いて行っておりました。博士論文の目処が立ちつつあった博士課程後期2年次の夏頃、指導教員の先生から「海外で研究を行ってみてはどうか?」というアドバイスをいただきました。博士課程後期への進学を決めたときには、どっぷりと研究者人生につかりたいと思っていたので、渡りに船のご提案をいただけたと思っています。留学先は米国ワシントン大学理学部化学科で、微生物由来抗生物質の生合成研究を精力的に展開されている研究室でした。学生時代は上述の通り有機合成の研究テーマであり、大腸菌の培養はおろか、寒天培地を作ったことすらありませんでした。バイオらしいことといえば、膜脂質取得のために行った超好熱性古細菌Methanocaldococcus jannaschiiの嫌気培養のみでした。

 自分の研究スキルを生かせるのかどうか、はなはだ不透明な感じでしたが渡米しました。大腸菌でのクローニングはもちろんのこと、放線菌の培養も新鮮な気持ちで取り組みました。抗生物質の生合成研究に於いては、重水素標識化合物の合成および取込実験も重要であり、学生時代のスキルはここで大いに生きることになりました。学生時代の研究室もそうでしたが、「生命現象を化学の視点で研究する」ことをモットーとしているラボだったので、居心地がよかった印象があります。

 博士課程後期学生の方には、是非海外留学をおすすめします。日本の方がいい器械が揃っていることも多いのですが、人的交流の観点において、何事にも替え難い経験が得られると思います。留学から15年以上経過した現在でも、当時のラボメンバーとは国際学会などでの交流を持てております。

写真1 ワシントン大学のキャンパス

写真1 ワシントン大学のキャンパス

2.ノーベル賞受賞者とのふれあい

 ご縁があって2002年4月に本学大学院先端物質科学研究科の助手として着任し、はや14年が経過しました。放線菌の遺伝子破壊株構築など、遺伝学的研究手法を学びながら、学生・ポスドク時代の研究スキルを融合させて研究展開しております。この間、お二人のノーベル賞受賞者との交流を持つことが出来たので、それについて紹介したいと思います。

 まず2009年ノーベル化学賞受賞者・Ada Yonath先生です。Yonath先生は、私たちの研究材料である放線菌Streptomyces rocheiの抗生物質に注目され、2つのタンパク合成阻害剤のシナジー効果の解析を行いました。両化合物が共存する場合にリボソームの結晶構造が変化することを見出し、これがシナジー効果の正体であることを突き止められました。先生との共同研究の開始はご受賞前だったので、受賞の一報を聞いたときは大変感激しました。その後、本学で講演をしていただき、研究ディスカッションを含め、有意義なひとときを過ごせました(写真2)。

写真2 Ada Yonath先生を囲んで

写真2 Ada Yonath先生を囲んで

 もうお一方は、昨年のノーベル生理学医学賞を受賞された北里大学・大村 智先生です。小生は放線菌学会や農芸化学会を通じて先生のご研究をよく存じ上げていたのですが、2015年10月5日に目に飛び込んできた「大村先生ノーベル生理学・医学賞ご受賞」のニューステロップは、未だに脳裏に焼き付いております。折しも当時は日本放線菌学会の学会誌編集委員長を拝命しており、先生のノーベル賞受賞記念特別号の編纂に携わることができ、大変光栄でした。写真は本年1月の放線菌学会理事会新年会の集合写真ですが、記念の一コマとなりました。

写真3 大村 智先生を囲んで

写真3 大村 智先生を囲んで

 「誰もやっていないことに挑戦する」のが研究の醍醐味ですが、それを達成するのがいかに大変か、ということをお二人から学んだ気がします。研究の道のりは長く、様々な分岐点にぶつかりますが、「生命現象を化学の視点で探究する」ことを常日頃から心がけ、学生さんたちと日々新しい成果を発掘していこうと思います。


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