(2016年11月30日)
「酵母には寿命がある、〇か×か」と講演会などで聴衆の方々に質問することがあります。すると多くの方が×と答えます。酵母のような微生物は無制限に増殖するイメージがあるようです。しかし、正解は「○」です。酵母にもちゃんと寿命があって最後は死んでしまうのです。では、酵母の寿命はどのようなものなのでしょうか?出芽(娘細胞を産生する)をして増殖する、パン酵母でお馴染みの出芽酵母の母細胞は娘を産む回数に限りがあります。これを複製寿命と呼んでいます。一方、栄養が枯渇した状態でどれくらい生存が維持されるかで定義される経時寿命もあります。ともあれ酵母には寿命があるのです。興味深いことに老化した酵母は細胞のサイズが若いころと比較すると大きくなり、細胞の形もスムーズな表面から凸凹になってきます。また、細胞内の代謝も大きく変化します。このように説明していくと酵母に寿命がありそうだと納得していただくのですが、では酵母の寿命を調べて何の役に立つのか?という疑問がでてきます。
よく昔から「腹八分目に医者いらず」という言葉を耳にしますが、このことを実践することは確かに体に良さそうですが科学的な根拠はなかったのです。最近、新聞やテレビなどでカロリー制限やサーチュイン(長寿遺伝子)といった言葉を耳にされた方もいるかと思います。カロリー制限するとサーチュインといういわゆる長寿遺伝子の活性がONとなり長寿(健康)になるというものです。カロリー制限すると生活習慣病の予防にもつながることから、現在最も確実なアンチエイジング法です。実はこの発見は酵母を使った寿命研究がそのブレークスルーとなったのです。他にも酵母を使った寿命研究から幾つもの興味深い報告が出てきています。例えば細胞が年を取る(出芽する)ごとに毒性のある老化因子が蓄積されるのですが、これは母細胞に選択的に保持され、娘細胞には受け渡されないような仕組みが存在します。つまり娘細胞の年齢はゼロにリセットされ若返るのです。このメカニズムとして、母細胞が積極的に悪い物質を集めているのか、あるいは娘細胞が悪い物質を母細胞へ渡しているのかなど興味深い疑問が出てきます。
私自身も酵母(2009年より線虫も一員に)を使って寿命の研究を行っていますが、次から次へと新しい疑問(興味)が湧いています。また、研究室の外での酵母の副産物(お酒)を楽しみながらの研究談義もたいへん重要でその中から新たなアイデアがうかんだり??しています。
最後になりましたが、今年10月に酵母研究者にとってビックニュースが飛び込んできました。大隅良典先生がノーベル生理学・医学賞を受賞されました。「オートファジー」でお馴染みだと思いますが、これは飢餓状態で生存するためのアミノ酸のリサイクルシステムで、この現象も老化・寿命と密接な関連があります。大隅先生が使っているモデル生物も酵母です。大隅先生のお蔭で基礎研究における酵母の知名度もさらにアップしたのではないかと思っております。今後、酵母の寿命研究からヒトの健康に役立つ新規アンチエイジングを提唱できればと日々考えています。
酵母研究者が集まっての酵母研究談義後の一コマ