2015年7月3日
「生物間相互作用(共生・寄生)の分子機構解析とバイオテクノロジーへの利用」を目指して、主として以下の三つの研究課題に挑戦しています。
(1)ファージ・細菌・植物系によるバイオコントロール:
ペスト、結 核、コレラ等々かつて人類の大脅威であった細菌感染症は抗生物質の利用によって沈静化されてきました。ところが、これら薬剤の長年の多用によって、抗生物 質等が効かないいわゆる多剤耐性菌が発生・蔓延し、再び悪夢の時代の到来が懸念されています。日々蓄積しているゲノム情報は、病原菌の病原性遺伝子を明ら かにし、それらがどのように進化してきたかを示しています。その中で細菌の天敵ファージの作用が極めて重要である事が分かってきました。当研究室では、病 原細菌を薬剤を使わず天敵ファージによって持続的にコントロールする技術開発を行っています。具体的モデルとして、農作物の重大な病害である「青枯病」を 設定し,多数の青枯病菌ファージを分離しそれらの特性を高度に解析しました。現在、複数種の特徴的なファージを組み合わせて「診断・予防・防除」システム を構築し、このシステムの実用化を目指しています。また、この技術をレモン等の病害であるカンキツかいよう病のコントロールにも応用展開しようとしていま す。
(2)微細藻類・ウイルス系による新規酵素・有用物質の生産:
人類社会の大 きな問題であるエネルギー不足、資源不足を解消するために,光エネルギーの生物利用が極めて重要です。光エネルギーを利用したバイオマス生産の対象として 微細藻類が古くより研究されてきました。生産した微細藻類を如何に高付加価値化するかが長年の課題のポイントでした。クロレラウイルスは,30年以上前に 広島大学工学部発酵工学科で世界で初めて検出された微細藻類クロレラに感染するウイルスです。この種のウイルスはクロレラに感染すると細胞表面に「ヒアル ロン酸」や「キチン・キトサン質」を生産・蓄積します。クロレラウイルス、及び宿主クロレラのゲノム情報を解読し、これら多糖質生産に関わる遺伝子の種 類、発現パターンを解析しました。現在、バイオテクノロジーによりこれら有用な物質を効率良く生産するクロレラ・ウイルスシステムを開発しています。
(3)共生窒素固定系における微生物・植物相互作用の分子解析と窒素固定活性の拡大:
微生物と植物 の共生の顕著な例としてマメ科植物の根粒による大気中窒素固定系があります。日本や中国においては、窒素化学肥料に代わる自然緑肥としてレンゲソウが利用 されてきました。レンゲソウ・根粒系をモデルとして持続的バイオ肥料の更なる展開を目指しています。レンゲソウ・根粒菌の共生系から共生確立に重要なレン ゲソウ遺伝子各種(システインプロテアーゼCP、ダイナミン、アスパラギン酸合成酵素等々)を検出しその機能を解明しています。
生物間の相互作用は純粋系では見られない新たな現象、能力、効果を生み出す可能性があります。生物の従来の枠を超えたダイナミックな相互作用の仕組みを分 子レベルで解明し、これを基に「共生工学」基礎技術を確立し、さらにこの共生技術を持続的産業社会確立・維持のブレークスルーとして活用することは将来的 にきわめて重要であると思われます。
インドネシア・ジャワ島ボロブドゥール遺跡(YOGYAKARTA)にて