第20回 川崎健助教

バイオのつぶやき第20回川崎健助教「疑うチカラ」
川崎 健 助教
川崎 健 助教

2017年2月28日

 現在、私が興味を持っているテーマの1つは、「誰も捕まえたことの無い、全く新しいファージを単離、解析したい」というものです。

 バクテリオファージ(ファージ、細菌ウイルスとも呼ばれる)発見の報告は、1915年にTwort(ブドウ球菌ファージ)、1917年にd'Herelle(赤痢菌ファージ)によってなされ、以来100年に渡って様々な細菌に感染する多様なファージの単離、研究が行われてきました。ファージの研究は、発見直後の第一次ブーム時と、分子生物学の牽引役となった1950〜1970年代の第二次ブーム時に熱心に行われ、メジャーなタイプのファージの多くは、この時期までに発見されました。そしてそれ以来「全く新しいファージ」の報告は減少してきていました。

 ところが、2000年以降、全く新しいジャンボファージ(ゲノムサイズが200 kbp以上の巨大なファージでgiant phageとも呼ばれる)が徐々に発見されるようになってきました。これらのファージは特殊な環境から取られてきたのでは無く、単離の際の方法(プラークアッセイ法と呼ばれる方法で単離するのが一般的です)に、ちょっとした工夫を積み重ねることで単離できるようになってきたのです。

 この方法についての少し詳しい話は、昨年の生物工学会誌(2016年8月号)に「いまどき?いまこそ!プラークアッセイ -新奇ジャンボファージ取得のためのプラークアッセイのすゝめ-」というタイトルで書かせていただいたので、ご一読下さい(参考URL: https://www.sbj.or.jp/sbj/sbj_yomoyama_2.html)。簡単にまとめると…
 

・教科書に書かれている条件(0.7%寒天)は固すぎるため、巨大なファージは拡散できず、プラークが検出出来ない → だから単離できなかった。

・柔らかい寒天(0.35%寒天)で行えば巨大なファージも拡散でき、プラークが検出出来る → だから単離できる。
 

 ということです。「そんな単純なことで?」と感じると思いますが、一度確立した既存の方法(言い換えるならば「常識」)を「疑う」ことはなかなかに難しいということなのでしょう。

 しかし、人間というのは面白い物で、一度疑い始めると、さらに「疑うことができる」ようになります。現在、従来型のプラークアッセイの方法を見直し、今までの方法では難しかった特殊なバクテリアに対応できる方法を開発中です。「新しい対象」でのスクリーニングは「新しいファージ」、「新しい発見」に繋がってくれるだろうと期待しています。
 

 中学、高校時代に学んできた「教科書」には(ほとんど)ウソは含まれていないため、「疑う」ことに慣れていない人も多いと思います。また、ひょっとすると「疑う」という言葉にネガティブなイメージを持つ人もいるかも知れません。でも、「新しい何かを見つける」ためには、「既存の物・常識」を「疑い」、「別の見方・理論・方法」を考えることが大切になります。

 どんどん「本当だろうか?」「こうしたらどうだろうか?」「何故だろう?何故かしら?」と「疑い」、「考えて」下さい。

 きっと「新しい何か」が見えてくると思います。
 

 とは言え、あまり基本的なことを疑いすぎると何も出来なくなってしまいますので、バランスが大切なのはもちろんです。

 


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