第24回久米一規助教

バイオのつぶやき第24回 久米一規助教「発見の喜び」
久米一規助教
久米 一規 助教

(2017年8月1日)

 研究生活の中で、私にとって重要なモチベーションの1つである「発見の喜び」についてつぶやきたいと思います。
 

 私がはじめて「発見の喜び」を強く感じたのは、研究室に配属された学部4年生のときです。取り組んでいた研究内容は、「酵母を用いた変異株のスクリーニング」でした。当時の私は、大学のサッカー部に所属し、サッカーに打ち込める最終学年であったこともあり、頭の中では研究のことよりもサッカーのことを考える時間が多かった気がします。研究室のコアタイムが終わる17時までにいかにして早く実験を終え、サッカーの練習に行くかということを意識していました。しかし、自身の研究に取り組み、実験結果を積み重ねていくにつれて、「発見の喜び」を経験するとともに、研究の魅力に引き込まれていきました。

 当時私が取り組んだ研究の具体的な内容は、分裂酵母の細胞の形を制御する遺伝子の変異株を使い、その変異株が示す薬剤感受性を抑圧する二重変異株(二つの遺伝子に変異が存在する変異株)のスクリーニングでした。つまり、オリジナルの遺伝子の変異に加え、別の遺伝子に自然発生的に変異が入ることにより、なぜか薬剤感受性を示さなくなった二重変異をもつ酵母変異株を取得するというものでした。行った実験は以下のとおりです。
 

  1. 酵母変異株を液体培地で培養し、変異株が生育できない濃度の薬剤を含む寒天培地にまいて、コロニーを形成するまで培養する。
  2. コロニーを形成したら、それをひたすら新しい寒天培地にピックアップし、取得した二重変異株が薬剤存在下で増殖できるかを再確認する。
  3. 増殖の確認ができた二重変異株を冷凍保存する。
     

 シンプルな実験方法で、滅菌した爪楊枝を使い、ただ黙黙と無心にコロニーを単離していました。一方、同期の学生らは、ウエスタンブロッティングによるタンパク質実験や酵母の形質転換など様々な実験方法を教わり、私は彼らを羨ましいと思っていました(後ほど私はもういいと思うほどこれらの実験を行う機会に恵まれました・・・)。数ヶ月におよぶスクリーニングの結果、目的の二重変異株を20株取得することに成功しました。取得した変異株の原因遺伝子について調査したところ、既知の2遺伝子を含む6つの遺伝子の変異に分類されることがわかりました。この結果を当時の指導教官の平田大先生に報告したところ、「これは、新しい!!」と言われ、私自身大変うれしかったことを覚えています。このとき、新しい変異株を単離したというだけの実験結果ではあったものの、「発見の喜び」を感じた瞬間でした(注1)

 「発見の喜び」は、人によって大小異なるとは思いますが、「発見の喜び」は自信につながりますし、次の実験に取りかかる推進力になります。また、失敗の連続でもそれを打破するモチベーションにもなりうると思います。

 教員になった今でも、研究室に配属された学生とともに、現在取り組んでいる研究テーマのもと、新たな発見をするべく、滅菌した爪楊枝(注2)を駆使し、日々研究に勤しんでいます。

 

(注1):新しい変異株の単離が研究のおわりではなく、むしろ始まりで、後に取得した変異株の解析を通して、さらなる新たな発見を目指し、研究を行いました。

(注2):爪楊枝は酵母を扱う実験において非常に有用ですが、実験に爪楊枝だけを使用しているわけではありません。他の実験機器も駆使しております。


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