第25回北村憲司助教

バイオのつぶやき25回 北村憲司助教 「研究初心者のみなさんへ:感動のタネ?」
北村 憲司 助教
北村 憲司 助教

(2017年8月30日)

 諸説ある様ですが、日本では、札幌時計台・はりまや橋・オランダ坂、外国なら人魚姫像・マーライオン・小便小僧、の共通点ってわかるでしょうか?ウワサには聞くけど実物を見るとそれほどでは、、、世間で三大がっかり名所と言われるものです(ご当地の皆様、スイマセン)。本当にがっかりするかどうかはともかく、又聞きと自ら見るでは結構違う、実際に体験しないとわからないってことですね。実験や研究でも全く同じ、むしろ「みる」事はもっと重要な意味がありそうです。微生物のコロニーが生育したシャーレ、一枚の液クロのチャートを見ても、人により違う事を感じるかもしれません。辞書の「みる」の項目には、「見る・観る・診る・看る」と異なる意味合いの実に様々な言葉が出てきます。肉眼で直に見るだけでなく、機器で測定したり、時には触ってみたり、ありとあらゆる「みる」力を総動員して、観察したり、何かを感じたり、疑問に思ったりする力は、研究に限らず様々な局面で大事だ、という点に異論を唱える人は少ないでしょう。

 とは言え、自分自身にそれほど優れた力が備わっているとは言い難いのですが、そういう心がけでいる事はできるかもしれません。そのために重要な事は、ある種の「感動」ではないかと思います。今でも私が覚えているのは、学生時代に、酵母細胞の核をDAPIと言う蛍光色素で染める方法を教えてもらい、蛍光顕微鏡を初体験した時のことです。照明を消した暗い部屋で、細胞に励起光を当てた瞬間、明るく青白いいくつもの光が目に飛び込んできました。何をおおげさなと言われそうですが、予想外の美しさに、夜空に輝く星を見た気がしたのです。大仰な事である必要などなく、日々の実験の中で、微生物のコロニーが出た、PCRで遺伝子が増えた、綺麗なパターンで電気泳動ができた、分画で謎のピーク出現、そんなちょっとした事でも「やった!」「うわ〜」と感じる気持ちを持つことから始まるのだと思います。何を見てどう感じるかは個々人で千差万別でしょうが、そんなことをきっかけに実験にワクワクできればなお良し。よくわからないまま先生に命令されて手を動かしているだけの人もいるでしょうが、こうした気持ちを持つことはずっと変わらぬ大事なことではないでしょうか。

 生命科学は、生物のゲノムの全塩基配列を短時間で解読し、見えないものでも圧倒的な感度で網羅的に分析できる時代になり、今後もますます技術や機器は進歩を続けるでしょう。蛍光つながりで言えば、クラゲの蛋白質を利用すればどんな生物でも光る、というノーベル賞のニュースから既に10年近く過ぎ、いまや、まるで子供のお絵描きのごとく、生きたままの細胞の細部を何色もの色で塗り分けること、長時間に渡ってライブ観察することも当たり前の時代になりました。感動の種は人それぞれでしょうが、まだまだ尽きる事はなさそうです。

添付図;蛍光蛋白質発現で緑・オレンジ色に光る酵母のコロニー

添付図;蛍光蛋白質発現で緑・オレンジ色に光る酵母のコロニー


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