第26回舟橋久景准教授

バイオのつぶやき第26回 舟橋久景准教授「先入観に縛られない」
舟橋 久景 准教授
舟橋 久景 准教授

(2017年9月30日)

 先日テレビ(NHK)のニュースで“eSports”なるものを知った。複数のプレイヤー間で行われる対戦型テレビゲーム(格闘ゲーム?)を“スポーツ”として捉えるとのことだそうだ。2022年のアジア競技大会(アジア大会)ではメダル種目に加えられるらしい。子供の頃、テレビゲームなんてしていないで外で遊んで来なさい!と言われた世代であるので隔世の感がある。スポーツという言葉の捉え方や定義はいろいろあるのかもしれないが、やはりテレビゲームをプレイすることがスポーツであるということを受け入れるには抵抗がある。しかしながら先入観をなるべく入れないようにしてニュースの映像を見ていると、大変な反射神経が必要とされそうだし、機敏で複雑な手の動きを行うには日々の鍛錬が重要なのだそうだ。そうなると、これはもうスポーツと捉えるべきとも思えるようになってくる。その上最近は、高額賞金が懸った世界大会なども開催されており、このことが対戦型テレビゲームを競技として捉える考え方を加速しているようにも思える。“対戦型テレビゲームはスポーツ競技である”という新しい考え方が社会に受け入れられ、なんの違和感もない価値基準となる日も遠くないかもしれない。

 何かしらの価値基準がないと物事の判断は難しいのだが、それが先入観となりその価値基準に縛られてしまうと、物事の本質や新しい価値を見逃すことに繋がってしまう。たとえば、ある仮説を立てた、または何かアイディアがひらめいたというような場合、我々の世界では実験を行う。当然、仮説やアイディアを実証したいわけであるから、必ず“信じたいことや言いたいこと”という先入観が存在する。望みどおりの結果が得られた場合は良いが、そうでなかった場合、実験は失敗だったのだから仮説やアイディアは間違えていたのだ、と先入観に基づいて結論し、そこで思考が停止してしまうのは自然であろう。しかしそこであえて先入観を取り除き、もう一歩思考を進めたいものである。よく世紀の大発見は失敗から始まった!などという。自分が同じような失敗に直面した時に、これはなにか潜んでいる!と思えるかどうか自信はないが、実験結果を解析、解釈する場合にはいつもフェアな気持ちでデータに向き合い、先入観なしに物事を考えるということを忘れないように心がけたい。ひょっとしたら先入観に縛られていては見いだせない、新しい事実や価値が潜んでいるかもしれない。

 ちなみに、日常での会話もこのことが大変重要であるように思う。海外ポスドク時代、ラボメンバーと話をしていてよく感じたことがある。知り合って最初のうちは異国の人だからと、自分の価値基準も相手の価値基準も意識しながら話をする。しかし時が経ち仲良くなってくると、ついつい日本人の常識という先入観をもって話をし、また相手の話もそのような先入観をもって聞いてしまい、お互いの理解がまったく得られなくなることがあった。理解が得られないだけならまだしも、いろいろな誤解を生んで問題に発展することさえあった。どんな時でも自分の価値基準という先入観にだけ縛られて会話するのではなく、相手の話をフェアな気持ちで聞き、できれば相手の価値基準も加味して会話できたら良いと思う。でもこれがなかなか難しい。お互いの関係がなれ合いになってきたり、会話が白熱してきたりするとすぐにこのことを忘れてしまう。

 eSportsのニュースから、ついつい忘れてしまう“先入観に縛られず物事を捉える”という大切さを再認識したので、ありふれた内容かもしれないが自戒の念を込めてつぶやいてみた。ところで、このつぶやき自体は先入観に縛られていないだろうか・・・。日々精進である。


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