第28回松鹿昭則客員准教授

第28回松鹿昭則特任准教授「発酵食品と微生物」
松鹿昭則客員准教授
松鹿 昭則 客員准教授

(2017年12月13日掲載)

 発酵食品と聞いて、どのような食品を想像しますか。チーズ、バター、ヨーグルトなどの乳製品から納豆、味噌、醤油などの日本食、おなじみのお酒やパンまで私たちの食卓に欠かせないものばかりです。発酵食品は、それぞれの国や地域の気候・風土・食文化を反映していて、現在も各地で伝統的な発酵食品が脈々と受け継がれています。特に日本は、夏に高温多湿な気候となるため、発酵に適した気候に恵まれて発酵食品文化が古くから盛んでした。発酵食品には、もとの食材にはない独特のうまみと風味をもち、腸内環境の改善から免疫力が高まり、食材の保存性が向上するなど様々な効果があることが報告されています。

 「発酵」とは、微生物が人間にとって有益な物質をつくりだすことですが、逆に有害な物質をつくりだすと「発酵」ではなく「腐敗」として区別されます。「発酵」も「腐敗」も、「微生物の活動により食品を変化させる」というメカニズムは同じですが、「発酵」は、糖類が分解されて乳酸やアルコールなどが生成されるのに対して、「腐敗」はタンパク質などが分解されて、悪臭となる硫化水素やアンモニアを発生させるといった例が分かりやすいかもしれません。

 おもにカビ、酵母、細菌の三種類が発酵にかかわる微生物として知られています。一種類の微生物の働きによってできる発酵食品としては、パンやビール(酵母)、納豆(納豆菌)などがありますが、味噌や醤油、日本酒のようにカビ、酵母、細菌の共同作業で作られるものもあります。日本酒(清酒)では、カビの一種である麹(こうじ)菌がお米のデンプンを分解して糖分にし、酵母が発酵によりアルコールに変えます。また、あまり知られていませんが、乳酸菌が乳酸を作って余分な微生物を死滅させて酵母の生育を助けます。最古の発酵調味料として知られる食酢は、お酒に酢酸菌を加えて発酵することから、麹菌、酵母、酢酸菌という三種類の微生物の力を借りていることになります。清酒、味噌、醤油には黄麹菌(学名はAspergillus oryzae)が使われています。焼酎や泡盛に使われている麹菌(学名はAspergillus luchuensis)は、胞子の色に特徴があり、それによって区別、種類分けされていて、焼酎は白麹菌、泡盛は黒麹菌が使われています。日本醸造学会は、2006年にこれら麹菌を日本の貴重な財産として「国菌」に認定しています。

 味噌作りにも麹菌、酵母、乳酸菌が活躍します。麹菌は、お米のデンプンやタンパク質などを分解する様々な酵素(アミラーゼやプロテアーゼなど)を生産し、これによって生成される糖分やアミノ酸は麹菌の栄養源になるとともに、味噌の甘味や旨味を作ります。また、空気中や麹菌についていた酵母や乳酸菌が糖分を栄養にします。酵母は糖分を摂取してアルコール発酵し、味噌の香りや風味を作ります。さらに乳酸菌は、乳酸を作り、味噌の味を引き締めるとともに、先ほど述べたように雑菌の増殖を抑えて酵母の生育を助けます。味噌作りの作業工程は、米麹に大量の塩を混ぜて麹菌を死滅させ(塩切り麹と言います)、煮てつぶした大豆を「塩切り麹」に混ぜます。そして、酸素に触れない状態で数ヶ月熟成させると完成です。

 微生物の大いなる力を感じながら、今日も美味しい発酵食品をいただきましょう。


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