2015年10月15日
日本ではアス ベストショックから10年経ちましたが、未だに多くの人々が石綿被害で苦しんでいます。そして今もなおビル解体現場や古い施設の改修の現場でアスベスト飛 散が報告されています。アスベスト飛散防止には、できるだけ迅速なアスベスト検出方法が必要です。当研究室では、世界で初めてアスベスト結合タンパク質を 発見し、それを利用したアスベスト検出方法を開発しました。アスベストが飛散しているところでは、空気フィルターでアスベストを捕集することができます。 そのままでは何も見えませんが、アスベスト結合タンパク質を蛍光物質で修飾したものをフィルターにふりかけると、蛍光顕微鏡下でアスベストが光って見えま す(図1)。この方法は、電子顕微鏡で見る方法に匹敵する感度でアスベストを迅速に検出できることから、環境省のアスベストモニタリングマニュアルにも掲 載されました。
図1、バイオ技術で光るアスベスト
無機物であるアスベストをバイオ技術で検出できるとは誰も思っていませんでした。アスベストの計測に関わる技術者から「面白いね」とは言われましたが、実 社会で役立てるにはさらに必要な事がありました。蛍光顕微鏡は主にバイオ分野の研究室用に開発されたもので、過酷な解体現場に持ち運べる様な蛍光顕微鏡は ほとんどありませんでした。そこで、物理系の先生や光学系の会社の協力のもと、簡単に持ち運べる蛍光顕微鏡を開発しました(図2)。開発した蛍光顕微鏡 は、ノーベル賞で有名になった青色LEDを励起光とし、励起フィルター、ダイクロイックミラー、蛍光フィルターで構成され、Apple社のiPadのカメ ラに光路を接続しています(我々はiPad Fluorescence Microscopy、略してiFMと呼んでいます)。iFM は0.7μmの分解能で解析でき、十分にアスベストを検出することができます。また、取得した画像はiPadの通信機能により、離れた分析室で画像をリア ルタイムで観察することができます。これにより、現場で分析ができなくとも、離れた分析室からエキスパートによる手助けや指南が可能となりました。開発し た蛍光顕微鏡は2016年1月にシリコンバイオ社から発売予定で、その動画がホームページで閲覧できます。もし興味があればご覧下さい(http://siliconbio.co.jp)。
工学部は論文を書くだけでなく、実社会で役に立つ技術を作ることが重要な役割です。そのためには、自分で装置を作ることが必要になる場合があります。やは り専門のバイオだけではなくて、電気のことや光のことなども色々勉強することが大事だと感じています。また、自ら装置を作ってしまう事は、独創的な事を深 めるためにも大事だと言われています。例えば、青色LEDの開発でノーベル賞をもらわれた中村修二先生は、自らが試作改良した結晶製造装置で青色LEDの 開発に成功したそうです。今は3Dプリンターという有力な武器があります。皆さんも、バイオの可能性を広げるために、自ら装置を作ってしまうぐらいの意気 込みで研究に取り組めば、きっと実用的で独創的な研究につながると思っています。
図2、開発したiPad蛍光顕微鏡(iFM)