第42回舟橋久景准教授

バイオのつぶやき第42回舟橋久景准教授「自分で未来を切り拓く」
舟橋久景准教授
舟橋 久景 准教授

細胞工学研究室

(2019年5月)

 日々の生活でも、研究でも、人生でも・・・不満が溜まっていたり、壁にぶつかったり、上手くいかなかったり。そんなことが沢山あると思う。そんなシンドイ状況を自分でどう判断し、どう対処していくか・・・。

 スティーブ・ジョブズといえば、Apple社の創始者でカリスマ的な経営家として多くの読者がご存じだろう。彼が母校であるスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチは、数々の名言が織り込まれており大変有名である。著作権等がどうなっているかわからないが、インターネット上で簡単にその内容に触れることが可能である。その中の一部に、“もし今日が人生最後の日だとしても、自分が今からすることを今日やりたいか?と問うてみて、何日も連続で答えがNoであれば、なにか変えるべきであることがわかる”というような内容の一節がある。死というものを意識し、自分が本当にやりたいことに対して集中的に情熱を傾けるべきである。という意味であろうか。しかし私はこの言葉を少し違ったニュアンスで利用させてもらっている。

 恩師、相澤益男先生に教えていただいた言葉の中に、“苦労はやりたいことのためにするものだ”というものがある。今では私の人生の行動指針の一つになっている。私がこの言葉を思い出すのは、いろいろ不満が溜まっていたり、何かしら壁にぶつかったり、様々なことの対応に追われて疲れていたり・・・シンドイと感じる状況にある時が多い。“苦労は買ってでもせよ”という言葉があるくらいなので、何かを成し遂げるために苦労は必要なのであろう。しかし、苦労していること自体で満足し前へ進むことを忘れてしまったり、苦労によって一杯一杯になり前へ進めなくなってしまっては元も子もない。そこで、最近苦労しているなぁ、シンドイなぁと思った時に、自分がどのような状況に陥っているのかを客観的に判断する方法としてスティーブ・ジョブズの言葉を借りている。“今日が人生最後の日ではないにしろ、今の苦労は果たして本当に自分のやりたいことにつながっているのであろうか?”もちろん答えがYesであれば、自分のやりたいことのために苦労すればよい。しかし何日も連続で答えがNoであれば、やりたいことのために何か行動や考え方(苦労)を変える必要があるだろうと判断する。

 最近苦労しているなぁ、シンドイなぁと思った時、自分の状況を客観的に判断するために利用している言葉がもう一つある。出典を探ってみても、武田信玄の言葉やら、おやじの小言やら諸説ありなにやらよくわからない。私はポスドク時代に、友人の奥様のお父上の言葉として初めて聞いた。多少アレンジが入っているかもしれないが、それは“いいかげんだと、言い訳が出る。中途半端だと、愚痴が出る。本気になると、知恵がでる。”という言葉である。この言葉を逆手に取り、自分の発している言葉がどれにあたるのかを冷静に分析し、自分の状況を判断するのだ。
 言い訳や愚痴を発しているようであれば、まだまだ努力不足であるので、やりたいことのために苦労すればよい。知恵を出して行動をとり、(苦労して)問題の解決を目指して状況を変化させるのである。すでに知恵を出して行動しているのにうまく行っていないのであれば、きっと出した知恵が良くなかったのだ。本当にやりたいことのためにさらなる知恵を絞りだせばよい。
 ちなみにこの時の知恵が、他人から簡単に教えてもらった答えや指示されたことであっては、あまりおもしろくない。自分で出した知恵ではないので、今後“同じ状況・問題”には対処できるかもしれないが、“似たような状況・問題”に対応出来るかどうかは定かではない。一方で、自分で必死になって絞り出した知恵で問題を解決すれば、それは成功体験として深く記憶に残るし、似たような問題に対する処理能力も鍛えられているだろう。それに仮に問題が満足いく形で決着しなかったとしても、自分の責任として納得できることが多い。

 シンドイ時こそ何かを前進させるチャンスかもしれない。状況を客観的に判断し、行動を起こすべきタイミングを見計らい、知恵を絞り出し、自分で未来を切り拓いていきたいものである。もちろん世の中、自分ではコントロールできないものに左右されることも多いと思う。実際に行動をとるには勇気がいるし、状況を大きく変えればその反動も大きい。そして行動をとっても状況が好転するとは限らず、結局また苦労するかもしれない。いろいろ考えると、そう簡単に実践できるものではないし・・・。
 おっと、言い訳がでているようだ。もっと本気になり、知恵を出さねば・・・。日々精進である。

 


up