第47回 水沼正樹准教授

バイオのつぶやき第47回「寿命研究との出会い」水沼正樹准教授
水沼正樹准教授
水沼 正樹准教授

細胞生物学研究室

(2019年10月)

 今や老化・寿命を対象とした研究は珍しくはなく、日本では分子生物学会など大きな学会に出席すると老化・寿命をテーマとしたシンポジウムやワークショップを目にする機会が増えました。また、NYのコールド・スプリング・ハーバー研究所では2年に一度「Mechanisms of Aging」という老化・寿命に特化したテーマで世界各地から研究者が集結し、最新のデータをもとに議論が盛り上がっています。日本での学会でよく目にする研究者を海外の学会ではほとんどお目にかかれないのは大変残念です。本分野は、欧米が一歩リードし、日本は後れを取っていましたが、ようやく数年前より国の重点支援領域の一つになり、盛り上がってきていることから、日本からの研究者の方々には海外の学会でもっとアピールして欲しいと思います。
 さて、私は、過去10年間は寿命研究に取り組んでいますが、どうしてこの分野を始めたのかと尋ねられることがよくあります。答えは、たまたま寿命制御に関与する変異株が取得されたからです。私は学生時代から酵母を使った研究に携わってきましたが、最初はCa2+/カルシニューリンシグナル伝達経路が細胞周期のチェックポイント機構として働くことを提唱しました。その後、Ca2+シグナル伝達経路の全体像の解明を行いたいと思い、突然変異株の単離とその原因遺伝子の同定による関連遺伝子群の網羅的単離および細胞生物学・生化学的解析による新規遺伝子の特徴づけを行ってきました。この手法はフォワードジェネティクス(順遺伝学)と言われます。Ca2+耐性という表現型で取得された変異体の中には、顕著に短命でテロメア長が短縮した表現型を示すものが取得されました。Ca2+と寿命との関連については不明な点が多いため、その原因追求を行っています。
 次に、長寿の理解には短命酵母ではなく、長寿変異株を取得し、解析することが一番の近道であると考えました。そこで、先述した短命変異株を用いて、長寿変異株のスクリーニング法を考案し、実施したところ、実際に目的の変異株の取得に成功しました。この変異株には長寿の秘訣のみならず、さらに面白い秘密が隠されていましたが、これについてはまたどこかで触れたいと思います。変異株の醍醐味は、これまで想像もできなかった発見をすることがある点です。これに遭遇するかどうかはその人の運にかかっているので、強運を持っていそうな学生さんには新たな変異株を取得させたいなと思っています。以上のように、私は変異株が導いてくれるままに研究を進めています。今後もそのスタンスは、変わることはないため、10年後は何に出会うのかとても楽しみ。

 


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