2015年11月25日
「科学」に 対する考え方は人それぞれ異なります。私の科学観は、中学生のときに読んだカール・セーガン博士の著書「COSMOS」が基盤になっています。著書だけで なく、博士自身が出演して宇宙の成り立ちについて分かりやすく解説するテレビのシリーズ番組(全部で13時間!)も見て、その先進的で神秘的な映像に強く 魅了されました。
同書では、太陽や地球ができて生命が芽生え、生態系の中で進化したヒトが産業や文化を形成していく過程が、いろいろなエピソードとともに語られています。 ロケット学者ロバート・ゴダード氏が若かりし頃、月探査機を飛ばすことを夢想した最初の日を「夢の誕生日」としたくだりが印象に残っています。そんなこと できるわけがない、という周囲の揶揄にも立ち向かう姿勢は、古今の科学者に求められてきたものです。
その後、日本でも糸川英夫先生がわずか20 cm長のペンシルロケットから研究を始めて、我が国の宇宙科学を先導されたことを知りました。そこには、上っ面だけ真似をしていてはイノベーションはない という教訓があります。博士の名を冠した小惑星イトカワから砂を持ち帰った惑星探査機「はやぶさ」が、幾重ものアクシデントに見舞われつつも地球に帰還し た経緯は多くの人に感動を与えました。
このような宇宙への興味から、天体望遠鏡で空を見たり、準天頂衛星「みちびき」の命名者になったりしましたが、大学では主に微生物による油脂発酵について 研究しています。食品や化粧品から医薬品、化成品、そして、燃料に至るまでの幅広い産業分野で役立つ化合物を微生物で供給する手段を開発することが課題で す。
宇宙とは全然関係ない? いいえ、今私たち人類が直面し、解決しなければならない問題、例えば、食糧供給の偏り、病原菌への対策、化石燃料の枯渇など、そ のほとんどは人類自身が原因であり、宇宙の成り立ちや生命の進化といった自然な流れに逆らうから生じた問題なのです。そう考えると、自然の流れに沿うこと が解決に導く近道であると言えるでしょう。「光年」レベルの俯瞰的な視点で、「ミクロ」な微生物を見つめていると、なにか面白いことに気付くかもしれませ ん。