第50回 石田丈典講師

バイオのつぶやき第50回石田丈典講師 体内からのメッセージ「エクソソーム」」
石田 丈典 講師

細胞工学研究室

(2019年12月)

 第50回目のバイオのつぶやきは、私たちの体内で行われている細胞間コミュニケーションに深く関与している「エクソソーム」についてつぶやいてみたいと思います。

 エクソソームは、細胞が分泌するカプセル状の物質で、そのサイズは50〜150nmと非常に微小で、その中には重要な情報(マイクロRNAなど)がたくさん詰まっています(図1)。エクソソームは、私たちの体の血液、尿、唾液といったあらゆる体液に存在しており、細胞間コミュニケーションに重要な役割を担っていることがわかってきました。特に、がん細胞が分泌するエクソソームは、がんの転移などに重要な役割を担っていることが分かり注目されています。今回は、この不思議なメッセージカプセルである「エクソソーム」についてご紹介したいと思います。

 エクソソームは、NHKでも特集され放送されました(NHKスペシャル「人体」第7集 “健康長寿”究極の挑戦)。以下のホームページに、NHKで放送された一部が紹介されています。エクソソームの病気との関連性、老化との関連性など分かりやすく紹介されているので、ご興味がある方は是非。

https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_607.html

近年、エクソソームは、医療、化粧品、食品といった広い分野で注目されています*1。

 医療分野では、エクソソームが再生医療に使われようとしています。間葉系幹細胞(MSC)という幹細胞の一種が分泌するエクソソームは、軟骨の再生などに有効であることがわかってきています。また、がんなどの疾患の治療にもエクソソームが利用されようとしているなど、実際にオープンになっているだけで100件以上の前臨床試験(動物疾患モデルでの検証実験)が行われていて、実用化に向けた研究が活発に行われています。

 また、化粧品の分野では、シミの広がりは、メラニンがエクソソームによって運ばれることよって分散、拡散していくことが分かってきました。そのため、化粧品の世界大手であるロレアルがエクソソームの分散を止める生薬を探して化粧品化するような動きもあるようです。

 さらに、食品の分野でも、私たちが普段食べているフルーツなどの食品の中に存在するエクソソームが私たちの体の制御に関与している可能性がでてきました。例えば、ブドウのエクソソームが大腸の炎症を抑える論文があったり、乳酸菌が分泌しているカプセル状の粒子がさまざまな細胞と相互作用していることが分かってきていたり、面白い結果がたくさん出てきています。

 私たちの体の中の細胞は、エクソソームを使っていろいろな情報をやり取りしていること、エクソソームは私たちの健康に深く関わっていることをご紹介しました。私たちの研究室では、エクソソームが持つ情報や、エクソソームそのものを利用することは非常に有用であると考え、エクソソームを精製することに焦点をあて研究しています。エクソソームが脂質二重膜を持つこと(図1)に注目し、脂質二重膜に結合するペプチドを用いることでエクソソームを精製できることがわかってきました。今後、この精製技術を用いて、エクソソームによるがん診断や治療技術へ貢献していきたいと考えています。

 

図1.エクソソーム

参考文献

*1最新医学 、73巻、9号、特集:胞外小胞顆粒と疾患、落谷孝広、メディカルオンライン


up