第51回 田島誉久助教

バイオのつぶやき第51回田島誉久助教「旅と研究」
田島誉久助教
田島 誉久 助教

細胞機能工学研究室

(2020年3月)

 新型コロナウィルスが日本を含めて世界中で流行し、社会的、経済的にも深刻な問題となっている。国内の多くの学術会議も中止となり、3月に予定していたインドネシア出張もキャンセルすることとなった。本当に早い収束を願うばかりである。
 昨年、私は国際学会やシンポジウム、研究打ち合わせでインドネシア、タイ、台湾、韓国に渡航した。どの出張も初めて訪れる街であり、それぞれに印象に残る旅であった。同じアジアでも国民性、街の雰囲気が違う多様な文化を再認識するとともにそれらの融合もあり、とても興味深い。私は学生時代に海外に行く機会がなかった(を作らなかった)が、文化を肌で感じる機会を積極的に持つべきだったと悔やんでいる。
 自分自身で体験したことは何よりも印象深く記憶に残る。また、何とか乗り越えたときには自信や達成感を得ることができる。一人旅でのトラブルは否応なくそれらを体験することができる。初めての海外旅行は2004年9月アメリカ・ボルチモアでの国際学会への一人での参加であった。”911”の3年経過後にもかかわらず、シカゴ乗り換え時の厳重なセキュリティーチェックが印象に残っている。チケットなどの手配は周りの方に助けていただいたものの、出発してからは一人ですべてが初めてで心細かった。しかし、会議では学会の長老の先生にもご挨拶でき、うまく進んでいた。しかし、会議終了翌日のシカゴ行きのフライトが早朝であり、空港までのアクセスがないことに気づいた。行きは会議でチャーターしたバスがあったので何も考えずに着いたのだが、高速を通って空港まで1時間以上の距離は自力では到底無理で、ホテルのコンシェルジュに頼んで8時の搭乗に間に合うように朝4時にタクシーを手配してもらった。時間通りに翌朝、フロントに行くと一人のおじさんが待っていた。私の名前を呼び、車に乗るように言われた。車はcabでなく、まさかの普通車であった。しかも助手席に案内されて、本当に空港に連れて行ってくれるのだろうかとさらに不安が募った。道中、ドライバーが、あらかじめ準備してくれたコーヒーをくれたり、「おなか空いてないか?ファストフード店に寄ろうか?」と言ってくれたり、ボルチモアの街の説明をしてくれたり、今思えばとても親切なドライバーだった。もちろん何事もなく予定通りに空港に着いた。たわいもない出来事なのだが、当時の自分にとっては無事に空港に着いてほしい、の一点しか頭になく、初めての海外旅行としては一大事で記憶に残っている。それ以後も乗り継ぎ便に乗り遅れたりとトラブルは時々起こるが、すべて良い経験になっている。
 普段の生活ではほとんどトラブルは起こらないが、旅行で行ったことのない街を訪れるのは未知なことを経験する良い機会である。研究もまた、未知なことを解明すべくいろいろなことに挑戦できる(しなくてはならない)冒険といえる。生物工学に関する研究は遺伝子工学、細胞観察、物質の分離・同定、物質変換プロセス構築、産業化のためのコスト計算などとても幅広い技術や知識、考え方をあわせる必要がある。もちろん、一人では難しいこともある。新しいことを始めるときは、いろいろな方々にお世話になる必要があり、手続きや準備に加え、実行するための勇気と決断は必要だが、恐れずに研究の旅も楽しみたいと思う。

 

今回の再開が叶わなかったインドネシア研究者との集合写真(2019年3月)

今回の再開が叶わなかったインドネシア研究者との集合写真(2019年3月)


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