第49回 川崎健助教

第49回川崎健助教「ウミガメのスープ」
川崎健助教
川崎 健 助教

細胞機能工学研究室                                                                                   (2019年12月)

 前回のバイオのつぶやきでは、「疑うチカラ」というタイトルで書かせていただきました。このコラムは一部でご好評をいただいたため、今回は「信じるチカラ」で行こうかと考えていたのですが、「ただの精神論じゃないか?」とのツッコミを受けたため、今回のタイトルは「ウミガメのスープ」にしました。

 ウミガメってどんな味なんでしょうかね?世界的にウミガメの生息数が減少していることから多くの国で保護対象になってきています。日本でも天然記念物に指定されていますから基本的には食べられません。ところが、小笠原諸島では食文化の継承のためということで年間135頭の捕獲が認められていて、食べることが可能です。ちなみに小笠原ではウミガメが産卵しやすい砂浜の整備等の保護活動も合わせて行なっており、ウミガメが増加している世界でも珍しい島とのことです。
 さて味についてですが、胸肉はクセもなくかなり美味しいらしいです。マグロと馬刺しの間くらいの味で、生で良し、焼いて良しとの評判です。島の寿司屋ではウミガメ寿司を食べられるとのことで一度訪れてみたいなぁとは思っていますが小笠原は往復に1週間かかる島ですのでなかなか難しいですね。胸肉以外の身は、スープというか、ごった煮のようにして食べるそうですが、こちらはクセが強く人を選ぶとのことです。

 ………で、今回の「ウミガメのスープ」ですが、これらの話とは全く関係はなく、「水平思考パズル」や「水平思考ゲーム」あるいは「シチュエーションパズル」などとも呼ばれる思考パズルゲームの有名な問題で、このゲームの代名詞ともなっているものです。
 10年くらい前に結構流行ったため、ご存知の人も沢山いらっしゃるとは思いますが、研究室で学生に聞いてみたところ、意外と知らない人が多いようでしたので、今回紹介させてもらいます。

 出題者が問題を出し、回答者は「はい」「いいえ」で答えられる質問を繰り返し、出題者が考えているストーリーを推測して謎を解いていくというゲームです。
 「ウミガメのスープ」は「ある男がレストランでウミガメのスープを食べ、その後自殺した。なぜ?」という問題です。
 論理的思考力の他に水平思考力が必要とされることから、前述のように「水平思考パズル」とも呼ばれています。
 身近に経験者がいるならば、その人に出題してもらって実際にゲームをしてもらうと面白さがわかると思います。いない場合は、少し古いですが任天堂DSで「スローンとマクヘールの謎の物語」というゲームも発売されていました。また、最近は水平思考パズルのアプリなどもあるようです。
 「新しい知識に触れたい」という知的好奇心は誰にでもあると思います。それと同様に「ひらめいた瞬間の楽しさ」も人類に普遍的に存在するものだと思います。いわゆる「アハ体験」と呼ばれるものです。
 まだ試したことが無い人はぜひ水平思考パズルにチャレンジしてみてください。

 この「水平思考(Lateral thinking)」という言葉は、エドワード・デボノが提唱したもので、「既成の理論や概念に囚われずアイデアを出す方法」とされています。
 デボノによると、既成の理論や概念を積み重ねていく「垂直思考(Vertical thinking)」は、論理を深めるには有効ではあるが、斬新な発想は生まれにくい。これに対して「水平思考」は多様な視点から見ることで斬新な発想、いわゆる「ひらめき」を生み出せるとのことです。
 例えば、携帯電話を小型化する。軽量化する。というのは垂直思考的発想と言えるでしょうし、カメラを付ける、ウェブブラウジングができるようにする(携帯電話→スマートフォン)というのは水平思考的発想と言えるでしょう。このように「正常進化」では無く、「革新的変化」を生むためには水平思考的発想が大切になります。また近年盛んに言われている異分野融合の研究も革新的な結果を期待されてのものと思われます。

 「ひらめき」がどこから来るのか?人為的に制御、訓練できるのか?という疑問を持つ人もいますが、ある程度の部分は訓練で伸ばすことができると言われています。水平思考、ひらめきに関する本は何冊も出ていますので、興味がある人はぜひ読んでみてください。
 前回の「疑うチカラ」でも述べましたが、別の角度、価値観、理論から見ていくことで「新しい何か」が見えて来ると思います。
 様々な経験をして、様々なことを感じて、考えて、あなたの人生に革新的な発明・発見が訪れますように。

 


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