Vol.27 「目の前の生命現象と向き合える研究者を目指して」

名前: 竹原 舞
所属: 大学院統合生命科学研究科 博士課程後期1年
卓越大学院 ゲノム編集先端人材育成プログラム
広島大学基金による「卓越大学院プログラム奨学金」を活用
所属されている「ゲノム編集先端人材育成プログラム」について教えてください。
広島大学の「ゲノム編集先端人材育成プログラム」は、文部科学省の「卓越大学院プログラム」事業に2018年度に採択されています。「ゲノム編集」とは、生物が持つゲノム上の特定の塩基配列を人為的に変化させる技術で、バイオ燃料開発、品種改良や創薬・医薬分野等における革新的な技術として期待されているだけでなく、基礎生物学の発展にも重要な技術です。
プログラムでは、ゲノム編集の基礎から応用に至る知識と技術を修得することにより、ゲノム編集技術を使いこなせる人材、ゲノム編集を産業へ直結させる人材の育成を目指しています。
私がこのプログラムで学ぼうと思ったのは、ゲノム編集技術そのものの仕組みに加えて、社会で実際にどのように使われているのか、基礎から応用までの広い視野で、知識や技術を習得できるからです。これらの知見を習得できれば、自分の研究を進めるためにどのような実験を行えばいいのか、目の前の仮説を証明するためにデザインできる実験の幅が広がると考えて履修を決めました。
ゲノム編集技術は、現在自分が行っているような、生物の生命現象の謎を解明する基礎研究の分野でも広く使われています。そのため、プログラムを履修してゲノム編集技術に関する知識が増えることで、自分の研究の遂行だけでなく、論文を読んだ時に深く理解ができるようになりました。これからも知識や技術を習得しつつ、得られたことを自らの研究に応用していきたいと考えています。
実際にどのような研究を行っているのですか。
私はイモリの精巣がどのように再生するのか、そのメカニズムを明らかにする研究を進めています。
イモリは現在知られている脊椎動物の中で最も高い再生能力を持つことが知られていて、心臓や脳など様々な器官を再生することができます。この再生可能な器官の中には生殖器官である精巣も挙げられます。
イモリの精巣は、1947年に日本人の手によって精巣の前側に付随しているターミナルクレストと呼ばれる組織から再生することが発見されていました。しかし、それ以降再生のメカニズムを明らかにする研究は行われていませんでした。
そこで、私は精巣とターミナルクレストを摘出する実験と、本来生殖機能を持たない下顎へのターミナルクレストの移植実験から、精巣が再生することを実験的に示しました。
さらに、この再生はホルモンによって制御されるということを明らかにしました。現在は、再生を制御することが明らかになったホルモンがターミナルクレストのどの細胞に作用しているのかを解析しています。このホルモンの作用点を明らかにすることで、再生がどのように制御されているのかを分子レベルで探求できるようになります。

精巣とターミナルクレスト (白矢印部分)

ターミナルクレストに存在する生殖細胞 (緑矢印部分)
今後は、ホルモンの受容体を発現している細胞を染色によって可視化することで、ホルモンが作用する可能性のある細胞を明らかにしていきたいです。
さらに、ゲノム編集技術を用いてホルモンの受容体を破壊することで、ホルモンが再生のどの段階で作用しているのか、また、再生中に見られる細胞のどのような変化に関わっているのかなど、その機能を解析していきたいです。これらの研究は、希少種の多い有尾類の保全に役立つ可能性があると考えています。
将来の展望についてお聞かせください。
将来は、目の前の生命現象と向き合える研究者になりたいです。
現在はシーケンス技術の発達に伴って遺伝子の発現情報など大量のデータを得られるようになりました。細胞の振る舞いをきちんと観察することでこれらのデータが何を示唆しているのか、生体内で何が起こっていて、それがどのようなメカニズムで起こっているのかをきちんと説明できるような研究を自らドライブできる研究者になりたいです。

研究をしている両生類研究センター

研究の様子
寄付者へのメッセージ
ゲノム編集先端人材育成プログラムでは多くの経済的サポートが用意されており、奨学金の他にも博士課程後期の授業料免除や旅費の補助が受けられます。
奨学金や旅費のサポートにより、学会や研究会に積極的に参加して、自らの知見を広げるとともに、様々な先生方から現在の研究をさらに発展させるような助言をいただくこともできました。多くの方々の支援に感謝しながら、今後も研究に取り組んでいきたいと考えています。

イベリアトゲイモリの水槽前で

カエルグッズコレクションと
(2024年11月取材/基金室)