総合科学部在学中、司法試験予備試験に一発合格

訪問日

2025年6月10日

センパイ

廣瀨 詠太郎(ヒロセ エイタロウ)氏
2022年 総合科学部卒業
西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 弁護士 

-ご出身はどちらですか。
廣瀬︓5歳まではスイス、それ以降は広島県に住んでいました。母が心理カウンセラー、父が心理学の教員をしている関係で、生まれてから5歳までスイスにいました。その後は18歳まで広島県尾道市、広島大学に入学してからは広島県東広島市西条に住んでいました。

-なぜ総合科学部を選んだのでしょうか。

廣瀬︓総合科学部に入ったのは、偶然の成り行きだと思っています。元々、国連職員になりたいと思っていたので、アメリカの大学を受験しました。合格したものの、4,000万円もする学費に対して奨学金がもらえず、入学がかないませんでした。並行して東京大学も受験していましたが、こちらは落ちてしまい、後期日程で合格した広島大学に入学しました。

総合科学部を選んだ理由は、政治経済系に興味があって学際的な学部がいいと思ったからです。

流れ着くように入学した総合科学部ですが、振り返ってみると、総合科学部に入学したおかげで、今の自分があると思っています。

-最初から法律を勉強されていたのですか。

廣瀬︓入学当初は、弁護士になろうとは考えていなかったので、法律の勉強は全くしていませんでした。総合科学部は単位の組み立ての自由度が高いので、いろんな授業を受けて一旦単位を取りきってしまい、その後、将来のことを考えようと思っていました。

そうした中で、現在北海道大学にいる宮園健吾先生の哲学の授業を受けた時に「哲学って面白いな」と思い、1年生の後期にドイツ留学を決心し、2年生後期の 2019年10月から1年間の予定で、ドイツに留学しました。

学んでいたテーマは「自由意志論」です。自分は自分で考えているのか、それとも生まれ持った遺伝子や脳みその状態、外からの反応に従ってコンピュータプログラムのように出力しているだけなのか、というような内容です。ジョン・スチュアート・ミル、デイヴィッド・ヒュームなどの思想を中心に研究していました。

いま振り返ると、大学受験の失敗があって落ち込んでいたので、とにかく自分の頭で考えて答えを出さないといけない、という哲学が自分の心の成長のために必要だったのかなと思います。

しかし、留学先で、ゼミの担当者等から哲学でお金を稼ぐことの難しさを教えられ、哲学で生きて行くのは厳しいと感じました。

それで司法試験の受験を考え、音声教材つきテキストを日本から送ってもらい、2020年2月に本格的に法律の学習を開始しました。しかし、学び始めたところでコロナに見舞われ、3月には留学を半年で中断して帰国することになりました。

総科ではすでに単位を取りまくっていたので、帰国後は履修する授業の数を制限し、司法試験の勉強を一日12時間する生活を続けました。コロナの間は外出ができなかったので、司法試験の勉強に専念することができました。

-1年ほどの勉強の後、司法試験予備試験に在学中に一発合格しています。合格率が低いですし、法科大学院の学生ですらみんな苦労していると聞きます。何がよかったのでしょうか。

廣瀬︓予備試験は3つの試験に分かれています。2021年の5月にマークシート式、7月に論文、11月に口述式を受験しました。マークシートと論文の合格率がそれぞれ2割程度なので、例年、論文まで合格できるのは全体の4%程度になります。

完全に隔離された世界で一人で勉強していましたので、実は一発合格が珍しいことすら知りませんでした。ネット上で見つけた勉強法を徹底的にやって、過去問を30周こなしました。「絶対ここで受かるんだ」という気持ちで取り組んだのがよかったのだと思います。コロナ下での広島大学という隔離された環境は、ひとつの勝因だったかも知れません。東京の大学だと、周辺に遊ぶところが沢山あり、いくらでも誘惑があると思いますが、広島大学では、自然に囲まれた環境であるため、ひたすら図書館と自宅を往復する生活で、勉強に打ち込めたからです。

また、広島大学の教員や同級生には、多大なサポートをいただきました。特に、卒論ゼミ担当の横藤田先生(憲法学)には、憲法や社会政策に関する示唆を頂戴し、オリエンテーションキャンプで一緒の班だった同級生の方々とは、定期的に旅行に行き、リフレッシュすることができました。

-ネットの情報は玉石混合。役に立つ情報はどうやって見極めましたか。

廣瀬︓とある司法試験予備校の発信する情報だけを信じて実践しました。勉強の仕方やモチベーションの上げ方だけを教える内容でしたが、一番印象的だったのは、とにかく合理的な内容の計画を立てて、それを着実に実行すれば絶対に合格する、ということでした。大学受験を振り返ってみると、いろんな参考書に手を出して消化不良になってしまったのが自分の反省点で、一つの方法に集中して実践するのが大事だと考えていました。

-司法試験合格後は司法修習をやって、2回試験(司法修習生考試)をクリアすると、裁判官や検察官になるか、民間の法律事務所に行くかという選択肢があります。裁判官や検察官になることは検討しましたか。

廣瀬︓予備試験の合格発表が4年生の2021年の11月にあり、翌年の5月に司法試験を受け、司法試験合格発表は9月です。その後11月から司法修習が始まります。

司法修習中に、指導担当の裁判官の方の公共的なマインドに共鳴し、「裁判官になりたい」と気持ちが傾きかけました。他方で、「国際的かつ公共的な仕事がしたい」という気持ちがずっと自分の中にあったところ、国際的な仕事をするチャンスがより多いのは弁護士であるため、公共的なマインドを持った国際弁護士になりたいと思い、弁護士となることを選びました。

現在は西村あさひに所属していますが、国際的な案件や、公共的な案件に関与する機会が多く、理想どおりの仕事をすることができています。

-日本最大と言われる今の事務所では同期は何人いるものなのですか。

廣瀬︓約50人です。同期の方々は情報処理能力が非常に高いですし、作る文章も分かりやすい。あとは、知らないことを取り繕うことがなくて、「知らないから教えて」とはっきり言える圧倒的な余裕を感じます。

同期の方々に刺激を受けながら、日々研鑽を積む毎日です。

-今はどんなお仕事を?

廣瀬︓独占禁止法と国際通商法を扱うチームに所属しています。

私のポートフォリオとしては、独占禁止法、国際通商法とコーポレートが各3分1ずつぐらいの割合です。

独占禁止法は、例えば企業と企業が結合する時の公正取引委員会への届出対応や、カルテルなど不当な取引に関する対応です。

国際通商法は、新しい分野なのですが、日本のハイテク技術が懸念国に輸出されないようにする、輸出管理規制などです。アンチダンピングという関税で地元の産業を守る政策に対応することもあります。日本政府が打つ政策への対応もあります。

コーポレートは、M&Aにおいて、対象会社のコンプライアンス体制がきちんとしているかを確認したり、株主と契約を締結する際の契約書を作成する、といった内容の仕事です。

-法廷に立つというよりもコンサルティングのようなお仕事ですね。

廣瀬︓そういった側面もあると思います 。例えばコーポレートで言うと、コンサルタント会社がビジネス上のリスク、財務上のリスク、税務上のリスクをチェックして、弁護士が法務上のリスクをチェックする、というように縦割りで業務を分担することもあります。

入所してから数ヶ月は研修期間ですが、研修期間が明けると、本格的な検討を任されるようになります。例えば、M&Aにおいて対象会社を精査(デューデリジェンス)する場面では、1年目に一定の分野の初期的な検討が期待されます。労務分野を任された場合、人事に関する社内規則などの関連資料を全部読んで、引っ掛かりそうな条文がないかや、未払残業代がないかを一つずつ確認し、気になった点があれば、依頼者への報告書に盛り込んでいきます。

もちろん、適宜先輩弁護士に相談できますし、依頼者への報告書は先輩弁護士のレビューを経た上で依頼者に提供することになりますが、一番時間をかけて原資料に向き合うことができるのは一番若手の弁護士であるため、ここをサボると、後から「なんでこんなやばい規定があるのに気が付かなかったのか」ということになる可能性があり、責任感を持って取り組む必要があります。

2年目になると、依頼者との会議を進行したり、依頼者から電話相談を受けて初期的な回答を行う場面も増えてきます。

-意外と早く仕事のステージが上がっていくんですね。

廣瀬︓案件を統括するのはパートナーと呼ばれるベテランですが、 オペレーションのレベルでは、3年目ぐらいの弁護士が中心となって案件を回す場面もあります。1年目は学ぶことばかりで、具体的な成果を出さなければいけないというプレッシャーを感じることはあまりありませんが、3、4年目の弁護士のシゴデキ感(仕事ができる)が強く、「この成長が求められているんだ」と感じることが多いです。

-弁護士といえど、20代の若者なので知らないことが多いと思いますが、プレッシャーは感じませんか。

廣瀬︓もちろん、20代の若者なので、知らないことは多くありますし、プレッシャーを感じることもあります。ただ、たとえば国際案件で、依頼者の疑問点を電話でヒアリングし、それを英語の質問文にまとめて各国の弁護士に照会し、その回答を日本語で整理して依頼者にフィードバックする、といったような業務は、必ずしも卓越した知識を有していなくても遂行可能です。そして、そうした作業を丁寧かつスピーディーに行うことで依頼者に実際に貢献できることも多くあります。

そのような経験を積み重ねる中で、自分なりに少しずつ依頼者の力になれる場面が増えてきていると実感していますし、日々、責任感を持って取り組んでいます。他方で、分からないことがあれば、周囲の先輩弁護士に相談すれば的確に教えてもらえますし、案件全体の統括や最終判断は経験豊富な弁護士が行っているので、一人でプレッシャーを抱え込むこともありません。その意味でも、安心してチャレンジできる環境で、少しずつ専門性を高めていけていると感じています。

-どのような時間の刻みでお仕事をされているのですか。

廣瀬︓クライアントから「海外でこういうビジネス展開したいけど、法律上どういう許認可が必要なのかを知りたい。ビジネス展開を想定している10か国について、法令調査の上、回答してほしい」といった依頼を受けることがあります。排水溝の詰まりを取るような仕事なので、回答期限が比較的タイトに設定されることもあります。また、大規模なM&A案件においては、独占禁止法やFDIに関する届出が必要な国が、多数に上ることもあります。

法令調査や届出の対象法域が多数に上る場合には、期限がタイトな対応事項がたくさんあって骨が折れることもありますが、最後にスッと全部取れて、予定日通りにディールできることになった時に「あー気持ちいい!」となります(笑)

-将来設計についてお聞かせください。

廣瀬︓国際的かつ公共的な仕事をしたいという希望は、かなり実現できていると思います。

政府系の案件が多く公共的なこともできるし、ビジネスサイドで国際的なこともできるので、すごく楽しいです。将来、さらに公共的な仕事がしたくなった場合は、出向の制度などを使って、国際機関で働いてみることを考えるかもしれません。

-夢をもっている広大生は少なくないはずです。どうしたら実現できると思いますか。

廣瀬︓すごく優秀なのに、自分で限界を決めているような人が多いなという印象がありました。2年生の後半ぐらいからフルで勉強して、インターンシップにも多数参加すれば、大手有名企業に採用される可能性は十分あるし、私の同級生にも、官僚になっている人は何人もいます。もっと高いところを目指してもいいんじゃないか、目標を低く設定しすぎているんじゃないかな、と思うこともあります。

そういう私自身も、就活では、最初は小さな弁護士事務所に応募したのですが、「君は四大事務所とか、もっと大きいところに応募しなさい」と言われて初めて、四大法律事務所に応募することにしました。今思えば、私自身、自分の置かれている立場に対して全くの無知でした。

-節目節目で、目の前にあるものをとことんやり切っているようです。そうしたやりきる系の性格は、親の影響も大きい気がします。

廣瀬︓両親共にとことんやり切るタイプなので、DNAはあると思います(笑)。小4の頃には、「ドイツ語検定を受けよう」という機運が家庭内にあって、公文のプリントを10枚こなすごとに丸をつけていき、目標に達したら500円もらえる制度や、「ドイツ語検定○級に受かったら○千円もらえる」という仕組みもありました。

その頃から、「一定のものを達成したら、一定の報酬が得られる」という資本主義的教育をされていたのかもしれませんね。額は全然資本主義じゃないんですが(笑)。

<お問い合わせ先>
広島大学東京オフィス
TEL:03-6206-7390
E-Mail:tokyo(AT)office.hiroshima-u.ac.jp ※(AT)は半角@に変換して送信してください。


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