<お問い合わせ先>
広島大学東京オフィス
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訪問日
2025年7月4日
センパイ
多嘉良 朝恭(タカラ トモタカ)氏
1999年 法学部卒業
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
1.被害予測ウェブサイト・アプリcmap(シーマップ)について
-多嘉良さんが開発に携わられたcmapとはどんなサービスですか。
多嘉良:全国各地の被災建物数をリアルタイムに予測して一般公開する世界初のサービスです(開設時当社調べ)。
気象庁は、毎日の天気や台風・豪雨・地震・津波など、あらゆる自然現象を精緻に観測・予測されており、社会も当社もその情報を活用しています。ただ、それらの自然現象により死傷者や建物の被害などが発生すると(=自然災害)、陸上で発生する人的・物的被害の実態把握が急務となります。
そこで、台風・豪雨・地震による被災建物数をリアルタイムで予測するウェブサイトcmapを2019年に開設しました。
気象庁の各種観測データを24時間365日取り込み続け、各市区町村の被災建物数を1時間ごとに計算しています。最大震度5弱以上の地震が発生した場合は、約10分後に被災建物数の予測結果を公開しています。台風による風災被害については、観測データ以外に、気象庁およびアメリカ・カナダの気象機関による全球モデル(地球全体の気象予測)を用いて、台風上陸・通過予定地域の被災建物数を最大7日先まで予測しています。
-cmapを見ていると、各地の大雨や河川の様子など、投稿動画や写真が表示されることもありますね。
多嘉良:被害予測ウェブサイトとして公開したところ、各方面から反響をいただくと同時に新たなご要望もいただきました。
そのひとつが、被災建物数の予測だけでは被災地の実態が分からない、という声でした。そこで、気象・災害・ライフラインに関するSNS投稿情報をcmap上で集約表示するサービスを2021年に開始しました。提携先であるJX通信社との取組成果です。

<cmapの概要>
2.cmap開設の経緯
-これまで社内ではどんなお仕事をしてこられましたか。
多嘉良:入社して5年間は、事故や災害に遭われたお客さまの被害を確認し、保険金をお支払いする業務を担当していました。6年目以降は本社勤務で、自然災害発生時も迅速なお客さま対応を実現するための各種取組を担当してきました。
2018年、台風21号が大阪に上陸しました。非常に強い勢力を保ったまま上陸したこと、上陸地点が大都市圏であったことから、多数の民家が被災し、風水災としては国内損害保険史上最大の被害をもたらしました(注:約1兆678億円、日本損害保険協会)。
上陸前に、私が「被災されたお客さまから○万件の連絡をいただく可能性あり」と見込みを立てたのですが、結果は見込みの4倍以上で桁違いとなり、コールセンターの応答率が連日低下するなど、お客さまに大変ご不便をおかけしてしまいました。
実は、台風が非常に強い勢力(最大風速44~54m/s)を保ったまま、東名阪のような大都市圏を直撃したケースは前例がなく、2018年の台風21号による記録的な被害は損害保険業界にとっても衝撃的でした。
そこで、前例のない規模の自然災害にも対処できるよう、横浜国立大学の筆保弘徳教授への相談や、当社のビジネスパートナーであるエーオングループジャパン株式会社との協議を経て誕生したのがcmapです。
-すごい短期間で公開にまでたどり着いたのですね。
多嘉良:台風研究の第一人者である筆保教授の知見、エーオン社が長年研究してきた被害予測のアルゴリズムや建物データベース、そしてさまざまな自然災害に対応している当社の経験および保険金データ、これらの組み合わせにより実現しました。

<2028年台風21号の建物被害予測>
3.新たな取り組み
-台風・豪雨・地震以外で、cmapが対応している災害リスクはありますか。
多嘉良:2022年から2024年まで、記録的な降ひょう被害が3年連続で発生しています。直径の大きなひょうが降ると、対象地域に所在する自動車も建物も短時間で多数被災しますが、直近3年の降ひょう被害は、同年に発生した台風や豪雨災害をはるかに上回る規模でした。
これを受けて、2024年6月、降ひょうを予測し注意喚起するアラートサービスをcmapアプリで開始しました。
-2021年10月には広島大学とも包括連携協定を提携しています。
多嘉良:広島大学と当社は、包括的な連携推進に関する協定を締結しました。
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社と包括的な連携推進に関する協定を締結しました
包括連携協定の一環で、人工衛星画像や航空画像の解析技術などで実績多数の三浦弘之教授と共同研究を開始しました。その成果のひとつが、台風で被災した地域の人工衛星画像や航空写真から、建物の屋根の損傷状況を解析するという画期的な取り組みです。
cmapは市区町村単位の件数予測であり、それよりも踏み込んだ実態把握が可能となります。

<画像解析による被災規模の推計イメージ>
-今後の取組について教えてください。
多嘉良:ちょっと大きな話になりますが、CSR(Corporate Social Responsibility)は企業がその社会的責任を果たすうえで重要な取組です。
しかし当社はCSRをより戦略的に推進するため、社会貢献を事業の中心に据えて社会的価値と経済的価値を同時に創造するCSV(Creating Shared Value)という考え方にシフト済みです。
さらに、データやデジタル技術を活用したDX(Digital Transformation)で、「リスク情報をリアルタイムに提供するマップ(cmap)」や「事故を未然に防ぐテレマティクス自動車保険」のように、保険本来の機能を超えた新たな価値提供と社会課題の解決を目指しています(CSV×DX シーエスブイ・バイ・ディーエックス)。
話を元に戻すと、今後も、「損害保険会社がこんなサービスまで手掛けているんだ」と皆さまから驚かれるようなサービスの提供に取り組んでいきます。