懐かしのスーパーカブ

私の父は、祖父が地元で始めた本屋に長年勤めていた。若い頃、車の免許を取ったらしいが、社用車で事故を起こしたり、あまり車の運転には向いていなかったらしいこともあり、ホンダのスーパーカブを愛用していた。

通勤はスーパーカブで10分ほど。お得意先への配達の相棒も、もちろんスーパーカブだ。遠くから、カタカタとエンジンの音が近づいてきたら、父が帰宅した合図。長い年月の間には、転倒するなどして何度か父が負傷しているが、スーパーカブは多少の修理ですみ、また元気に稼働していたと記憶している。

周りを見渡すとどこのご家庭にも車があり、カーシェアなどない当時、車がないことにやや不便さと気後れを感じなくもなかったが、家族4人で出かける時に、スーパーカブの父を先頭に、母と兄と私が自転車で続く光景を、自分でほほえましく感じていた。

父は高齢になり、病気も患っているので、いつも玄関にあったスーパーカブは、今はもうない。それでも、実家に帰省すると、そこにあったスーパーカブを懐かしく思い出す。

(北池 ゆかり 文学部 1998年卒 大学勤務 職員)


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