ホンダのつばさ

人生の節目でホンダは自分につばさを与えてくれた大事な存在だ。

高校3年生、進路に悩み熊本に残るべきか飛び出すべきかを悩んでいた頃、高校もソコソコ、成績もソコソコ、中の中で目立ちすぎず隠れすぎず、そんな平坦な人生がこれからも続くのだろうと思っていた。今考えると人生の分かれ道に立っていたと思うのだが、当時は勿論そんな事を考えているわけもなく、ただ毎日が過ぎていた。平坦な毎日に不満があったわけでもないのだが、少しだけ社会に反抗してみたくなり、原付の免許を取った。「高校はダメだと言っているけど、俺は免許証を持っている」という、少しだけ大人な自分に夢を見た。そんな日々の中、親友がホンダの『マグナ50』を買った。河川敷でのお披露目会で「お前も乗ってみなっせ?」と親友に言われ、低めのシートを跨いでアクセルを回した瞬間、自分のこれまでの世界が変わった。

「自由だ」

3年間連れ添って日焼けしている自分のオレンジ色のママチャリとは違う。右手一つでさっきまでいた世界から一瞬で自分が連れ去られてしまった。それからというもの、当時親が会社から貰ってきたお古のパソコンに家でかじりつき、買えるバイクを探した。そして、初めて買ったバイクが、中古の2000年式『モンキー』だ。高校卒業までの半年間、彼とは色々な所に一緒に行った。前に住んでいた家、じいちゃんの家の近くにある天草の海、ちょっと遠くにあるショッピングセンター、どれもこれまでは親に連れて行ってもらっていたものだが、自由に行けることに喜びを感じた。

「自由は楽しい」

この事が一つのきっかけになり、自分は地元で生きていく平坦な道から飛び立つ事を決めた。
人生の節目にホンダは自分につばさを与えてくれた。

(金子亮太 経済学部 2010年卒 コンサルティングファーム勤務)


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