チンパンジーの母親と赤ちゃん

チンパンジーの研究を生業としており、チンパンジーの出産を何度か見てきた。そして、私自身の子どもも2人いる。チンパンジーは、いま生きている動物の中で人間に一番近い動物だ。だから、チンパンジーの赤ちゃんや育児と、人間の赤ちゃんや育児とで、似ていると思うことが多くある。そしてもちろん、違うところもある。今回は、チンパンジーと人間とで、違うところを2つ書いてみたい。

チンパンジーのお母さんは赤ちゃんをずっと抱っこしている

これはもう書いて字のごとしで、チンパンジーのお母さんは赤ちゃんをずっと抱っこしている。赤ちゃんが生まれてから生後3か月頃までは、母親は子どもを24時間一日中抱いている。生後3か月というのは、チンパンジーの赤ちゃんが自力で動けるようになる時期だ。

チンパンジーの赤ちゃんも、人間の赤ちゃんと同じように、生後すぐには自力で動くことができない。もしも床に寝かせたら、動けずゴロンと横たわったままになる。ただしチンパンジーは、人間のように、布団を敷いて赤ちゃんを寝かせたりはしない。

野生のチンパンジーは森の中で暮らしている。チンパンジーのお母さんは、生まれた子どもを抱いて一緒に動き、木に登ったり下りたり、木から木へ渡ったりしながら、木の実などを食べて過ごす。もしもお母さんが赤ちゃんから手を放してしまうと、赤ちゃんは木から落ちてしまう。そうならないように、ずっと抱いている。ただ、チンパンジーの赤ちゃんの手の力は強くて早く発達するので、生後間もなく、赤ちゃんの力だけでお母さんにしがみついていられるようになる。

チンパンジーの赤ちゃんは、お母さんの胸に抱かれて、好きなように過ごせばよい。お腹がすいたら、目の前にある乳首をいつでも口にくわえて、おっぱいを飲めばよい。眠たい時には眠ればよい。おしっこやウンチも、お母さんに抱かれたままする。当然、お母さんの体に赤ちゃんのおしっこやウンチがかかる。お母さんは、迷惑そうではあるが、怒ったりはしないし、そもそも怒ってどうなるものでもない。

チンパンジーのお母さんはたいへんだ。

チンパンジーの赤ちゃんはほとんど泣かない

これもまた書いて字のごとしで、チンパンジーの赤ちゃんはほとんど泣かない。ずっとお母さんに抱かれて、いつでもおっぱいは飲めるし、そもそも泣く必要がないのだろう。泣くのは、何かのことでお母さんの体から離れてしまったときくらいだ。もちろん、木の上でお母さんから離れると落ちてしまうので、実際にお母さんの体から離れるは、地上にいるときなど安全な場面でお母さんの手が緩んでしまった時くらいだ。

それに対して、人間の赤ちゃんはよく泣く。チンパンジーのようにお母さんが抱っこしていたら泣かないかというと、そうでもない。お母さんやお父さんといった親や養育者が抱いていても泣く。おっぱいを飲めれば泣かないかというと、そうでもない。けっこう好きにおっぱいを飲めるようにしても、泣くときは泣く。人間の赤ちゃんは、特に理由がなくても、ただ泣きたいから泣く、のではないかと思ってしまう。赤ちゃんの自己主張のひとつとして「泣く」という行動をするのかもしれない。

人間の赤ちゃんは昼夜構わず突然泣き出したりするので、その世話をするとどうしても親のほうは睡眠不足になる。人間の子育てもたいへんだ。

ということで、チンパンジーと人間とで、どっちもどっち、それぞれ違う苦労があるということだ。
逆に、チンパンジーと人間とで似ているところもある。それについては、また機会があればこのコーナーで書いてみたい。

(パンジー田中兄 大学勤務 1992年広大附属高卒)

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