心も遺伝するというので子育てについて考えてみた

遺伝って、あるよねってことは、見た目や音楽的センス、運動能力など、明らかに親から受け継いだものがあるのは当たり前だと、あなたは考えているはずです。神のごとく頭のいい人はいる、それもだれもが認めるところでしょう。

でも「遺伝する能力には知的能力もあって当たり前じゃない、ほら、あの人のお子さんとか」なんてところに触れると、間違いなく炎上してしまいます。昔から学問的にもじつに触れにくいテーマではあるのですが、じゃぁ本当のところはどうなんだってことに研究者の立場から解説している書籍に最近出会いまして、いろいろ子育てのヒントを見つけることができます。それが『能力はどのように遺伝するのか』(安藤寿康著 講談社ブルーバックス 2023年)です。

著者は心理学や遺伝学の研究者、一卵性双生児の類似性から、人間は何がどう遺伝しているのかを分析します。

結論をざっくりいうと、身体的形態と同じく心も遺伝している、そしてそれは遺伝子に書き込まれているので生涯変わることはないってことです。細かいことにこだわることも、新しい取り組みには人一倍慎重になるビビリな性格も変わることはなく(って私のことですが)、もし性格が変わったように見えるとしたら、それは周囲の環境に合わせて自分の行動を修正しているからに他ならないのです。

そうなると気になることが出てきますよね。

それがやっぱり「頭の良さは遺伝するのか」。

はい、この炎上ネタについては、正しくもあり間違いでもあると言えます。同書によると、言語的知性、空間的知性のほか、外向性、神経質といった性格的なものも遺伝するといいます。そこから子育てに引きつけて考えれば、知力は遺伝によって作られるパーソナリティの結果であって、遺伝するのは知力を作り上げる素地の部分という仮説に行き着きます。そりゃそうですよね。聖徳太子じゃあるまいし生まれてすぐ言葉をしゃべることができるわけでもないし、小学生が量子力学を理解できるはずもない。

根気強くひとつのことに打ち込めるかとか、新しいことに興味を持てるかといった学びに適した性格や記憶力、空間認識力が備わっていれば学びを深め、結果的に知力に繋がると考えるのが自然です。

アスリートの素地を受け継いでアスリートになる、芸術の素地を受け継いで芸術家になる。もちろん、親からの教えやさまざまな経験をする機会に恵まれ、本人が人一倍努力した末の「遺伝」であることは疑いようもありません。本人の努力なく知力が受け継がれたってことはあり得ないことは改めて確認しておく必要があります。

となると、「子供の個性に合わせて最適な教育をしたらいい」って、これまた百万回も語られてきた当たり前にたどり着くのですが、じゃぁどうしたらいいかってことには正解が見えにくい。集団教育である学校には求めることも無理だし、塾に期待するにも、時間的物理的な限界がある。よほど能力のある教育者に個人教授を頼むのがいいのでしょうが、経済的に可能な家庭はごく少数でしょう。

そもそも子供の心の内、本当の向き不向きってだれが分かっているのか。どうやったら知ることができるのか。

ここで遺伝研究の教えが浮上します。

あなたの子供は父親母親の心を50%ずつ受け継いでいます。今の子供の年齢や行動パターンがどうあれ、本当の向き不向きは100%、あなたか、あなたのパートナーの向き不向きです。

自分が夢中になれたものは、50%の確率で子供も夢中になれます。夫婦で100%です。自分が苦手であったことも同じです。また、今に至って「ああしておけばよかった」「これをやらせてほしかった」という後悔もまた、二人合わせれば100%の正解にたどり着けます。

つまり、子供によって最適な道を見つける方法は、自分とパートナーの心の奥底に問いかけることなのです。虚心坦懐、夫婦で自分の成長過程を振り返り、何をしたかったのか、何をどうすべきかを洗い出してトライする。50%という極めて高い確率で、最適な答えにたどり着くはずです。親にしか分からないのだから、親にしかできない。じつは子育ての出発点にこそ親の役割はあると言えるんじゃないでしょうか。

そういえばうちの子、細かいことにこだわりが強くてビビリなんだよなぁ。

(チノ 出版社勤務 1985年総合科学部卒)

「広大東京リアル部」のページには、「広島大学公式ウェブサイト管理・運用指針」に基づき、東京オフィスが以下の基準を満たしていると判断した記事を掲載しております。

<投稿記事のルール(掲載できないもの)>
・個人や大学の誹謗中傷記事
・人権侵害や名誉棄損にかかわるもの
・Hateスピーチ
・品位の劣るもの
・その他常識的に不適切と思われるもの
(2018.1制定)

<お問い合わせ先>
広島大学東京オフィス
TEL:03-6206-7390
E-Mail:tokyo(AT)office.hiroshima-u.ac.jp ※(AT)は半角@に変換して送信してください。


up