一官僚の就活論

はじめに

コラムをご覧いただいている皆さま、ありがとうございます。私は経済27―昨年の3月に広島大学を卒業し、今は東京・霞が関の某省庁に勤務しております。タイトルで自称「官僚」と言っておりますが、執筆者はお肉とお酒とカラオケが好きな、どこにでもいる(?)20代OLですので、肩の力を抜いて読んでいただければと思います。

今回、「働くこと/働いている自分から見た学生時代の自分」というテーマをいただきましたので、僭越ながら「なぜ働くのか?」という根本の問いに対する私の考えから、マクロで見た就活生の皆さまが置かれた現状、自分自身の経験まで、とりとめもなく書き連ねました。非常に長くなってしまったので、最初にまとめを記載します。

なぜ働くのか?・・・就職はあくまで自己実現のための通過点。まずは「自分が人生で何を成し遂げたいか」を考える必要がある。

就職活動の現状・・・(1)withコロナ(2)変化の時代(3)情報の非対称性、という現状を踏まえ、就職活動を行っていただきたい。

伏魔殿から身近な存在へ~就活のセレンディピティ~・・・私が霞が関で働くことになった経緯を踏まえた、「イメージではなく実際に情報を見聞きする大切さ」「就活では何が起こるかわからない」という知見。

公務員志望の皆さまへ・・・同じ公務員を目指す皆さまへのメッセージ。

以下、お時間許す方はしばしお付き合いいただければ幸いです。

なぜ働くのか?

就活生の皆さまは、何のために辛く苦しい(時には楽しい)就職活動を行い、社会人になったのちには、何のために働くのでしょう。生きるため?お金を稼ぐため?家族を養うため?地位や名誉のため?…答えは人それぞれかと思いますので、ご自身が正解と思うことを信じて就活に邁進してほしいのですが、私の答えは「自己実現のため」です。

現代においては、一企業に就職し、骨をうずめるのが働き方の全てではありません。「好きなことして生きていく」YouTuberもいれば、学生時代から起業してしまう人もいます。憲法によって国民に勤労が義務付けられているとはいえ、働かないという選択肢もあり得ます。

かつて日本が高度経済成長を遂げ、重厚長大の産業に力を入れて国力を拡大させていた時期には、労働力の確保が最優先事項とされ、画一的で従順な労働者が搾取されていたという側面があったことは否定できないと思います。しかし、あらゆる可能性が開かれている今、あくまで就職は自己実現のための方法の1つであり、通過点であると考えます。

そこで、就活生の皆さまやこれから就活を始める皆さまには、どうすれば希望の会社から採用通知をもらえるかという小手先のテクニックや、面接で話せるガクチカを絞り出すことだけではなく、「自分が人生で何を成し遂げたいか」を考えていただきたいのです。考えて考えて考え抜いてください。そうして得た答えに対して、今度は「それを成し遂げるために『仕事』がどんな意味を持つか」を考える必要があります。そこに就活、ひいては働くことの意義を見つけることができるのではないでしょうか。

また、この「自分は何をしたいのか」という大局観に基づいて行動していれば、自ずとご自身の中に柱ができて、そのために学生時代何をすべきかも見えてくるでしょうし、面接官に話せるストーリー構成もできてくるでしょうから、結局就活にも役立つのではないか、というのが私の考えです。

就職活動の現状

この項では、私から見た「就活生の皆さまが置かれた現状」と、それに対する私の考えについてお話しします。一方、私は現在、就職活動に何ら関わっているわけではありませんので、実情にそぐわない部分がございましたらご容赦ください。

(1)withコロナ
新型コロナウイルス感染症は、未だ東京などの都市圏を中心として、感染者数を増やし続けています。他方で、コロナによって変わらざるを得なくなった社会は、必ずしも悪い方向にばかり変化したわけではありません。

その1つに、ITの利活用があります。私の職場では、会議や打ち合わせをオンラインで行う機会が増え、週数回、在宅勤務をすることが半ば義務付けられました。就活生の皆さんも同様に、合説やOB・OG訪問、面接を、オンラインで行うことが多くなったのではないでしょうか。

これは、広大生のような地方学生が、都市圏や大学から離れた地域で就活する上においては、チャンスとしか言いようがありません。地方学生の就活で大きな障壁となるのは、交通費や宿泊費といったコスト面かと思います。全員が一律でオンラインという土俵に立てば、このバリアは取り払われることになります。

就活生の皆さまには、この千載一遇のチャンスを、ぜひ生かしていただきたいと思います。

(2)変化の時代
前述のコロナに限らず、現代は短いスパンで目まぐるしく状況が変化する時代です。数年前にはこの世に存在しなかったものが、今は当たり前のように使われています。また、想像もできなかった天変地異に見舞われることもあり、その度にハード面・ソフト面ともに強靭化のためのアップデートを余儀なくされます。

こうした時代にあっては、「○○ができる」といったスキルは必ずしも武器にならず、むしろ「今は何もできないけれども、いざというときは頑張れます」と言える方が強いかもしれません。もしくは、「得意の○○を、あれとこれとそれに活用できる」というのも強みになるでしょうか。

何が起こるかわからない世の中、逆に言えば、何が起きても対応できる能力が不可欠となり、あらゆる状況を想定する癖を身につけておく必要があるのではないかと思います。

(3)情報の非対称性
経済学において、市場原理を破綻させる原因の1つに「情報の非対称性」というものがあります。市場は「売り手」と「買い手」の活動によって成立しますが、売り手が買い手に十分な情報を与えない場合に、買い手は最適な購買選択ができない、ということを指します。私は、就活市場において、この「情報の非対称性」が生じているのではないかという懸念を抱いています。

就活市場では、売り手が就活生、買い手が企業を指しますが、この市場においても、相互に正しい情報を伝え、収集する必要があります。例えば、企業が自社の良いところばかりを就活生の前で並べ立てて、実際入社してみたら組織風土と馴染まなかったとか、就活生が正しく自己分析をできておらず、実際採用してみたら職種とマッチしなかったという事例は、枚挙に暇がありません。

従って、就活生の皆さんには、自分の正しい姿を企業に伝えるための「自己分析」と、ある企業の採用担当の美辞麗句のみを真に受けるのではなく、OB・OG訪問を通じてリアルな声を聴くことや、時にはインターネットなどから情報を得ることで、「多面的に企業に対する理解を深めること」を徹底し、就活市場の失敗が生じない努力をしていただきたいと思います。

伏魔殿から身近な存在へ~就活のセレンディピティ~

この項では、私の就活生時代の話と、そこから得た知見の話をします。要は「百聞は一見に如かず」「人間万事塞翁が馬」ということです。

かつて田中真紀子元外相は、ある省庁を指して「伏魔殿(※)のようなところ」とおっしゃいました。この発言の真偽はさておき、霞が関の省庁って、なんとなーく遠い存在で、ワイドショーで聞くのは高官のスキャンダルや、マスクに給付金にGoToといった施策の批判ばかりなのは事実かと思います。私も例に漏れず、「霞が関」は雲の上のような場所で、「官僚」は得体の知れない存在に思えていて、まさか自分がそこでその人たちと働くことになるとは、思ってもみませんでした。

私は大学入学当初から公務員志望ではあったものの、元々地元広島で働く気マンマンだったのです。特に市役所に就職したいと思っていたので、インターンシップにも行きましたし、志望動機固めのために、その他の組織のインターンや説明会にも行きました。その一環として、今の職場のインターンにも参加したところ、良い意味で「霞が関」「官僚」へのイメージが覆されることとなり、就職先として急に身近な存在に感じられてきて、「せっかくなら目指してみようか」と思うようになったのです。その後、公務員試験などを経て無事就職することができ、今は忙しいながらも刺激とやりがいのある毎日を過ごしています。

このように、漠然としたイメージは、実際に自分の目で見てみることによって覆ります。そして、事態が思いもしなかった方向へ進むこともあります。皆さまにはぜひ、最初から視野と可能性を狭めず、様々な情報を実際に見聞きして、充実した進路選択をしていただければと思います。

(※)伏魔殿:悪魔がひそむ殿堂の意。転じて陰謀や悪事などが絶えずたくらまれる場所を指す。(wikipediaより)

公務員志望の皆さまへ

今回、コラムの執筆にあたって、東京オフィスの職員の方に「せっかくなので公務員志望者にも読んでいただけると嬉しい」ということをお願いしました。上記の項ではいわゆる「就活」について書いたつもりですが、同じ公務員を目指す皆さまへのメッセージも、こちらでお伝えできればと思います。

今回私は、公務員という立場から何を書くべきか考え、「働くこと」についてまずマクロの視点から捉えるよう努めました。公務員の仕事は、国や自治体という立場から見えるマクロな課題を、ミクロな政策に落とし込んで解決へ導くことであり、その政策を着実に実行することであると考えています。

また、民間企業が誰も担わない業務を遂行することで、住民の最低限の生活を守ることも重要です。これらの業務は「何のためにやっているのか」が明確でないと務まらないことばかりです。そのため、皆さまには、冒頭の項で述べた「働くことの意義を見つける」ことを、重ねてお願いしたいと思います。

また、公務員が置かれた状況は、年々厳しくなっていると言わざるを得ません。確かに「働き方改革」の意識は浸透しているものの、9時5時というのは幻想と思った方が良いです(もちろん、組織や部署によっては、定時退庁できるところも多くあるでしょう)。SNS等の発達により過激化する批判、多発する災害といったことへの対応も求められます。ご自身の生活は大事ですが、それと同等、時にはそれ以上に住民を大切にしなければならない職業です。その覚悟を持つ必要があります。

上記を踏まえた上で、なお公務員を目指されて就職された際には、金銭だけに留まらない国民・市民の豊かさのために働くことのできるこの唯一無二の職業に、きっとやりがいを感じていただけると思います。公務員試験など、民間就活にはない大変さもありますが、頑張ってください。応援しています。

おわりに

最後までお読みいただいた皆さま、ありがとうございます。

仰々しいタイトルを付けてしまいましたが、このタイトルには「民間就活をしていないのに恐縮です」「本当は『一公務員の就活論』にしようかと思ったものの、そうすると公務員試験について書いてあるように思われてしまうかな」という、悩ましい自身の思いを込めたつもりです。

的外れなことも多々書いてしまったと思いますが、少しでもこれを読んでいただいた皆さまのお役に立てれば幸いです。ご質問、ご感想などあれば、ご連絡くださいませ。

冒頭でもお伝えしたとおり、就職は人生の通過点です。皆さまの人生に幸多からんことを祈念いたします。

(もりの 官公庁勤務 経済学部 2019年卒)

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