エントリーシートで他の就活生を圧倒してみませんか

 

 

 両足の裏が痛くて引きずりながら歩いています。土踏まずの前側付近は表皮が浮き上がり、一歩を踏み出すごとに激痛が走ります。なぜこんなことになったのかと言うと――。

 
 6月1日午前10時に神奈川・小田原城址公園を出発、ゴールの東京・築地へ向けて、翌2日午前9時11分まで、23時間11分かけて夜も寝ずに100キロ歩きました。「第1回東京エクストリームウォーク100」というイベントで、525人が参加し、375人がゴールしました。10人中3人は途中リタイアという過酷なウォークでした。
 

前半は他の参加者の顔色をうかがいながら

 
 応募多数で参加者は抽選となりました。知人らとともに申し込んだのですが、私以外は落選して単独歩行となってしまいました。

 
 スタート。まるで競歩のような足どりの人、運良く友だちと参加できておしゃべりしながら歩く人、草履でリュックを持たない軽装の人、登山に行くかのような重装備の人……。好天に恵まれた土曜の朝、多彩な参加者が足どり軽く小田原城を後にしました。

 
 30キロ付近は江ノ島を右手に、西日を浴びながら海岸の遊歩道を10キロ近く歩きました。スタートから7時間ほどが経ちましたが、このとき何を思いながら歩いていたのかというと「前を歩く60歳代とみられる女性に離されずに行くぞ」「若いカップルはベンチで休んだ。追い越すチャンスだ」「公衆トイレが見えて来たけど、列をなして歩いている10人余りの集団から脱落したくないので、もうちょっと我慢しよう」。こんな「人より先んじたい」という「煩悩」のかたまりのような頭の中です。それが、なんて愚かな考えなのか。悟るのが60キロを超えた横浜の辺りでした。

 
 序盤で競うように歩いていた人たちとは、とうにはぐれてしまいました。日付が変わるころ、夜間に安全確保のためリュックに付けているLEDのバッチの点滅が、100メートル先にかろうじて見えました。他の参加者との間隔は大きく開き、ひとりぼっちの歩きとなりました。昼下がり、他人を気にしながら歩いていたことの無意味さに「はっ」と気付きました。自分がゴールすることだけが目的であり、他人はまったく関係ない。自分の体力と気力だけを信じて歩くしかないことが、やっと分かったのでした。
 

ひとりだけど、ひとりではない

 
 100キロの間には6つの休憩所が、道中の公園や神社に設けられています。飲み物やパン、バナナ、お菓子のおもてなしがあります。まるで砂漠の中のオアシスです。スタッフのみなさんが笑顔で励まし、拍手で出迎えてくれます。夜になると、常に心が折れそうなのですが、「孤独なんだけども、多くの運営スタッフに支えられている」と実感します。

 
 コースを迷いそうな交差点では、夜通しスタッフが立っていて、的確な指示で誘導してくれました。後半は「煩悩」が抜けかけているので、自然と涙があふれ、ただただ「ありがとうございます」「お疲れ様です」と頭を下げて、感謝の気持ちで歩き続けたのでした。
 

ラストはみんな同志になって

 
 多摩川を越えて東京都に入るころ、夜は明けて残り20キロです。夜間は離ればなれだった参加者が、休憩所で数人のかたまりとなり、再び歩き始めました。誰からともなく話かけ、住まいや趣味の話をして盛り上がりました。「足が痛い」「眠い」のはお互い様なので、そんな話題は出てきません。「しんどい」けど「楽しい」。この気分は100キロ歩いた人にしか分かりません。

 
 実をいうと、私はこれまでにも100キロウォークに参加した経験があります。11回出場して完歩は5回でした。今回が12回目で完歩すれば「勝率5割」という目標がありました。いままで「苦痛の顔」や「半分眠りながら」というゴールが多かったので、「笑顔でゴールする」という目標も掲げて歩きました。

 
 9時11分。ゴールでは大勢のスタッフに加えて、ひと足先に完歩した人たちの姿も。とびっきりの笑顔でテープを切ってウォークを終えました。
 

たった2日間で、あふれるエピソードを

 
 全く個人的な週末のお話を、長々と読んでいただきありがとうございました。他にも「どの靴で歩くか」「雨具はいるか。天気予報を詳細にチェック」「6月はじめの夜間、防寒具は必要か」「日焼け止め、足のマメ防止クリームを選ぶ」「事前の訓練」……と、ここには書いていないエピソードが山ほどあります。

 
 エントリーシートに盛り込む話で悩んでいる就活生のみなさん。趣味の欄に単に「散歩」と記したのと、100キロウォークを濃密に書き込んだのとでは、企業の採用担当者はどちらの人を選ぶかイメージしてください。自己PRで「あきらめない粘り強さ」とするのと、「100キロ歩きました」というのでは、どちらの人に関心を抱くでしょう。

 
 就活生のみなさんへ。希望の企業から内定をもらえるよう、道沿いにあったお地蔵さんにお祈りしながら歩きました。みなさんのご健闘をお祈りしています。

 

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