ジョブ型採用を誤解しちゃいけない

新聞紙面に頻繁に登場するようになってますよね。ジョブ型採用。働く人の希望とスキルをきちんと評価し、働きに応じた報酬で報いましょうって、新しい時代の理想の働き方、みたいにマスメディアは新しい人事制度を持ち上げることに余念がありません。

でもね。ちょっと考えたら分かることですが、そんなにいい制度なら、なぜこれまで日本企業に浸透しなかったのでしょうか。高度成長期と比較するのは古すぎるにしても、平成からの30余年、理想の働き方であるのなら、経済低成長に苦しむ企業と社員の救世主になっていたはずです。

表向きにはいろいろ言っていますが、裏の目的を企業自身が口にするはずはありません。

そんなに外れていない企業の本心を推測すると、ジョブ型採用によって総人件費の抑制、事業の再構築(本来の意味でのリストラクチャリング)がしやすい組織作り、人材の流動化、人材採用での競争力強化(なにしろ時代の最先端の制度で志願者に夢を持たせることができる)という経営的なメリットです。そういう経営課題に直面せざるを得なくなっているのです。

働く側からみると、メリットとしては「やりたい仕事ができ、自分でキャリアを構築できる」「最初から高給を手にすることができる」があります。これは間違いありません。

一方で、「中高年になると将来に亘って収入が減少傾向になる」「事業の切り売りに付き合わされて社名も経営者もコロコロ変わる」「自分のスキルを評価されて採用されたと思いきや、現場ではまるで違っていた」なんてことが、間違いなく起きます。

ひとつふたつ、誤解を解いておく必要があるでしょう。

ジョブ型雇用ということが、ある程度機能したとしましょう。そこでジョブ型採用されたアナタを評価する会社の目は、「歯車としての性能」であり、最後の最後まで「歯車」としての機能を高めることを求められます。歯車なんですから、大きな歯車にはなれるでしょうが、歯車を回すことは求められません。歯車を回す職能とは、歯車としての職能とはまったく別だからです。

そしてジョブ型の報酬には成果が反映されます。ここで考えておかねばならないのは、採用された時点でのアナタの専門性、専門分野における成長の期待度ってのは、歳を重ねるごとに陳腐化していくってことです。

たとえばIT業界。20年前と現在とでは、使用するプログラミング言語やシステムの環境はまるで変わっています。20年前のスキルはほぼ役に立たなくなっているのです。マスメディアでは20年でアナログからデジタルへの移行で収益の構造がまるで変わってしまいました。古いやり方に固執していては会社がつぶれてしまいます。いま新聞社や出版社、将来的には放送局もそうだと予想されますが、経営危機がささやかれる会社が増えているのは、そういうことです。

どんなスキル、どんな業界にいたところで、ジョブ型のスキルと報酬のピークは40歳前後までと考えるべきです。

ほとんどの企業はある程度年功的な給与体系になっています。だからこそ「働かないおじさん」問題が出てくるのですが、ジョブ型で成果給にしておけば、会社は給料をスキルの低下に合わせて減らすことができます。高給取りの中高年の部分に手を突っ込めれば、総人件費を大幅に減らすことができるのです。

それならばと昇進して、役職者としての評価を得ようにも、多くの人にはジョブ型採用の壁が立ちはだかります。「スキルを生かして転職したらいかがでしょう。だってジョブ型採用なんでしょう?」ってね。

ジョブ型採用ってのは、そういうことです。メリットがあるのなら、デメリットもあります。どんな状況になっても柔軟に対応しスキルの向上を怠らず、逆境にも折れない強い心があること、それがジョブ型への適性でしょう。自分はどうなのかを見極めることが大切です。

(出版社勤務 編集者 総合科学部1985年卒)

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