正しく間違っているESの最初の1行

通信会社で技術系の採用担当者が、うんざりした顔をしています。「送られてくるESのほとんどは、ピンとくるところがない」。結果、数行読んでスルーするのだとか。つまり、志願者はESの数行だけで退場処分になっていて、それに気づいていないのです。たかがESの書き方ひとつでチャンスを失うなんて、なんとももったいないことだと思いませんか。

ここでESとはどんな位置づけのものなのかを確認しておきます。

ESを出すあなたにとっては、一次選考をクリアするための唯一のアピール手段です。練りに練って渾身の文章を作り上げ、その力作は一字一句きちんと読んでもらえるものと信じて、合格の知らせを心待ちにします。

ではESを受ける側にとってはどうか。

学生に人気が高い有名企業だと、競争率は軽く100倍を超えます。100人のうちの一人二人を採用するためにすべての応募者に平等にエネルギーを使うことは、まるで非効率です。少なくとも10人に一人くらいの母数に絞り込んでからじっくり採用に取り組みたいと考えるのが普通でしょう。その10人に一人を選ぶ、逆にいえば10人から9人を排除するために使われるのがESです。

だから10人のなかでの1人として生き残るためには、9人よりも抜きんでて「おぉっ」と思わせなければなりません。最初の数行を読んでピンとこなかったら、その時点で時間の無駄と判断され、残りは読んでもらえません。あなたの採用は簡単に終了になるのです。

そんな雑で乱暴な選び方で良いのか、もっとちゃんと内面を見るべきじゃないのか。あなたはそう不満に思うかも知れません。しかし、仮に将来の社長、会社を救うスーパーマンを見逃したところで、それは会社が損するだけの話で、応募者の人生に責任を持つ必然性など何もないのです。

少なくともあなたは、書類選考のハードルを突破せねば、何も始まりません。スルーされないESを書くことが必須なのです。

では、採用担当者がうんざりする最初の数行はなにか。いくつか典型例を紹介しましょう。

「●●大学××学部▲▲学科の誰それです」

これって、ESの最初にある大学名、氏名欄に書いてあるんじゃないですか?最低限目に留めてもらえる1行目を完全に無駄使いしています。

世の中にあふれかえる広告を参考にしてください。商品を売り込むのに「東広島市に本社がある●●産業です」から始まるものなんてありませんよね。「世界初」とか「あなたをストレスから解放します」とか「これこそ季節の味わい」とか、訴求すべきポイントを全力で投げ込んできます。

「学生時代にホームランを5本打ちました」「友人の何倍もの挫折に直面することで泥沼の人生を送ってきました」「大学図書館所蔵の本を0.1%ほど読みました。1,000冊ですけど」「卒業のための単位をのべ1年半で取ったほど勉強好きです」。

あなたの売り込み文句こそが一行目に書くべき事です。

「御社の経営理念に共感して貢献したいと思いました」

あのねぇ、そもそもそうじゃない志願者っているんでしょうか。つまり他の人とはなにも差別化できない、まるで空虚な1行がこれです。

もちろん、社員として会社の利益に貢献することが第一に求められるので重要なことではあるのですが、採用する側は、貢献の先にある可能性に期待しているのです。もちろん、就活生が仕事のリアルなんて知っているはずもないので、あなたが語る将来像なんて絵空事の大言壮語でしかないのは採用側も百も承知。決してバカにすることはありません。しかし、そこにあなたの仕事観、人生観が色濃く現れるものです。

「100万部のベストセラーを5冊生み出します」「20代の生活を一変させるサービスを生み出します」「●立からスカウトされるだけの研究をやってみせます。でも転職はしません」。あなたが思い描く、いわゆるアウトカムをこそ書かねばなりません。

「強磁性絶縁体におけるクーリッジ誘起定常散乱のマキシマム分光を研究しています」

特に技術系のESにおいて研究テーマを問われる質問で、こうモロに専門用語、論文のタイトルそのものを書き込んでくるケースはとても多いようです。

いいですか、いくら採用担当者が技術系であっても、自分の専門分野以外の用語はまったく理解できません。「それってどういうこと?」と問われたら説明すればいいとでも考えているのかも知れませんが、ESにおいては問いかけることは不可能。あなたは自分の研究について何のアピールもできないまま、スルーされる運命になります。

多少の知的素養はあるという前提でいいのですが、自分の両親とか高校時代の恩師に説明するくらいのスタンスでかみ砕き、それが世の中にどのようなインパクトを及ぼすのかまでを説明しないと、じつは何のアピールにもなっていないのです。

「学生時代に●●というサークルに参加していました」

理系文系を問わず、ガクチカで課外活動を書く機会は多いですよね。ところが、これも残念な事例がとても多いのです。

サークルや学生団体に所属したって、よほど特殊なものでないかぎり、あなたを語っていません。どんな人間でも手を挙げて所属することはできるからです。そのテーマで自分を語るには、どんな学びがあったのか、内面の変化が起きたのか、感動や達成感を感じたのかというポイントです。その意味では極端な話、サークルとか学生団体の活動内容など詳しく触れなくてもいいんです。

「子供の無限の可能性を目の当たりにして教育の重要性を再認識しました」「いろんな友達に裏切られたり助けられたり、さまざまな経験をして人間関係の難しさを知りました」などなど、ガクチカで何を得たのか、それこそが1行目に書いておくべきことなのです。

全般的にいえることは、ESにおいてはWHATはあなたを語る材料にはなりません。でもついついWHATに力を込めてしまいます。

勘違いする理由もまた明らかです。というのも、大学での学びの過程で、レポートや論文、試験の論述式答案を山ほど書かされますよね。それは、必ず読まれることが前提で、しかも事実のみを論理だてて書くことが求められます。つまりWHATが重要な要素です。

ESを大学のレポートと同じ作法で書いてしまっている、それが正しく間違っている理由なのです。

同じ文章でもESとレポートはまるで別物だと考えねばなりません。WHY(なぜそうしたのか、なぜそれに取り組んだのか)とHOW(どうやったのか、どう考えたのか)、アウトカム(どんな成果が出るのか、何が起きるのか、世の中がどう変わるのか)こそが、あなたのアピールポイントです。

WHYとHOW、アウトカムを最初の1行でビシッと書く、それがスルーされないESの鉄則です。

(出版社勤務 編集者 総合科学部1985年卒)

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