(後編)週末商学部:企業再生は誰が何をするの?

はじめに

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(前編)週末商学部:企業再生は誰が何をするの?

前回は、企業再生には「止血」と「ターンアラウンド」の2つのフェーズがあること、また前者について、P/L項目改善のコストカットとB/S項目テコ入れの債権者対応について簡単にご紹介しました。

今回は、企業が借金を返せない状況に陥った際に救い(=金融支援)を求める相手としてどのようなタイプの機関がいるのか、また、金融支援の功罪とコロナ禍で起きてしまうかもしれないことについて、解説します。

決して明るい話題ではないのですが、一人でも多くの学生に響き、学究心の刺激になれば幸いです。

金融支援は誰が何をするの?

企業が資金調達を行う際、一般には事業計画を示すことで調達の必要額とリターンの量・時期を説明し、それに納得した人が”スポンサー”としてお金を出すこととなります。クラウドファンディングに参加したことのある方であれば、どこかのプロジェクトに対して計画や夢に投資する、という感覚を経験されたのではないでしょうか。

金融支援は字面こそお硬いイメージがあるものの、その意味する所は苦境に陥った企業を対象に貸付金(=企業にとっては借入金)あるいは純資産の形で資金を拠出する、ということに過ぎません。

ではまず、借入金(Debt)について。こちらは前提として企業が新たな金融機関からお金を借り入れることがすでに不可能となっている場面とします。つまり、借り換えができないなか、既存の借入について借入先金融機関に対し、何らかの譲歩を頼むこととなります。その譲歩とは2つ、「弁済金額を減らす」か「支払いを先延ばしにする」です。

支払いの先延ばしは、実務では”リスケ”と呼ばれ、例えば弁済期限を5年先延ばしにする、等を指します。リスケと同時に金利負担をなくすといった条件も依頼することがあり、銀行としては、「弁済が見込まれるだけマシ」という状況下で飲み込んでくれます。

借入金の減額は、”債権放棄”や”棒引き”と呼ばれます。半沢直樹をご覧の方は耳に覚えがあるかと思いますが、例えば1,000億円の借入金を500億円まで減らすことを指します。差額の500億円について、銀行は損失が確定することとなってしまうため、相応の社内稟議が必要となります。

少し脱線しますが、実務では「貸し手責任」という単語があります。企業が返せなくなるような金額規模で貸した銀行側が悪い、という論理です。私は最初聞いたとき違和感を抱いたというか、「そんなこと言ったらそもそも誰も何も貸してくれなくなるのでは...?」と思ったものですが、半沢直樹のセリフに「貸さぬも親切」とあるのを見て、銀行員とは貸したことの非を受け止める矜持をもっている方々なのだと認識させられました。

次に、純資産(Equity)について。こちらは借入と異なり、弁済や利息支払の義務が生じない形で資金拠出するが、その代わりに経営権や利息以上のハイリターンを得る、という方式です。株式やそれに準じるオプション等を対価に得ることとなりますので、ハイリスクを好むファンド等が行います。

もう少し噛み砕くと、安く買って高く売る自信のある人が関与し、ファンドであれば自分たちで経営しようとしたり、あるいは同業他社等が既存設備を割安で獲得する目的で参加したりします。少し文脈は異なるものの、不正問題で株価が下がった三菱自動車を日産自動車がグループに収める、等がわかりやすい事例かと思います。

以上、金融支援の当事者についてさらっと述べましたが、思い出していただきたいのが、企業はもう単独で借入金を返せない状況に陥っているわけで、果たしてその返せない借入金残高について誰がどのように落とし所を探るのでしょうか。

ダメージコントロール

企業は、工場閉鎖や人員削減といった身を削る施策によって規模縮小を余儀なくされるものの、事業として残すべき価値がある場合には、再スタートを図りたいと考えています。
銀行は、貸し手責任のもと、企業の負担を超えた貸付を行ってしまった責任から一部債権放棄やリスケをしてもいいと考えています。

Equityスポンサーは、その企業の将来について株主責任(=株価がゼロになっても文句を言えない)を追うものの、過去について責任を問われるいわれはありません。

すると、Equityスポンサーが資金拠出をしてもいいと思う水準まで企業サイズと借入金額のサイズをちょうどいいところに収める、ということが全体最適となります。
実際の事例を挙げると、東芝はそのままの形で残すわけにはいかなかったため、メモリ事業部を切り出し・売却して、そこで得た資金を借入金の弁済に回す、というスキームが選ばれたようです。

このように、誰が身を切るかの議論のことをダメージコントロールと言います。

それでは、この企業・債権者(銀行)・スポンサー候補の話し合いはどのように進められるのでしょうか。

まず、「私的整理」と呼ばれる方法は、”それぞれ個別に承諾を取り付ける”ことを意味します。ダメージコントロールを含む一定の再建ストーリーを描いたあとに、個別契約を結び直す形で各銀行と話し合いを取りまとめます。個別契約といっても同時に銀行を集めればよいので、バンクミーティング(金融機関だけを集めた会議)を開催し、合意を取り付けることとなります。

ドラマ半沢直樹の場合、タスクフォースチームが作った再建案を銀行たちは否定しました。この通り、一方的なストーリーの押し付けで話がまとまることはほとんどありませんし、そもそも銀行も一枚岩ではないことが多いです。貸し付けている金額の桁が違うとか、銀行も3,4番手となると十分な担保をもてておらずメイン行と対立する場合とか、紛糾するケースは多いです。

そうなると、「法的整理」と呼ばれる手段をとることとなります。一般に民事再生法や会社更生法と呼ばれるもので、JALの場合は会社更生法を申請することとなりました。

それぞれの詳細は述べませんが、これらは交渉を円滑にすすめる手段として全ての権利を一旦裁判所に委ねることになります。全ての権利ということで、金融機関からの借入債務にとどまらず、仕入債務や給与・家賃なども裁判所の管理下となります。

話し合いの主導権は裁判所と裁判所が選ぶ管財人が握るため、個別の銀行の主張が通ることはなく、話し合いは円滑に進みます。しかし、全ての財産が管理下におかれるということで、備品としてボールペン一本買うのにも裁判所の許可が必要となるような、相応に身動きのとりづらい状況となってしまいます。

なお、JALの場合は、法的整理が望ましいと判断されたことが後に語られています。私的整理はあくまで対銀行との個別の交渉に閉じてしまい、日本の翼といわれた大企業がぶくぶくと膨張してしまっていた側面があぶり出されなくなるため、広く日本の人々に知ってもらうためにも会社更生法を適用した、という言及があります。

(この点、ドラマの半沢直樹ではタスクフォースチームが高圧的に債権放棄(=私的整理)を迫っていたため、史実と異なる脚色された部分かと思います)

私的整理であれ法的整理であれ、このようにダメージコントロールの議論が前に進むことで「止血」が完了し、新たに参加したEquityスポンサーのもと、企業は再出発します。

ここで、前編で記載した「ターンアラウンド」の話につながっていきます。

金融支援の功罪

以上、非常に簡素ではありますが、企業再生の全体像についてご説明しました。

それでは、勝者こそ正義の資本主義経済において、果たして企業再生は必要なのでしょうか。特に、時には公的資金の注入もありうる金融支援を行ってまで、企業再生は行われるべきなのでしょうか。

企業再生は、一義的には、一社の消滅から波及して生じる社会全体の損失を防ぐために必要です。例えば東芝は海外子会社の損失で債務超過に陥りましたが、それで東芝を消滅させてしまっては、国内工場やその取引先を起点に影響が広範囲に広がり、日本経済全体にブレーキがかかってしまうことが危惧されていました。

しかしながら、国内でもベンチャー企業の勃興が目覚ましい通り、若い会社をどんどん芽吹かせ、大きな木に育てていく支援も必要です。GAFAのような巨大IT企業が日本から現れるようにするためには、商習慣・文化や法規制の改革はもちろんのこと、助成金など金銭的インセンティブによる後押しも必要と思います。

それにもかかわらず、既存の雇用を守ることに固執して赤字補填を目的に政府が助成金を注入し続けるのは、全体最適から逸脱していると言えます。ゾンビ企業という言葉があり、実態の需要が消えているなどの本来は規模縮小したり会社を消滅させたりするべきような場合に、助成金という血液を輸血され続けることで、死んでいるのに生かされている状態の企業を指します。

実は、コロナ禍について、不況の程度がリーマンショックよりも深刻な事態となると予測する専門家もいます。

大きな違いの一つが、ダメージコントロールを受け止めたり時には交渉を決裂させたり、適度なガバナンスを利かせるべき金融機関が、リーマンショック時よりも政策等を背景に機能低下に陥っており、企業側の再生手続着手が遅れるとされているためです。

航空・旅行業界ほど目に見えて需要消滅に陥っていないまでも、”ニューノーマル”と呼ばれる行動様式の変化(例えば、在宅勤務が増えて外食しなくなった/スーツを着なくなった/化粧をしなくなった、等)から需要の多くが消滅した、という市場も当然存在します。

従来から「就社よりも就職」と言われる向きはありましたが、その流れが一層高まった、加速したのではないかと思います。

自分の会社が倒産するかどうか、それは誰にも予測できないわけですが、職種経験は裏切りませんので、私からはやりたい仕事重視の就職活動をおすすめします。

終わりに

今回は、テーマとしてはかなり重い、後ろ向きなものをお送りしました。
しかし、後の祭りは避けてほしいというか、私自身がコンサルとして倒産案件に携わった際に企業のリストラを目にしていますので、そのときの危機感を思い出し執筆に至りました。

企業サイドとしては再生実務に携わりたくはないところですが、コンサル・弁護士など特定業界で企業・事業再生を専門にしている組織/会社が存在します。

また、再生ばかりとまでは言わなくても、危機対応の融資などは今後地方でも増えていくことが想定され、地方銀行でも再生実務に携わる機会はあると思います。

もしも再生実務に興味をもった学生の方は個別にご連絡いただければと思いますし、私が現職にいる間は中途の方もご連絡いただければ何かできますので、何でも聞いてください。

今回は完全にドラマ半沢直樹を見たのがきっかけでこのテーマを選びましたが、テーマの希望がございましたらご連絡いただければと思います。
前編・後編合わせて8,500字、ご精読ありがとうございました。

参考図書

(1)三枝 匡『V字回復の経営―2年で会社を変えられますか』日本経済新聞出版,2013.
(2)引頭 麻実『JAL再生―高収益企業への転換 』日本経済新聞出版,2013.
(3)大村 健ほか『企業再生の手順と実務がよ~くわかる本』秀和システム,2013.

<補足>
再生案件に関する名著かどうかではなく、本稿執筆にあたって私が読んだことがある/参考にしたものを取り上げています。ご了承ください
(1)文庫版の方が安いですが、増補改訂版の方が筆者の理論を学べるためおすすめです
(2)タスクフォースチームの当時の考えが示されるなど興味深い内容が多いものの、専門用語が多く初学者は(3)を先に読むことをおすすめします
(3)論点が網羅的に書かれており、本稿よりも学究心を刺激することと思います。もちろん実務者の方にとっても有用と思います

(イノウエ コンサルティングファーム勤務 戦略コンサルタント 総合科学部2014年卒)

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