正しく間違ってしまう業界選び

就活相談で一番難しい(とワタシが思っている)ことって、何だと思いますか?
じつは業界選びです。これだけは正解がない。相談してきた人に指南のしようもない。それでも就活生は、なにかしら業界を選ばなくてはならない。
冷静な顔をして相談にのっていますが、本心ではどうするんだろと冷や汗をかいているのです。

なぜかというと、新卒の学生には、ほとんどありとあらゆる業界に可能性があるからです。
ほとんど、としたのは、たとえば法学部を出ても医者にはなれませんよね。弁護士もになるにも資格が必要です。それでも死んだ気になって勉強すれば、医学部に入り直すとか、難関試験を突破することができます。
なので「自分が向いている業界ってなんでしょう」と言われても、当てずっぽうでは答えられますが、それじゃ他はないのかといえば、ぜんぜんアリなんです。

人には向き不向きがあるじゃないか、あなたはそう思うかも知れません。
でもね、30歳半ばくらいになってから同級生に会ってみたら分かります(ってか、20代のみなさんには分かるわけもないのですが)。どんな業界で社会人になっても、10年も仕事をしていれば見事にその世界に染まっています。つまり、向き不向きは、「ある」のではなく「なる」ものです。社会人としての成長って、業界や職種に適応するように成長するってことなのです。それと比べれば、大学生時代までにできあがっている向き不向きなんて、誤差の範囲です。

では、みなさんの先輩、大先輩たちはどうしてきたのかというと、聞けば格好つけていろいろ理屈を言い出すかも知れませんが、本当のところは試験の成否含めて偶然の出会いです。

 知人が、その業界で働いていた
 なんとなく募集広告が目にとまった
 ゼミの先生から紹介された
 日程が空いていたので説明会に参加したら興味が湧いた
 第一志望にしていた会社に振られて、時間も限られていたので、どこでもよかった
 テレビでその会社のことが紹介されていた

そんな偶然の出会いでも、入社後は、ちゃんと社会人生活を送り活躍しているので、人間の適応力には驚かされるばかりです。

就活本が教えるように自己分析をやって(本来は職業経験がなければ自己分析の結果なんて当てにはならないのですがね)、「自分にはこんな仕事が向いている」と業種を絞っていく。親しみのあるサービスや製品を提供する業界にあこがれを持つ。就職人気企業ランキングで高い評価を得ている企業だから安心だと志望する。

就活生はどんな業界にも可能性があるのだから、とりあえずの方向を「えいやっ」と決めなければ始まりません。その意味では自己分析もあこがれも、業種選びのひとつの正しい方法です。
ただし、それは「向いている業界」でもなんでもなく、「スタート時点でとりあえずご縁のあった業界」でしかないことを忘れてはいけません。
「自分に向いた業界はこれだ」。こう思いこんでしまうことが、正しく間違っている業界選びです。
最初から志望業界にこだわりを持ちすぎると、あなたの目の前に転がっている幸運、輝く未来を見過ごしてしまうことになりかねないからです。もったいないですね。

どこでもいいとするならば、お薦めの業界ってあるのだろうか。
かなり虫のいいことを考えたあなた、いい質問です。じつはあります。
少し手を動かしてみましょう。

あなたが知っている企業を手頃な紙に書き出してみてください。恐らくは100も出てこないはずです。

でもね、世の中で優良と認められた株式上場企業だけで4000以上あるんですよ。そのなかでも日本を代表する(プライムと名付けられた市場での上場企業のことですが)企業は500です。

特に素材や機械、精密など一般消費者になじみのない業種(BtoBと括られることが多いです)にも、世界市場でトップシェアを誇る「超」優良企業がゴロゴロしています。時代の最先端であり、世界を相手にしたビッグビジネスです。社会が直面している問題を解決しているのも、こんな企業です。

そしていまあなたが紙に書き出した会社の中には、ほぼ登場しません。
就活生の興味の対象にならないために、これらの企業は今も昔も新卒採用に苦労をしています。就活のシーズンになると、素材や部品など普段なじみのないメーカーが面白CMをバンバン流しているのは、そういう背景があるのです。とても残念なミスマッチです。
ということでBtoB企業の面白CMを見かけたら、その業界に興味を持ってみたらどうでしょう。

他にもいろいろ方法があります。
日本経済新聞など経済メディアで頻繁に取り上げられる「あなたが知らない」企業がありませんか?

親しい先生や身近なビジネスマンに「どんな技術やサービスが注目されているのでしょうか」と聞いてみるといいでしょう。大規模な合同会社説明会に行くのはどんな人にもオススメですが、そこでは、会社の名前も見ずに空いているブースに座ってみることです。

担当者と目が合った、でもぜんぜんオッケーです。
パソコンで4ケタの数の乱数を発生させてみましょう。その数字の株式コード番号の会社をちょっと調べてみる、そんなことでもいいのです。

なにをアンタは無茶苦茶なことを勧めているのだ、と思われるかも知れません。
でもね、職業人のキャリアは「偶然」という要素で成り立っているってのは、スタンフォード大学の高名な社会心理学者が提唱して、人材開発の世界では常識となっている理論(planned happenstance theory)です。それは大意、「人生は偶然で成り立っている。ただし偶然は自ら求めていくことで、可能性が大きく広がる」と教えています。

就職活動は、突き詰めて言うと、「運と出会い」です。自分の努力が実を結ぶのは、偶然の機会を増やすことです。

(出版社勤務 編集者 総合科学部1985年卒)

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