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(2018.1制定)
なにも今に始まったわけじゃありません。えらそーに人生語ってドヤ顔しているおっさんおばさんたちが学生だったころも変わりなく、就活学生には寄らば大樹の陰、安定志向が色濃く漂っております。そして、その安定志向ってどうなのと疑問の声がいつも聞こえてきます。
じつのところ、安定志向って悪いことなのでしょうか。
「あんまり褒められたことじゃないから考え直してみたら」と主張する人がよく持ち出してくるのが、企業の時価総額ランキング(要するに株価と株式数のかけ算で算出される企業につけられた値段)の変遷です(平成最後の時価総額ランキング。日本と世界...その差を生んだ30年|STARTUPS JOURNAL (startup-db.com)。
1989年、日本の景気が頂点に達し、後にバブルと呼ばれる時代のトップ50と直近のそれと比較をすると、金融機関、メーカー、電力会社など32社もランクインしていた日本企業が、いまはゼロ。「ほらねっ、安定なんか幻想なんだよ」って論理です。今時点をみて判断するのは、正しく間違っているでしょと、言わんばかりです。でも、問題はそこです。ワタシにしたら、安定志向って何が悪いのか、いまだに理解ができずにいるのです。
ここで、時価総額で優劣を判断することについて考えてみます。
株価には、いろんな要素がまじりあってきます。株式市場の資金の流れはそれぞれの国によって違いが出てきます。日本が光り輝いて見えれば、世界中から資金が流れ込んできて株価を押し上げます(まさしく1989年はそうでした)。また、株価は将来予測に基づく期待値で左右されます。
土地の価格が高騰し、日本型経営が高く評価されていた1989年前後は日本株への期待値がピークとなっていったのですが、ここ数年はITや半導体産業への期待値が高く、日本型経営は古臭いものとされています。実態とはあまり関係ない要素で株価は大きく動くのです。
その意味で、「失われた30年」と言われる経済の低迷が続いた日本において、株価に現れる企業の評価が相対的に低くなるのは当然です。
しかしそれは、安定的かどうかとは関係のないことです。
1989年のランキングを見てください。登場する日本企業32社のうち、経営破綻した企業は日本長期信用銀行1社のみです(しかもその後、事業は別の銀行に引き継がれています)。また、日本企業と同じく、上位にランクされた外国の企業も多くがランキングから外れています。代わりに上位を独占しているのがITや半導体関連企業です。
つまりこのランキングに現れているのは、国ごとの経済や産業の評価の経年変化なのです。上位の企業は安定的な企業よりも高い成長を遂げただけで、古いランキングの企業は相変わらず安定的です。
ただし、ここで強調しておかねばならないことは、企業が存続しているからあなたの安定志向を満たすことができるのかというのは、違うということです。かつての時価総額トップ企業がいまも生き残っているのは、各社とも必死で変化に対応したからに他なりません。
ランキング上位にある金融機関は、それぞれ合従連衡を繰り返し、いまは4グループに再編されています。総合商社は安く仕入れて高く売る、口銭商売から事業の育成、投資へとビジネスのスタンスを大きく変えて、一時期ささやかれた「商社冬の時代」(つまり産業としての行き詰まり)を乗り切りました。貿易摩擦の元凶とされた自動車メーカーは、輸出から海外生産へと大きく舵を切りました。冷蔵庫や洗濯機などの白物家電が中心だった家電メーカーの主力製品はデジタル関連になっています。カメラや写真フィルムのメーカーは、画像処理や化学の技術を生かしてこぞって医療分野や製造装置分野へと進出しています。逆に、世界最大の写真フィルムメーカーだったコダックは、デジタルの対応に後れを取ったため倒産してしまいました。
つまり、働く個人のレベルでみると、仕事はちっとも安定してはいないのです。安定志向の幻想を指摘するなら、そこです。
その企業であなたが評価されるか、仕事で自己実現ができるか、ひいてはその会社に勤め続けることができるのかという点については、まったく安定的ではなくなっているのです。安定を自分の仕事に求めるのか、企業に求めるのか、それがこの30年で大きく変わった「安定志向」の中身と言えるのではないでしょうか。
安定的に見える大手企業に入るメリットは、企業の存続期待や恵まれた待遇以外にもあります。特に20歳代の初期キャリアの形成時期においては、充実した教育システムが用意され、さまざまな業務の経験ができ、優秀な人物との出会いが期待できます。少なくとも雇用不安に悩まされることはありません。同じ企業に勤め続ける時代ではなくなっているのは確かですが、社会人としてのスタートを切る場所としても恵まれているといえます。
時価総額ランキングに戻りましょう。直近の上位にランキングされている企業のこと、10年前に予想できた人がいるでしょうか。そもそもそれらの企業が当時、存在しなかったかもしれません。将来予測は難しくなっています。これから先も同じです。10年後20年後にどんな企業が評価されているのか、予想は不可能ですが、恐らくはいま時点での上位企業は入れ替わっているだろうと考えるのが自然です。30年前のランキングと同じく、いまのランキングで将来を予測するのは「正しく間違う」ことに他なりません。
同じように、あなたが安定を求めて入った企業が、近い将来にどんな事業をてがけているのか、あなたがどんな仕事をすることになるのかも、まったく分かりません。
予測不能なこれからの時代、安定を得るためにできることは変化に対応する、その力をつけておくことだと、ある人事コンサルタントが言っていました。わたしもその通りだと思います。
しかし変化はどのように起きるか分からない、それがじつにやっかいなところで、事前に準備できることとは、知的な基礎体力をつけておくことしかありません。好奇心を失わないこと。勉強を怠らず、特に苦手な分野を放置しておかないこと。そして、社会の動きに常に目を配ること。要するに新聞くらいは毎日読んでおけよ、週に1度は書店や図書館をのぞいてみろよってことです。
日頃から準備して瞬発力を養っておけば、変化はチャンスにすらなるはずです。
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