支援を受けた学生のご紹介

Vol.18 STARTプログラム「タイ」

名前: 大瀬良 渚

所属: 工学部第4類建築プログラム 2年生

広島大学基金より、STARTプログラムへ参加。
メ―ファールアン大学(タイ、チェンライ)へ2022年9月19日~9月29日まで留学。

※START: Study Tour Abroad for Realization and Transformation
海外経験の少ない学部生が海外の大学を訪問し、現地学生との交流や日本と異なる文化・環境を体験することで、国際交流や留学への関心を高めることを目的としたプログラムです。長期休暇中の実施と、参加費用の一部を広島大学基金からの補助により、より多くの学生が留学する可能性を広げます。

タイ北部のチェンライ県にあるメーファールアン大学(MFU)は、タイ王立政府の支援を受けて1998年に設立された自治公立大学であり、タイでは国際大学としても知られています。2021年にTimes Higher Educationによってタイで第1位にランクされました。この大学では、ほとんどのコースで英語を主教材として使用しており、幅広い分野で英語を母国語とする講師が多く在籍しています。MFUは、800ヘクタール以上の広大で自然豊かな環境の中に、敷地に最新鋭の建物が建ち並んでおり、学習するのに適した環境が整っています。そしてキャンパス内には食堂や売店、コンビニ、病院や郵便局、銀行等も備えられており、学外に出なくても日常生活ができるようになっています。
MFUには近隣のアジア諸国をはじめ、ヨーロッパやアメリカなど様々な国から来た多くの留学生が在籍しています。広島大学(HU)とは2016年から部局間協定を結んでいる大学です。

今回、私たちがMFUに滞在したのは8日間です。以下ではそれぞれの日にちに分けながらタイでの留学生活を振り返りたいと思います。

1日目: オープニングセレモニー、オリエンテーション、アイスブレイク

アイスブレイクの様子

初日はMFUとHUの学生交流がメインでした。アイスブレイクの時間として、現地の学生とタイの音楽にのせて椅子取りゲームなどを行ったり、MFUの学生にキャンパスを案内してもらったり、タイの家庭料理であるガパオライスを一緒に作りました。
特に印象に残っているのは、自己紹介後に名前を考え合ったことです。初対面でまだお互いについて何も知らない状態の中、それぞれタイの学生には日本語名を考え、日本の学生にはタイ名を付けてもらいました。タイの方々の本名はとても長いことが多く、両親から本名とは別にニックネームをつけてもらう文化があり、本名は正式な場面のみで使い、学校や職場などの日常の場面ではそのニックネームを使用するそうです。

2日目: チェンセーン、ゴールデン・トライアングル、アヘン博物館の訪問

ゴールデン・トライアングル

この日はフィールドワークとしてタイの古都のメーサイ、ミャンマー・ラオスとの国境であるゴールデン・トライアングル、そしてアヘン博物館などを訪問しました。
チェンセーン国立博物館では仏教に関する展示物や様々な少数民族の衣装といった展示品を鑑賞しました。アヘン博物館では、かつて麻薬の密売地帯であったゴールデン・トライアングルの歴史を学び、アヘンを吸うために使う道具、アヘン中毒者に関する生々しい展示の数々を鑑賞しました。この1日を通して様々な側面から国境を眺め、たった数メートルしか離れていない隣国でクーデターが発生したという事実を目の当たりにし、私は日本にいると感じることのない国境の存在を強く意識するようになりました。

3日目: MFUでの講義、レクリエーションアクティビティ

3日目はMFUの先生方による「過去から現在に至るタイの社会について」「それぞれの文化から考えるグローバル公民権について」という2つの講義を受けました。講義中には生徒間、そして先生と生徒との意見交換やディスカッションの時間が多く設けられており、ただ座学のなかで知識を得るだけではなく、話し合いを通してそれぞれの考えを深めることができました。
またタイの学生に教えてもらいながら、タイのアルファベットについても学びました。さらに、グループに分かれた日本人学生が、「日本の伝統文化」「広島の歴史」「日本の遊び」に関するグループプレゼンテーション、レクリエーションを行いました。

レクリエーションの様子

4日目: ドイトゥン訪問、メーサイ郡の訪問

この日はフィールドワークとしてドイトゥン地区とメーサイ郡を訪問しました。ドイトゥン地区はチェンライ県にありミャンマーとの国境を接する地域に位置しています。この地域の人々は、監視が行き届かない国境付近で長年、麻薬のアヘンを盛んに栽培し、密輸することによって生計を立ててきました。
こういった貧困による悪循環を断ち切るための事業として、タイでは麻薬栽培から茶葉やコーヒー豆、マカデミアナッツ栽培への転換を支援する王室プロジェクトが立ち上げられました。地域住民の生き方、働き方の選択肢を増やすことを目標として、タイの前国王の皇太后さまが先導してこのプロジェクトを行ってきたことから、いかにアヘンの栽培が人々に大きな悪影響を与えていたのか、タイでも大きな問題となっていたのかについて考えさせられました。

5日目: ワット・ロンクン、シンハーパーク、チェンライナイトマーケット訪問

ワット・ロンクン

5日目はまず初めにホワイトテンプルとしても知られている純白の寺院「ワット・ロンクン」を訪問しました。この寺院は、チェンライ出身のアーティストによって設計されました。寺院のいたるところに天国と地獄が表現されている点、タイの伝統的な仏教寺院を重んじながらもアニメのキャラクターモチーフのモニュメントを周囲に配置するなど、現代らしいデザインを取り入れている点が大きな特徴です。

また、夜には現地の学生とともにナイトバザールに行きました。コロナ下ではあるものの、日本では考えられないほど多種多様な屋台が出店していたり、舞台で人々が踊っていたりと、とても活気にあふれていました。
様々な文化を背景として持つ人々が暮らしている国だからこそ、その多様な文化を受け入れ、うまく取り入れようとしていることを感じました。

6日目: ドイ・メ―サロン訪問、講義・グループワーク

茶葉の選別の様子

この日はドイ・メ―サロンを訪問しました。タイ最北の地、チェンライの山間部にはいくつもの村があります。ドイ・メ―サロンもそのうちの1つであり、主に華人と少数民族が生活しています。ここでは、第二次世界大戦後に中国の内戦で敗れた兵士たちと、以前からそこで生活をしていたタイの人々とが長年共存してきました。こういった背景からこの地域では中華街のような街並みが見られ、中国から伝えられたお茶の栽培が有名です。

午後には茶園と茶畑を訪問し、どのようにして茶葉が栽培され、出荷されるのかを実際に見ながら学びました。特に印象に残っているのは、茶園での作業のあらゆる工程が手作業でなされていたことです。山間部で暮らす人々の中には十分な教育を受けることができない人もおり、そういった人に働く場を提供するための方法として、今なお意図的に機械の使用がされていないのだと知りました。

7日目: 講義・最終プレゼンテーションに向けた準備

プレゼン資料

7日目はタイの学生も含めて3つのグループに分かれ、最終プレゼンテーションに向けた準備を行いました。今回の留学での目的は、「チェンライで、国際開発、地域開発、教育開発に関する講義・視察・振り返りを通して、SDGsを考えるとともに、現地の学生との交流を通して他者の共感を得る“国際協力マインド”を鍛えること」でした。

日本人・タイ人といった国籍に関係なく、それぞれのグループが学んだことを元にしながら意見を出し合いました。出会ったばかりのころとは違い、お互い積極的に議論し、テーマを決め、プレゼンテーションの資料を作成しました。

8日目: 最終プレゼンテーション、MFUでの研修終了

MFUでの集合写真

8日間で学んだことを元にプレゼンテーションを行いました。現地の先生方から質問を投げかけられたり、そのことからさらに学生間で意見を深めていく中で、知らなかったタイ国内の政策やこれからのタイの在り方について情報を得ました。私がSDGsの達成につながるような活動・取り組みが行われていると感じた訪問先でも、さらに長い目で見ると観光地化したことで新たな問題が生じる恐れがあるということも分かりました。

また、この日は全プログラム日程を終了した証として修了証書をいただきました。最後の夕食時には手紙やプレゼントを渡してくれたり、空港まで見送りに来てくれたりと、MFUの学生が最後の最後まで本当に親切にしてくれたことが印象に残っています。

将来の展望

こうやって改めて振り返ってみると、タイへの留学期間は決して長いものではなかったけれど、とても充実した留学生活だったと思いました。

日本で暮らしていると触れなかったかもしれない、チェンライの歴史を知り、その文化を肌で感じることができました。
そしてこの留学を通して特に現地の人々の温かさを感じました。異なる文化の中で、コミュニケーション手段として英語を使用するとなるとやはり、戸惑いや不安があります。しかし、たとえ文法が間違っていても、単語が分からなくても、何かを伝えようとすれば相手も一生懸命に理解しようとしてくれます。育ってきた環境の違いから異なる文化背景を持っていても、友情を築くことは可能なのだと実感しました。

ここ数か月の目標としていたタイへの留学を終えたことで、私自身の中で1つの区切りがついたように感じるのと同時に、この留学が新たな目標へのスタートになったように思います。今後、長期留学に挑戦し、私が専攻している建築について海外で学びたいという気持ちがより一層強くなりました。そのために英語はもちろん、建築に関する知識も十分に身につけることが必要だと思います。短期留学と比較すると、長期留学では比べ物にならないほどの不安や、想像もできないような困難があるかもしれません。しかし、せっかくできた目標だからこそ、ただの夢で終わらせるのではなくこれから実現するために具体的に計画を立てて日々努力していきたいです。

寄付者へのお礼

この度はSTARTプログラムに参加させていただき、ありがとうございました。
本来、海外への留学には多大な費用がかかりますが、このプログラムの一部経費を広島大学基金で支援していただいたおかげで、経済的負担を大幅に軽減して留学することができました。私にとってタイ留学の機会を与えてもらえたことは、とても幸運なことだと思います。今回の留学で得た経験を糧にして、今後も一層修養を積み、自分の目標に近づけるように励んでまいります。

最後に、ご支援いただいた方々に改めてお礼申し上げます。

 

 

(2023年3月取材/基金室)


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