支援を受けた学生のご紹介

Vol.19 「ゲノム編集技術を活かして、生命現象の謎を解き明かしたい」

名前: 浮田 有美子

所属: 大学院統合生命科学研究科 博士課程後期1年

広島大学基金による「卓越大学院プログラム奨学金」を活用

「ゲノム編集」という言葉をよく耳にしますが、どんなことを学ぶのですか?

私が所属する「ゲノム編集先端人材育成プログラム」は、文部科学省の「卓越大学院プログラム」事業に2018年度に採択されています。「ゲノム編集」とは、生物が持つゲノム上の特定の塩基配列を狙って変化させる技術です。食料・エネルギー・病気の治療といった人類の根源的な問題を解決するために、産業利用を積極的に進める必要があるとされています。

プログラムでは、ゲノム編集の基礎から応用に至る知識を修得することにより、ゲノム編集を使いこなせる人材、ゲノム編集を産業へ直結させる人材の育成を目指しています。

私がこのプログラムで学ぼうと思ったのは、ゲノム編集の知識や高度な技術を習得できるからです。座学だけでなく、実際に培養細胞にゲノム編集ツールを導入するような実践的な演習も充実しているため、自身の研究に活かせると思い履修を決めました。私の研究内容は、生命現象の謎を解明する基礎研究です。ゲノム編集技術を習得すると、分子レベルで生命現象を解明することができます。現在プログラムに在籍して3年目ですが、このプログラムで習得したゲノム編集技術を活かして、たくさんのゲノム編集個体を作出し、自身の研究を発展させることができました。これから博士課程後期の授業で、さらに高度なゲノム編集についての知識や技術を習得できることを期待しています。

浮田さんが行っている研究について教えてください。

具体的には、嗅覚受容体が嗅覚以外でどのような機能を持つかを解明するための研究を進めています。
嗅覚受容体はその名の通り、匂いを感知するための受容体です。鼻の奥の、嗅上皮に多く存在することが知られています。ヒトの嗅覚受容体は約400種類あり、空気中に漂う無数の匂い分子を感知しています。近年、この嗅覚受容体が鼻だけでなく、体の様々な“非嗅覚組織”に存在することが明らかになってきました。しかし、ほとんどの非嗅覚組織の嗅覚受容体は、その機能が明らかとなっていません。

私は、キイロショウジョウバエというモデル生物を用いて、非嗅覚組織の嗅覚受容体の機能を明らかにしようとしています。ショウジョウバエの嗅覚受容体は約60種類と、ヒトやマウスに比べて少なく、網羅的に解析するのに適しています。これまで、公共のデータベースを用いた解析から、ショウジョウバエの嗅覚受容体が様々な非嗅覚組織 (生殖器官や脂肪組織、筋肉、腸など)に存在することを明らかにしました。

現在は、非嗅覚組織での嗅覚受容体の発現を可視化するために、ゲノム編集技術を使ってツール開発をしています。このツールを用いて各組織のマーカー遺伝子との共発現を見ることで、嗅覚受容体がどの細胞に発現するか、そして非嗅覚組織でどのような機能を持つかを解析することが可能になります。

ある組織に限局して発現する嗅覚受容体や、腸管、筋肉、脂肪組織など様々な組織に分布する嗅覚受容体など、嗅覚受容体ごとに発現パターンは異なっており、今後さらに解析することで、非嗅覚組織における嗅覚受容体の新機能を解明できると考えています。

            図1
ショウジョウバエ全身サンプルを用いたsingle cell RNA-seq

一つ一つの点が嗅覚受容体発現細胞を表している。嗅覚受容体発現細胞が、嗅覚受容神経以外にも様々な組織のクラスターを形成している。

            図2
ショウジョウバエ腸にある嗅覚受容体発現細胞 (緑)

将来の展望についてお聞かせください。

将来は、ドライ解析※1もウェット解析※2も両方できる生物学研究者になりたいです。

ゲノム編集技術とバイオインフォマティクスは、生物学研究において必須であると考えています。プログラムでは両方についての講義があるので、しっかり学んで将来に役立てたいです。

研究に励む様子

研究室にて学位記授与のお祝い

寄付者へのメッセージ

このプログラムは経済支援が充実しており、奨学金に加えて、博士課程後期の授業料免除、旅費支援もあります。
旅費支援では、博士課程前期のうちから積極的に学会や研究会などに参加することができ、知見を広めることができました。また、今年度いただいている奨学金のおかげで、ゆとりのある生活を送ることができるようになり、より研究に専念できるようになりました。
たくさんの方から支援していただいていることに感謝して、今後も研究を進めていきたいと思います。

インタビューの様子

※1 ドライ解析: コンピュータを用いて生物情報等を解析すること
※2 ウェット解析: 生き物、細胞などを実際に取扱い生物学的な実験をすること

 

 

(2023年7月取材/基金室)


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