支援を受けた学生のご紹介

Vol.9 「ゲノム編集技術の可能性を広げる人材を目指して」

所属: 大学院統合生命科学研究科 生命医科学プログラム
    卓越大学院 ゲノム編集先端人材育成プログラム
学年: 博士課程前期2年次
氏名: 鈴木 貴之

鈴木さんが所属する「ゲノム編集先端人材育成プログラム」について教えてください。

私が所属する「ゲノム編集先端人材育成プログラム」は、文部科学省の「卓越大学院プログラム」事業に2018年度に採択されています。「ゲノム編集」とは、生物が持つゲノム上の特定の塩基配列を狙って変化させる技術です。食料・エネルギー・病気の治療といった人類の根源的な問題を解決するために、産業利用を積極的に進める必要があるとされています。

プログラムでは、ゲノム編集の基礎から応用に至る知識を修得することにより、ゲノム編集を使いこなせる人材、ゲノム編集を産業へ直結させる人材の育成を目指しています。

私は東京都の出身で、広島には縁がありませんでしたが、生命が持つ様々な「情報」を、収集・分析し、生命現象を解き明かしていく技術(バイオインフォマティクス)分野に高い関心を持っていました。この分野の専門家を調べていくうちに、広島大学の坊農 秀雅 先生が専門としていることを知り、広島大学へ進学しました。

取り組んでいる研究内容について教えてください。

私の研究内容は、ゲノム配列情報や文献内の文字列情報などを対象に、大量に蓄積されている世界中の過去の研究結果や、功績を最大限活かすための基盤作りを行うことです。

農業分野を例にとると、作物を栽培するにあたりこれまで多くの時間をかけて、病気やストレスに強くする、味や香りをよくする、育成期間を短縮するといった、様々な品種改良が行われ、人類はその恩恵を受けてきました。これらの成果にいたるまでに様々な研究・実験がなされ、多くのデータが蓄積されています。このデータを活用することで、より効果的で効率よく、新たな成果の創出につながる可能性があると考えています。

ゲノム配列情報や文献内の文字列情報は、今後、世界の科学者が研究を進める上で、仮説を絞るために重要な情報であり、それらを整理し効率よく利用することが重要だと考えています。

ゲノム配列情報の一部

文献の文字列情報の一部

大学院の2年目ですが、達成できたことはありますか。

これまでの博士課程前期1年次では、情報を収集し、分析するためのトレーニングを行ってきました。
具体的には、ゲノムの配列情報を収集、分析するにあたり、酸化ストレス※1という事象に注目して、3ヶ月間で集められるだけのゲノム配列情報を収集して解析しました。3テラバイトにも及ぶ過去の研究結果を網羅的に利用し、これまでにない観点から、酸化ストレスに関連する可能性のある遺伝子を導き出しました。このことは、将来的にこの分野の研究者による、人や植物などで発現する老化や病気を含めた様々な問題の発見に役立つかもしれません。

その他、「情報」を研究対象にする私が、実際にゲノム編集の実験を行ったり、他大学の卓越大学院プログラムの学生と交流するなど、プログラムでは大変得難い経験を積むことができました。

博士課程前期2年次では、文献データの文字列情報を利用して、いくつかの生物種における過去全てのゲノム編集に関わるデータ(ゲノム編集メタデータ)のデータベース化を試みています。これにより、どの遺伝子がゲノム編集技術による研究で多用されているのか、逆にどの遺伝子が未研究分野なのか、などがすぐに確認できるようになることが期待されます。

※1酸化ストレス: 生活習慣、病気の存在、老化など様々な原因により、体を傷つける活性酸素が過剰となり、活性酸素を消去する抗酸化能とのバランスが崩れた状態

今後の目標についてお伺いします。

将来的には、生物関連のデータの処理や解析の専門家となり、農業・医療・工業・食品分野といった幅広い分野で貢献できる人材を目指しています。

奨学金のおかげで、今までより生活にゆとりができ、研究に集中できる貴重な時間を多く確保することができました。
学生時代は、数年しかない貴重なトレーニング期間だと考えています。研究に集中するための支援を頂けたこと、本当にありがとうございました。

 

(2022年8月取材/基金室)


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