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テレビ朝日エグゼクティブアナウンサー 大下容子さんとの対談

一度きりの人生、失敗を恐れず踏み出して

長年お昼の情報番組のキャスターを務める大下容子アナウンサーと広島大学の越智光夫学長が対談。広島への思いや報道の最前線での気付きなどについてお話を伺い、未来社会を担う若者へ向けたメッセージを頂きました。(広島大学広報誌HU-plus vol.17に掲載)

大下 容子(おおした・ようこ)/1970年生まれ。広島市出身。広島大学附属小・中・高等学校を経て、1993年に慶應義塾大学法学部を卒業。同年、テレビ朝日にアナウンサーとして入社。スポーツキャスターや『ワイド!スクランブル』の女性メインキャスター、『SmaSTATION!!』のサブMCを担当。2019年からは『大下容子ワイド!スクランブル』としてメインキャスターを務める。2020年よりエグゼクティブアナウンサーに就任。

毎日同じ顔でテレビに出る

越智:大下さんは広島市の出身ですが、広島の街で印象に残っている場所はありますか。
大下:広島には生まれてから上京するまで18年間住んでいました。帰省した時に木々の生い茂る平和大通りや川沿いを歩くと、世界に誇れる美しい街だと感じます。
越智:おっしゃる通りだと思います。広島大学附属小・中・高等学校では、どのような学生時代を過ごされましたか。
大下:高校は自由な校風で、文化祭や体育祭にとても一生懸命取り組む学校でした。体育祭のマスゲーム( 集団演技)では大幹(リーダー)を務め、練習に明け暮れて真っ黒に日焼けしましたね。他にもガールズバンドやバレーボールなどにも取り組み、毎日完全燃焼。とても楽しかったことを覚えています。
越智:大学は慶応義塾大学に入られました。就職の際、どうしてアナウンサーになろうと思われたのですか。
大下:のんびりした性格なので、就職活動を始める時期になっても自分のやりたいことが分かりませんでした。そこで、金融や商社、メーカーなどさまざまな業界の先輩にお話を伺ったところ、マスコミが面白そうだと思い志望しました。情報収集のために短期のアナウンサー学校に通った程度だったのですが、偶然テレビ朝日とご縁がありました。
越智:お昼の情報番組『ワイド!スクランブル』を23年間担当し続けておられます。精神面や体調面はどのように管理されているのでしょうか。
大下:週5日の生放送では体調管理が一番大切です。以前は朝からジムに行って運動し、気合を入れてから本番に臨むというルーティンがありました。現在はストレッチや体現在はストレッチや体幹トレーニングをしています。どんなに大きなニュースがあっても、毎日同じ表情で、同じ機嫌で、同じ顔でテレビに出るということが私の目標です。
越智:感情移入をされるアナウンサーやキャスターの方もおられる中で、大下さんは感情を抑えるよう意識されているのですね。
大下:災害時、被災者の方から中継でお話を伺う際は、涙が出そうになったり声が上ずったりすることもあります。しかし、あまり内容に入り込み過ぎず、キャスターとして客観的な立場でいたいと考えています。

女性もメインを務める時代に  

越智:テレビ業界では、長年にわたって男性主体の番組作りが行われてきたと伺いました。1999年に男女共同参画社会基本法が施行された後、業界の潮目が変わったのはいつごろですか。
大下:本当に最近ですね。『ワイド!スクランブル』では、20年間男性メインキャスターのアシスタントをしていました。2019年からは『大下容子ワイド!スクランブル』として、私がメインキャスターを務めるようになりました。ちょうどそのころから他局も女性のキャスターがメインを張るようになりましたね。
越智:男性主体の体制の中でご苦労はありましたか。
大下:番組制作において、女性の意見が通らないことです。お昼の情報番組は視聴者の半分以上が女性なのに、男性が内容を決めていました。女性が面白いと思うものからずれてしまっていることに、入社当初から違和感がありました。

越智:現在はメインキャスターとしてご自身の意見をしっかり反映した番組作りに取り組まれているのですね。男女共同参画という点でいうと、広島大学はSDG 5「ジェンダー平等を実現しよう」の達成に取り組んでいます。SDGsの枠組みを用いて大学の社会貢献の取り組みを可視化する「THE大学インパクトランキング2021」では、SDG5を含む5項目で国内1位を、総合スコアでも国内1位を獲得しました。
また、広島大学女性研究者奨励賞や広島大学女性活躍促進賞「メタセコイア賞」を設けるなど、女性のさらなる活躍を応援しています。
大下:テレビ業界もこの課題により力を入れて取り組みたいですね。

東広島から未来を創る

越智:広島大学はグローバル分野にも力を入れています。中国の長春大学とは、2017年から特別支援教育での連携を中心に交流を深めており、ハンディキャップを持つ学生の留学を受け入れています。また、全米で
最も革新的な大学に選ばれたアリゾナ州立大学(ASU)の海外キャンパスを広島大学内に設置しました。ASUサンダーバードグローバル経営大学院-広島大学グローバル校です。学士課程で前半の2年間を広島で、残りの2年間を米国で学び、ASUの学士号を取得できます。
大下:どのような経緯で誘致されたのですか。
越智:文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援事業(SGU)」のトップ型13校の1つとして広島大学が選ばれました。その後、SGU関連の会議があり、アメリカから来られた有名な副学長の先生方とディスカッションをしたことがきっかけで実現に至りました。
大下:2つの大学で2年ずつ学べるという仕組みはとてもユニークだと思います。
越智:ASUが最も革新的な大学といわれているのは、地元テンピ市の行政と連携し、イノベーションを続けてきたからです。この取り組みをお手本として、広島大学と東広島市もタッグを組み、持続可能なまちづくりを目指しています。その一環として、2030年までに通勤・通学を含めたキャンパスで使うエネルギーのカーボンニュートラルを達成すると宣言しました。これは政府よりも20年早い目標です。また、住友商事株式会社やソフトバンク株式会社、株式会社フジタと包括的な連携推進に関する協定を締結。他にも一緒にまちづくりに取り組みたいという意欲ある企業が多く集まってきています。
大下:大学が行政と共にまちづくりを行うのは、とても先進的で良いアイデアだと思います。
越智:東広島キャンパスでは、HIROMOBIという自動運転シャトルの実証実験を行っています。大学内で得られた成果を基に、東広島市で自動運転シャトルを導入する予定です。将来的には他の市町村にも展開し、少
子高齢社会の課題解決に貢献できればと考えています。
大下:自動運転シャトルの本格的な運用が楽しみです。東広島市の行政はとても柔軟ですね。

越智:私もそう思います。2021年10月にオープンした「広島大学フェニックス国際センター ミライ クリエ」の建設に当たっては、市からも援助いただきました。広島大学のシーズを基にイノベーションを起こし、次
世代のまちづくりを目指します。
大下:最先端の取り組みに携わりたい方は多いと思います。良い学生や研究者の方がたくさん集まりそうですね。
越智:国内だけでなく、海外からも優秀な人材を集めたいと思っています。
大下:ASUに限らず海外の学生との交流は、日本の学生にとっても良い刺激になるはずです。

越智:広島大学には約2,500人の学部生がおり、うち約300人が大学の支援を受けて留学します(短期を含む)。TOEICのスコアで730以上を取る学生は広島大学全体では13%、医療系学部が集まる霞キャンパスでは34%に上ります。また、2018年、4年間英語で授業を行うコースを新設しました。総合科学部国際共創学科です。学生の3割は日本国籍以外の方で、彼らの積極的な姿勢に影響を受けて日本人の学生も積極的になっています。
大下:いろいろな理由から海外留学が難しい方にとっても、広島大学の中に国際的な環境があるのはうれしいですね。広島大学で勉強するととても成長できそうで、私が高校生だったら受験してみたいです。

広島出身のアナウンサーとして

越智:広島では、広島や長崎の原爆について平和学習をされたと思います。アナウンサーとして、原爆や平和についてどのようにお考えですか。
大下:小さい頃は周りに被爆者の方がいて、日常的にお話を聞いていました。修学旅行では、沖縄で防空壕に入ったり、ひめゆりの塔を見学したりもしました。ところが、アナウンサーになって、渋谷で「8月6日が何の日か知っていますか?」と街頭インタビューをしたところ、分からない人が多く驚きました。

東京の人にとっては原爆の日も普通の一日なのです。最近は核兵器等のニュースが多く取り上げられるようになり、だんだんと慣れっこになって核に対する慎重な姿勢を忘れてしまっているのではないでしょうか。広島出身アナウンサーとして、核兵器の恐ろしさや何年も苦しんでいる被爆者のことを改めて伝える必要があると考えています。
越智:ぜひお願いします。広島大学も平和の大切さを語り継いでいくために、平和をテーマに講演を行う「ピースレクチャーマラソン」を開催しています。これまで、リトアニアの首相やエジプトの高等教育大臣にもご登壇いただきました。実は、エジプトの大学ともつながりがあり、ガララ大学の歯学・工学・日本語教育の分野で広島大学が教育協力を担っています。
大下:なぜエジプトなのですか。
越智:アフリカ・中東地域で影響力の大きな有数の国だからです。エジプトのみでなくさまざまな国とつながることが大切ですので、ヨーロッパやイスラエルなどの大学とも包括協定を結んでいます。
大下:素晴らしいですね。コロナ禍は大変なことも多いですが、海外の方と手軽につながれるようになりました。以前は複雑な手続きが必要でしたが、今や自宅の書斎からダイレクトに番組出演していただけます。実際『ワイド!スクランブル』でも、ドイツやインド、キューバ、メキシコなどのコロナ事情を現地の方に教えてもらいました。
越智:そうですね。広島大学もコロナ禍に負けず、海外交流の機会を広げていきたいと思います。

チャレンジできる社会を

越智:長年マスメディアの世界で仕事をされてきて、日本をどのように感じますか。
大下:日本人には、失敗を恐れて踏み出せない面があると思います。これは良いところより悪いところに注目する社会の責任もあるかもしれません。もちろんメディアの報道姿勢も問われています。日本人には、失
敗してもやってみるというトライアル・アンド・エラーの気持ちを持ってもらいたいです。新型コロナウイルス対策でも、未知のウイルスに向き合うためには、挑戦を応援する姿勢が重要です。何事も最初からうま
くいくわけがないのですから、チャンスの芽を伸ばしていけるおおらかな社会を目指したいですね。
越智:広島大学は「平和を希求し、チャレンジする国際的教養人の育成」をスローガンとしています。世界的な教養人の育成を目指し、チャレンジができる社会を作っていきたいと思います。
大下:先日、広島大学の保田朋波流教授にリモートで番組にご出演いただき、新型コロナウイルスの中和抗体を用いた治療薬の研究についてお話を伺いました。
越智:広島大学では新型コロナウイルスに立ち向かうべく、保田教授をはじめとした医療系の研究室が一体となって「広島大学CoVピースプロジェクト」を進めています。例えば、患者さんの呼吸音から重症化の進行を診断する志馬伸朗教授らの研究。音を頼りに別室で診察できれば、二次感染リスクを抑えられます。
大下:広島大学をはじめ、多くの研究者の知がコロナ禍の克服に寄与することを願います。
越智:最後に、学生へのメッセージをお願いします。
大下:人生は一度きり。好きなことを見つけ、それに向かって一生懸命に頑張ってみてください。好きなことなら能動的に取り組めますし、壁を乗り越えた先にはさまざまな可能性が広がっています。報道に携わる私自身が大切にしているのは、「慣れない」こと。入社したての新人のようにフレッシュな気持ちを忘れず、平和の大切さを伝えていきたいと思います。
越智:本日はありがとうございました。

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