学部長挨拶

食料と環境の調和をめざし、国際協調で持続可能な未来を拓く

生物生産学部長
小池 一彦

これほど科学が進歩していながら、人類はまだ無機物や石油から食べ物を直接生み出すことはできず、私たちが口にする食料のほぼすべては「元・生物」です。生物生産学部は、この「生物の生産と、食料としての活用を科学する」ことを核とし、理学的な探究心と、それを社会に還元する農学的な知恵を融合させた、広島大学を象徴する「実学の府」です。私たちは今、気候変動や生物多様性の喪失といった地球規模の課題に直面しています。その中で本学部が担う使命は、「人類の存続に不可欠な食料供給」と「健全な環境保全」をいかに両立させるかという、極めて重要かつ困難な問いに答えを出すことにあります。

本学部では、この大きな目標を達成するために、食資源の生産から環境、加工、そして健康に至るまでをカバーする5つの主専攻プログラムを設置しています。海洋から里海までを科学する「水圏統合科学」、陸域の動植物を対象とする「応用動植物科学」、そして食による健康維持を追究する「食品科学」。これらすべての基盤を支えるのが、生命現象を本質的に解き明かす「分子農学生命科学」であり、これらをグローバルな視点から統合するのが「国際生物生産学」です。

私たちは、最先端の分子生物学から地球規模の生態学までを横断する視点こそが、これからの「食と健康」を支える鍵になると確信しています。教育面における私たちの最大の強みは、室内での研究に留まらない、現場に根ざした実践的な教育にあります。西日本最大級の農場、広大な海をフィールドとする練習船「豊潮丸」、瀬戸内海の再生を担う水産実験所、そして最新鋭の食品実習工場。これらの充実した施設を活用し、学生全員が五感を使って学ぶ体験型実習を重視しています。1年次の体験型学習から始まり、2年次に自らの意志で専門を決定する独自のカリキュラムを通じて、理論と現場の乖離を埋め、即戦力として社会に貢献できる人材を育成します。

また、本学部は世界に向けて開かれた窓でもあります。我が国は食料の多くを海外からの輸入に頼っており、気候変動や食料安全保障といった問題は、もはや一国で解決できるものではありません。私はこれまで国際交流の現場で培った経験を活かし、国際協調を基軸とした教育・研究の推進を加速させます。海外の大学との連携や留学生との交流を通じ、多様な価値観の中で、人類にとって最も重要な「食料」と「地球の未来」を語り合えるタフな国際感覚を持った学生を育てていきたいと考えています。

大学を取り巻く環境は激動していますが、生命の営みや「食」の重要性は普遍です。私たちは「実学」という根幹を堅持しつつも、時代の変化を鋭敏に捉え、広島大学が掲げる「持続可能な発展を導く科学」の旗手として、SDGsの先にある豊かな未来を切り拓いていきます。


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