ESを書くに当たって、誰に向かって記しているか意識していますか。自分の学生時代の備忘録のようなESが少なくありません。備忘録は自分に向かって記すのだから、自分が分かっていることは省いても構わない。ですが、ESは備忘録ではありません。「あなたが、こんな人だ」と採用担当者へアピールする唯一の場なのです。

例えばです。あなたが大学で講師として「あなた自身」をテーマに全15回の授業をするとします。それぞれの回のテーマを考えてください。

(1)大学での専門分野(2)部活で主将(3)バイトリーダー(4)留学経験(5)好きな本の傾向(6)祖父母の住む田舎……。

有名企業を志望する学生の中には、インカレで優勝した、エベレストに登頂した、アフガニスタンで井戸掘りのボランティアを続けた、アマ将棋四段になった、タクラマカン砂漠を踏破した、という強者がいますが、この人たちは規格外としてライバルから外しましょう。その他多くの学生との競争をイメージしましょう。

昔話を語るように、1テーマ3分までで完結するように引き出しを作ってください。最低15個作ってください。ラジオのパーソナリティーとしてリスナーに語りかけるようなイメージでもいいです。「昔話を語る」が分からない人は下記URLをのぞいてみてください。数多くの昔話を聴けます。

小澤俊夫　昔話へのご招待(FM FUKUOKA）

15個作った引き出しの中から「自分の長所」という項目のESを書き上げるとします。注意点。冒頭に、私は「粘り強い」「あきらめない」「何事にも積極的」「まとめる力がある」という、抽象的な言葉を書く学生が非常に多い。採用担当者はあなたを早く知りたいのです。でも抽象的な言葉からは、あなたがさっぱりイメージできないのです。

落語が大好きです。ですが、東広島に住んでいるため、落語会を楽しむには、東京の末広亭や大阪の繁昌亭に出向く必要があります。交通費や宿泊費がかかるので、年に2回演芸場に行くのがやっとでした。

しかし、この1年余りはコロナ禍のまっただ中。演芸場が休館の代わりにチケットが極めてとりにくい立川〇〇の「芝濱」、桂〇〇の「はてなの茶碗」といった名作をオンラインで上演しています。自宅にいながら見聞きすることが可能になりました。しかもオンラインチケットは2千円前後と安い。

コロナで学生生活は何かと不便ではありますが、コロナのおかげで自宅にいながら落語三昧です。何事もポジティブに考え実行する力が私にはあります。

大学でグループディスカッションの研修がありました。12人の学生が「大相撲を盛り上げる方法」のお題で話し合いました。

「東は日本人、西は外国人力士に分けて対抗戦にする」「土俵にあがる際に、各力士テーマ曲を流す」「ヒール役に徹した力士を数人育てる」「覆面力士を土俵にあげる」……。

討議は盛り上がり、「いい議論だね」と自画自賛する学生もいました。

私は、まるで大喜利のような場の雰囲気に危機感をいだき、手を挙げました。「活発な意見が出ているけど、これじゃ全員、次の面接まで残れない。お題は現実的な盛り上げ方を問うている。遊びのような結論で果たしていいのか」と、議論の流れを修正しました。その結果、「本場所の朝稽古後、ちゃんこ鍋に各部屋10人ずつ抽選でファンを招くサービスを実施する」といった、現実的な提案に落ち着きました。

いつも冷静に判断するよう努めていますし、それが可能なところがアピールポイントです。

「ESへ具体的に記してください」と、学生にリクエストしたところ「積極的に意見を言う」と書いてきました。「積極的に意見を言う」は具体的ではありません。どういうふうに何をしゃべったのかが、さっぱり分からない。つまり、採用担当者はこの学生を知ることができない。上記例2のように詳述して「ああ、積極的に的確な意見を言う学生だなあ」と、はじめて採用担当者の心に刺さるのです。

「具体的に数値を盛り込み詳述していたら、300字のところが1千字になった」と相談を受けることがよくあります。字数オーバーしても構わないから、データをまるめずに、まずはしっかり書き込んでください。1千字を300字にするところが、ESのポイントです。盛り込んだデータに優先順位をつけます。8つのデータを盛り込みましたが、3つしかデータが入らず、残る5つは惜しくも漏れてしまいました。残念がる必要はありません。面接ではESがあなたを知る唯一の手がかりです。3つのデータが入った内容にさらなる質問が来たならば、はずした5つのデータを入れてこたえればいいのです。だから、この作業はとても重要であるし、ムダになることはありません。ここまで作業をして、ESはできあがります。

最後に言っておきますが、実はESに書き方のマニュアルなんてないのです。前文に戻りますが、採用担当者の心に響く文章を記した学生が次へのステップに進む権利を与えられます。何百枚も届くESの中で、採用担当者の心に響く内容を記してください。奇をてらう必要はありません。理路整然と論理的にエピソードを分かりやすく伝えられたらいいのです。みなさまのご健闘をお祈りします。

(道場主　アオキ)

アオキさんによる、首都圏の学生に勝てるESの書き方指導がメールで受けられます。
【就活道場～広大OBによるESメール添削】