ポーランド駐在記(中編)

ウクライナの戦争の影響は

―旧共産圏のつながりもあるんですかね。ところで隣にウクライナがありますが、生活への戦争の影響はどうですか。

SS:生活面での影響は、一部の商品が高くなっているというくらいで、大きな変化はないですね。ただ、東のウクライナとの国境付近に住んでいる同僚いわく、NATOはポーランド経由で物資をウクライナに届けているので、空港では多くのNATOの飛行機などがみられるそうです。

戦争がはじまってすぐの頃は、パスポートの申請をする大行列ができていました。戦争が起こるとパスポートなしではEU内も移動できないので、いざという時に逃げるため、ということですが、こぞって申請している光景は異様でした。

ポーランドでは難民キャンプを作らず、善意で住民がほぼすべてのウクライナ人を受け入れたということには感銘を受けました。同僚の多くも、家や別荘に受け入れているそうです。

―みんな別荘を持っているのですか。経済的には決して豊かな国ではないと思うのですが。

SS:サマーハウスに行くなどといった余暇の過ごし方をするのでしょうね。

物価は、インフレであがってしまったので、今現在で東京とほぼ一緒くらいだと思います。一時、スーパーから塩がなくなるとか、ガソリンがなくなるなどありましたが、今はほぼ影響がないですね。

―これから冬に向かって、日本ではオイル不足の可能性が報じられていますが、そちらではどうですか。

SS:ヨーロッパ全体で電力不足が問題になっていて、光熱費が非常に高くなっています。社内でも、「政府から、『電力不足に陥った場合には、オフィスの電気を強制的に切る場合がある』という通達があった」との連絡がありました。その内容を受けて、薬を保管している倉庫で電気が切れた場合のシミュレーションをしました。

大手町みたいな立地

―ご自宅は会社の借り上げですか。

SS:そうです。3LDKの88㎡ですが、ワルシャワだと狭い方です。東京でいうと大手町みたいな場所に立地しています。ウクライナの戦争の影響で、賃料が戦争前に比べて1.5倍ぐらいになりました。避難してきたウクライナ人も家が必要なため、空きがなくなってしまい、ワルシャワで家を探すのはほぼ無理という状態です。たまたま会社から徒歩5分の物件に空きがでて、選択肢もなかったのですぐに決めました。

社用車も現地の福利厚生の一環として貸与されています。

自分で決めない

―お仕事ではどういう業務を担当していますか。

SS:ポジションはHead of Business Operationという名前で、日本でいうと「経営企画部」みたいな部門です。たとえば明日の会議は、四半期のKPI、売り上げについての取りまとめ役です。

―先ほど、ポーランド人の性格は日本人に近いというお話がありましたが、一緒に働く際に難しいと感じることはありますか。

SS:あります。特に意思決定の方法に関しては大きな違いがあり、最初のころは苦労しました。

日本人は多かれ少なかれ、みんなに広く意見を聞いて、みんなの同意を得て結論を出す、というコンセンサスベースの決め方が無意識に身についており、それが良いことという認識をもっていると思います。ところが、こちらではみんなに意見を聞いても、なにも出てこないんです。「なんで誰も何も言わないんだろう」「何か変なこと言ったかな」と思っていたら、そうではなくて、上のポジションの人が意思決定を行い、それに従う、つまり私に意見を聞いてもらうことよりも、とにかく決めてもらうことを求めていました。

そして、そうと思いきや、不平不満があると、感情を表にだしてディスカッションをします。日本人は会議などで感情を表に出すことはよくないことだと思っているので、これはカルチャーショックでした。でも彼らからすると、正しい話し合いの仕方であって、僕に対して「俺はこのことに対してフラストレーションがたまっている」と面と向かって怒っている時も悪気はないのです。最初はその違いに驚きました。

―「文句をいうなら自分で決めろよ」と言いたくなりますね(笑)。決まったことに対しても文句をいうのですか。

SS:それもあります。たとえば、僕が会議のホテルの場所を決める場合、「どこがいい?」と聞いても意見がでてこないのに、いざそのホテルに決めて実際に会議をすると、あれこれ苦情がでて、「次回から違うところにしよう」と言われたりします。もう慣れましたが(笑)。

上司のオランダ人の社長からは、「かといって、何かを決める時に意見を聞かないのはだめなので、聞いて何も言わなければそれで決めていい」と言われて、「ああ、それでいいんだ」と、考え方を変えました。

ラーメンマシーンを駆使しています

―食べ物はどうですか。

SS:まあまあですね(笑)。一番有名な伝統料理は、餃子みたいな「ピエロギ」ですね。僕が一番好きなのは「タルタル」と呼ばれるユッケで、生の牛肉に生卵を添えたものです。ユッケ好きの日本人からしたら最高です。北海に面していますが、魚は空輸で届くサーモンぐらいで、あまりいいものがないですね。

―自炊はしていますか。

SS:むちゃくちゃしてますよ。炊飯器や、ラーメンが作れる機械を日本から持ってきたので、ラーメンやうどんを作っています。去年、近くにすごくおいしいラーメン屋が1軒できました。大阪の一風堂で修業した人が出したお店で、ほぼ一風堂です(笑)。そこは日本人のたまり場になっていて、行くと必ず日本人がいます。それから、寿司ブームですね。ワルシャワは東京より寿司屋が多い可能性があります。味はピンキリですけど意外と悪くないです。だから、日本食が恋しくなることは、今のところないですね。

―寿司屋は日本人がやっているのですか。

SS:ポーランド人ですね。日本人がやっている日本料理屋はワルシャワに5~6軒しかありません。ラーメン屋、うどん屋、居酒屋、お好み焼き屋、から揚げ屋で、日本人で集まる時は、そのどこかに行きますね。

ポーランドにいる日本人

―日本人で集まるということは、日本人コミュニティがあるわけですね。日本人学校もあるのですか。

SS:1つだけあります。

―日本人はどれぐらい住んでいるのですか。

SS:具体的な数字は私も知らないのですが、ワルシャワで数百人じゃないでしょうか。ポーランドの南の方には自動車系の工場があり、そちらにも多くの方が住んでいるようです。ポーランド全体では、ワルシャワ以外に住んでいる人の方が多いと思います。

―ワルシャワに住んでいる人たちは、どういう仕事をしているのですか。

SS:商社や、建設会社、電機会社、監査法人などがあります。全体的には製造系や工場系が多いようです。ポーランドに工場を作ったので、日本の技術を現地の人に正しく伝えるために駐在している、などですね。

―ポーランド、ハンガリー、チェコなど、旧共産圏のゲイトウェイと呼ばれている国が今注目されていますが、それぞれの国に違いはありそうですか。

SS:昨日の社内会議で、「会社でファミリー向けのイベントを開催するか」という議論がありました。人事の人がチェコと兼務しているのですが、弊社のチェコで社長をしているギリシャ人が「みんなの家族を招いてオフィスでクリスマスパーティーをしよう」と提案したところ、チェコ人は家庭と仕事をきっちり分けたいらしく、反対多数で中止になったそうです。それを聞いて「ポーランドだったらありえないよね」と話したところです。いろんな違いはありそうですね。

―仕事でポーランドから出ることはありますか。

SS:10月は、ヨーロッパ全体の会議が、3日間ギリシャで開催されました。「ギリシャ」と聞いた瞬間「行きます!」と言いました(笑)。11月にはスイスで会議がありました。また旅行では家族がきてからイタリアやフランス、クロアチアなどにも遊びにいきました。

―昔の駐在員は、「遊びに来るときは日本の雑誌を持ってきてほしい」と言いましたけど、今はAmazonプライムやNetflixがあるから、日本にいるのとあまり変わらないですね。

SS:広大で交換留学した時に比べて、生活がすごく変わりましたね。Netflixで日本の映画をみたり、Kindleで電子書籍も読めますし、dマガジンや楽天マガジンで雑誌も数百円で読み放題。VPN接続でT-Verも見れますので、単身のときはご飯食べながらバラエティ見てますね。iPadが1台あれば苦労しません。

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