ポーランド駐在記(後編)

休日はスポーツしてます

―休日はどうやって過ごしていますか。

SS:日本にいるときは3歳の娘と遊んでいましたが、いきなり一人になったので、すごく暇になってしまいました。

今はスポーツをよくしてます。日本人の集まりでソフトボール大会に参加したり、この間はなんの練習もせずにいきなりハーフマラソンに出場したら、足が大変なことになりました。あとは、ポーランド人のサッカーチームと南米人のサッカーチームに参加していて、週2回ぐらいサッカーをしています。

それから、休日も会社の車を使っていいので、金曜日の夜に出発して日曜の夜に帰ってくる車旅行に2回でかけました。スピード違反で捕まりましたけどね(笑)。

―ポーランドでのお勧めドライブスポットはありますか。

SS:ポーランドには大きめの都市がいくつかあるので、そういうところによく行きます。クラクフ、ブロツワフ、ウッチ、ポズナンなどですね。一番よかったのは、ベラルーシとの国境付近にある国立公園です。バッファローの種類の中にヨーロピアンバッファローというのがいるのですが、それが唯一ポーランドにいるので、森の中に一人で見に行き14時間森の中を一人でさまよい1匹みつけました(笑)。

―現地で日本人の友達はどうやってつくるのですか。

SS:日本人会があるので、登録すると「今週末ブルーベリー狩りをします」といったイベントのお誘いがきます。そこでソフトボールのチームに入れてもらい、知り合った人とご飯を食べに行ったりしています。

海外駐在の多くは、会社に日本人が何人かいるとか、前任者がいてそこに後任としてくるのがパターンなので、周りや前任者からの情報でネットワークに入るようです。僕の場合は日本人で初めての駐在なので、ゼロからでしたね。

南米人のサッカーチームに関しては、Facebookに「ワルシャワの駐在員」という何千人かが登録しているページがあり、そこに「サッカーしたいんだけど、誰かサッカーしてない?」と投稿してみたんです。そうしたらメキシコ人が「日曜日にやってるから来る?」と連絡をくれました。誰かもわからないけど行ってみたら結構楽しくて。

―そのへんは、Z世代ですね。

SS:僕は、元々コミュニケーション能力が高いと思っているのですが、子供が生まれてからは社交性が低くなっていました(笑)。ですが、こっちにきてからドアを全開にしてなんとか自分が属せるコミュニティを作っているという感じです。疲れますけどね。

ストレスに対して鈍感な方がいい

―「海外で働いてみたい」「住んでみたい」と思った場合、向いている人、向いていない人のポイントがありそうですか。

SS:ストレスに対して鈍感な人の方がいいかもしれませんね。

生活と仕事の両方で、失敗することがとても多くなります。語学の問題もあるし、仕事の内容も違うし、生活面でも、ちょっとしたことができなくなります。そういうことに一つ一つ傷ついていたらきりがなくて、本当に落ち込んでしまうと思います。全く気にしないか、乗り越えられる心の強さはとても重要だと思います。助けを求めるのも英語かポーランド語ですから、そういうことも、とてもストレスになると思います。

それから、「郷に入っては郷に従え」じゃないですけど、柔軟な人ですね。あまり頑なな人はしんどいかもしれません。向こうにあわせる、向こうも僕にあわせてくれる。お互いに歩み寄らないといけません。

また駐在員は、自分のことをお客さんだと思っていて、本音は口にしないことが多いように感じます。現地でどれだけ信用を築いて中に入っていくことができるか、ということに気が付かずに終わる人もいると思いますが、僕はそこを大事にしたいと思っています。

―現地の人にどう心を開くか、ということですね。

SS:そういう意味では、自分の話をすることも大事ですね。いろいろ聞いても相手が教えてくれない、という場合は、自分の気持ちや家族のことを自分から話すようにしています。ポーランドの人は家族をとても大事にしているので、僕も子供や妻の話をして、関係をつくっています。

最近は、基本にかえって、「約束を守ることが一番大事」ということを身に染みて感じています。ちょっとしたことでも「やるよ」といったことをちゃんとやるとか、飲みに行こうと言ったらちゃんと誘うとか。そういうことの積み重ねで信頼関係が築かれていくことを、ポーランドに来て実感しています。

―大阪人が一番苦手なやつですね。

SS:そうそう、「いけたらいく」ってやつ(笑)。それは大阪人として反省しましたね。

使える外国語の学び方は

―ところでポーランド語は難しいですか。

SS:むちゃくちゃ難しいので、ぺらぺらになるのはあきらめました。女性名詞、男性名詞や格変化が難しいですね。ポーランド語を学び始めて、英語はとてもシンプルで、最大限まで簡素化された言語だなあと改めて思います。英語とポーランド語を習い始めようと思っています。

―SSさんの学習経験からして、使える外国語はどうやって学ぶのがよいですか。

SS:僕は勉強するのがダメで、受験の時も単語帳を作ったことがないんです。使って恥をかいて覚える、ですね。英語で恥ずかしい思いをした経験は数えきれないぐらいたくさんあります。その時の苦い経験を元に、二度と同じ恥をかきたくない、という気持ちを持って、動画を見て覚えたりしています。

―次に赴任する国はもう決まっているのですか。

SS:10月からアメリカのボストンで次のポジションが決まりました。また一からアメリカの行きたい部門に連絡をし、プロセスを経て内定をもらえた状況です。どれくらいいるかは家族次第ですが、2-3年はいたいなと思っています。

―ヨーロッパではなくアメリカを選んだ理由は?

SS:ヨーロッパに残るか迷ったのですが、アメリカの市場が全体の50%程度あり、やはりアメリカを知っておかないと、ということもあったので、今のうちにアメリカに行き、ビジネスの仕組みなどを理解しておくことにしました。 

日本と働き方が違うヨーロッパ

―ライフスタイルや考え方の違いについて気付かれることはありますか。

SS:働き方が違うということですね。

就業時間は9時~17時ですが、16時にはみんな帰宅しはじめます。16:45ぐらいには「SS、もう帰る時間だよ」と周りに言われます。だから9時前、17時以降は僕も一切メールをしません。もし17時以降にメールを送りたい時は、翌朝9時に送信予約をしてパソコンを閉じます。

日本では、15時ぐらいになんとなくぼーっとコーヒーでも飲んで、18時になっちゃったけどまあいいや、ぐらに思っていたのですが、こちらでは17時にストップするいうことは、明日のことを16時にメールしても返事が返ってきません。だからきちんと終わらせるために、すごく集中した時間を過ごしています。働き方が変わりましたね。これはすごくいい面だと思っています。

―フランス、スペイン、イギリスあたりでも同じですか。それとも東西で違いがありそうですか。

SS:多分一緒だと思います。

―管理する側としては「お前の給料は17時までだろう」と言いたくならないでしょうか。

SS:僕はミレニアル世代で、「成果を出していればいい」という考え方なので、この価値観はすっと入ってきました(笑)

―アメリカもそうですか?

SS:アメリカはヨーロッパと比較すると結構ハードワークですよ。ヨーロッパのメガネを通してみると、アメリカ人はワーカホリックだと感じているし、アメリカ人と一緒に仕事をしても、そのように感じます。

家族とのコミュニケーション

―ところで、単身赴任中は日本にいる奥さんや3歳の娘さんとは、どうやってコミュニケーションをとられていましたか。

SS:日本の夜7時が、こちらの昼12時なので、家族が晩御飯を食べた後のタイミングで電話をかけていました。でも、娘にとって、会うことと電話で話すことは全然違うし、年齢的にも電話でコミュニケーションを取ることは難しいですね。僕にできる最大限のことは、頻繁に帰ることなので、2か月に1回帰国していました。

朝起きて寂しくなって、「日本に家族を置いて、一人で仕事をして、娘にも会わずに自分はなにをしてるんだろう」と思う時がありましたよ。家族がいれば、妻も念願のポーランドでの生活を一緒にできるし、子どもに英語の教育を受けさせるなど、いろいろな動機づけがありますが、それがないですからね。

単身赴任中は、妻と娘は大阪の実家に住んでいるのですが、妻のお姉さんやいとこ、地元の友人も近くにいるので、楽しく過ごせているみたいです。

駐在するにあたって、駐在経験のある会社の大先輩に相談したのですが、3人いるうちの3人全員から「仕事はなんとかなるから、家族のこと、特に奥さんのケアだけをしろ」と言われました。言われた時は「いや、仕事の方が大変でしょ」と思っていたのですが、実際に駐在してみて、言われたことの意味が分かりました。

自分がポーランドに来るにあたっては、妻が契約社員に転換して仕事を続けられるようにするサポートや、大阪の実家への引っ越し、それから妻の部屋にテレビを設置するとか(笑)、細かいこともいろいろやってきました。

僕は十字架を背負っていると思っています。駐在するということで、妻に仕事を辞めてもらって、子育てを全部任せて、出産も一人でしていただいたので。そういう気持ちを持っていると、妻にやさしく接することができると思います。

会社の先輩にも、「もしあなたが駐在していなければ、奥さんは仕事を辞めなくてよかった。奥さんのキャリアを変えてしまったという意味で、迷惑をかけているという気持ちを持ってケアしてあげてね」と言われました。今となってはその言葉がとてもよく理解できます。

<お問い合わせ先>
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