大学院統合生命科学研究科 浅枝 優花さん

取材日:2024年1月29日

統合生命科学研究科の浅枝優花さんにお話を伺いました。
浅枝さんは、令和5年度に広島大学女性科学技術フェローシップ制度の理工系女性M2奨学生として採用され、支援を受けています。また、令和6年度からは、日本学術振興会特別研究員に採用されることが決まっています。
今回は、浅枝さんに、博士課程前期で実施している研究や生活の様子など、様々なお話を伺ってきました。(記載の情報は取材時点のものです。)

博士課程前期の研究内容について 

浅枝さんの研究内容について教えてください!

リュウキュウカジカガエルというカエルの、高温適応に関わる要素の探索、検証を行っています。リュウキュウカジカガエルは40度以上の高い温度の水中でも生息できるほど、とても熱に強いカエルです。ですがなぜその様な環境に住んでいるのか、なぜ住めるようになったのかはわかっておらず、それを解明する研究をしています。これまでの研究では、水は温度が高くなるほど酸素分圧が低くなるため、その環境に適応するための因子として呼吸に着目しました。そこで呼吸に関する遺伝子のタンパク質の立体構造やアミノ酸配列について調べ、これらが熱い環境下でも働く事ができる特徴を持つかどうかを検証しました。
また、呼吸に深く関係するミトコンドリアゲノムについては、リュウキュウカジカガエルのものが他のカエルと比べて遺伝子配列が長いという特徴があり、その遺伝子を調べるにあたって、最新のロングリードシーケンサーを用いて一気に読み取ることで全配列決定を行ったという内容の論文も発表しています。ミトコンドリアゲノムの全塩基配列を決定することで呼吸関連遺伝子を網羅的に調べ、どの遺伝子が熱くて酸素の少ない環境に対する適応に関係しているのかを調べることができます。
 

リュウキュウカジカガエル

なぜこの研究テーマを選ばれたのですか?

もともと生物の進化について興味があったからです。幼い頃からポケモンが好きでゲームをプレイしていたのですが、自分の中にもある遺伝子の情報が書き換わって進化するというゲームの設定がとても神秘的だと感じていました。大学でカエルの進化について研究している研究室があると聞き、他の生物との違いや、環境に適応するためにどんな進化を遂げてきたのかを解明したいと感じたのがテーマを選んだきっかけです。また、現在所属している両生類研究センター内の研究室には学部生の頃から所属しており、最初からリュウキュウカジカガエルの研究をしていました。

ポケモンの進化は「変態」だと聞いたことがあるのですが本当ですか?

1つの個体の中で成長していくというのは変態と置き換えることができるのですが、ゲームの中には環境の変化に合わせて遺伝子が変わって進化する、というような設定もあるのです。なので、ポケモンの世界での進化は、現実の進化と変態の両方をミックスしたような現象と言えます。

研究の面白さをどんな時に感じますか?

今世界で自分しかこれを知らないだろうなという結果が出た瞬間です。例えば最初にお話したリュウキュウカジカガエルのミトコンドリアゲノムを決定したときもそうですが、論文にする前は自分しかその事実を知らないと思うと最高の気分になります。また、面白い論文を見つけて理論や実験方法が自分の研究に役立ちそうだなと感じた瞬間は面白く、覚醒したような気持ちになります。
こうした覚醒の瞬間は以前も体験したことがあります。バイオインフォマティクスでリュウキュウカジカガエルのタンパク質がどんな構造なのか予測した、という内容の卒業論文を書いたのですが、予測だけでなく実証したいと思って論文などを調べていました。その中で、生物生産学部に他の生物のタンパク質を大腸菌に作らせ、タンパク質の性質を測定するという研究をされている先生がいらっしゃるということを知り、「これだ!」と。その後、すぐ指導教員に「この先生に許可をいただいて、こういう研究をやらせてもらえませんか」と掛け合い、研究計画書をまとめてアポイントを取りました。それが現在、生物生産学部の三本木研究室でお世話になるきっかけになりました。

浅枝さんが研究を行う様子

博士課程前期の生活について 

研究室の様子を教えてください。

所属研究室(両生類研究センター・進化発生ゲノミクス研究グループ)には、学部生が7人、博士課程前期が4人、博士課程後期が2人、ポスドクが1人、それから教員3名と技術員1名が在籍しています。テーマは異なりますが、同じリュウキュウカジカガエルの研究をしている人が4人います。同じカエルを扱ってはいても、遺伝、行動、細胞など、それぞれの分野が異なるので、変な競争意識はありません。

毎日のスケジュールについて教えてください。

朝10時頃に来て、帰るのは19~20時頃です。私は両生類研究センターと生物生産学部の研究室を行き来しており、研究の進捗次第で作業する場所を変えています。例えば午前は生物生産学部で実験をして、午後は両生類研究センターでカエルの世話をして帰る、といった感じです。土日は研究で忙しい時とカエルの餌やりが必要な時に来ています。

カエルの世話はどのようにされているのですか?

餌やりは当番制です。成体のカエルは小さいコオロギ、オタマジャクシは藻類やほうれん草などの野菜を食べさせています。成体のカエルは暖かい部屋で飼育していて、とても可愛くて愛着が湧きます。

カエルはどうやって入手しているのですか?

産卵シーズンの5~6月ごろ、鹿児島県にあるトカラ列島へ出かけて採集します。採集するのはオタマジャクシと成体で、成体は30匹を目標としてみんなで協力しながら楽しく採集しています。

モチベーションが下がったときや気分転換はどうされていますか?

モチベーションが下がったときは何をしても無駄だと思っているので、素直に休憩します。散歩が好きなのでキャンパス内をぐるぐる歩いたり、おやつを食べたりしてリフレッシュしています。普段から街歩きが好きで、電車や車で出かけた先でブラブラしたり、動物園や水族館など生き物がいる場所を見たりするのも好きです。あとは、家でポケモンのゲームをプレイします。

博士課程後期への進学について

博士課程後期に進学すると決めたきっかけは何ですか。

研究が面白くなってきたからです。2022年の春にトカラ列島に行った際、カエル以外の生物もたくさんいることにあらためて気づきました。そこに住んでいる藻類やカタツムリもリュウキュウカジカガエルと似たような遺伝的変異、もしくは全く違う方法で高温に適応しているのかなどを調べたいと思いました。

進学を考えるうえで、不安なことはありましたか?

やはり経済的な面で不安がありましたので、女性科学技術フェローシップ制度や学振の特別研究員に応募しました。実は申請が通らなかった場合のために、就職活動も一緒にしていました。

4月からの博士課程後期の生活について、どのような期待・不安がありますか?

英語が苦手で、これから英語で発表する機会や海外の研究者と交流する機会が増えると思うので、そこで上手くコミュニケーションが取れるか不安です。研究室に留学生がいて英語でコミュニケーションを取っているのですが、ジェスチャーや翻訳アプリで補いながら頑張っています。また、好きなものを英語で視聴するということも積極的にやって、英語に慣れるようにしています。
期待の部分では、研究費をいただける制度に採用されたので、その研究費を有効に活用して、例えばカタツムリ飼育用の水槽を作るなど、研究のための環境を整えていくのが楽しみです。
 

女性科学技術フェローシップ制度について

女性科学技術フェローシップ制度や学振の特別研究員に採択されるまでどのような準備をしましたか?

申請書を、指導教員をはじめ、できるだけ多くの方に読んでいただき、いろいろな方面からアドバイスを受けて、良くないところを直すよう努めていました。

もし、フェローシップ制度が無かったとしたら、浅枝さんは博士課程後期に進学しますか?

フェローシップ制度がなく、学振の特別研究員にも採択されなかったとしたら、たぶん諦めていたと思います。そういった意味でも、すごくありがたい制度だと思っています。

理工系に進学する女性を増やすためにはどのようなことが必要だと思いますか?

上の世代の方にも女性の学生・研究者が活躍していることをアピールしてもいいのかなと考えたことがあります。私の場合、家族や親戚に理系の大学院に進学することを告げても誰も反対せず、むしろ「それはいいね。今はみんな勉強したいことをする時代だから」と言ってくれました。でも、家庭によっては上の世代の方から「理系の学校に行っても大丈夫なの?」と言われてしまうこともあると思います。ですので、上の世代に向けて女性の活躍をアピールするのも1つの方法なのではと思います。

後輩へのメッセージ

もし学部生の自分にアドバイスができるとしたら、どんなことを伝えますか?

学部1年生の時点から大学の近くに住むべきだということです。私は家から大学まで往復4時間半ほどかけて通学するという生活をしていました。それが負担になったのか一時体調を崩し、それをきっかけに3年次から大学の近くに引っ越したのですが、とても快適になりました。頭が冴えて勉強に集中できなるなどいいことずくめだったので、移動時間は短い方がいい、勉強に集中できる環境を作ることが大切だと過去の自分に伝えたいです。

最後に、博士課程後期を目指す学生たちにメッセージをお願いします!

進学についてはあまり構えすぎないことです。毎日徹夜しないといけないんじゃないか、などと深刻に思い悩むことはありません。自分のペースでがんばってください。徹夜はしないでくださいね。

取材者感想

「リュウキュウカジカガエルの特殊な生態など、素人ながらとても興味深い内容でした。また、国際的に活躍する研究者を目指し、積極的に共同研究などをされている姿に憧れます。今後も、様々な場面でのご活躍を応援しております。」(先進理工系科学研究科 応用化学プログラム 博士課程前期1年・松原正真さん)

「カエルの写真を見ながら明るく研究の話をされる様子を見て、素直に研究を楽しんでおられるように感じました。また、2つの研究室に所属していることもお話くださり、研究する上で重要な、行動力とタフネスのようなものも感じました。浅枝さんのように元気に研究を楽しむ姿勢を忘れないようにしたいものです。今後のご活躍をお祈りします。」(先進理工系科学研究科 量子物質科学プログラム 博士課程前期1年・横山貴之さん)
 

 

 

左から松原さん、浅枝さん、横山さん


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