大学院先進理工系科学研究科 林 美佑さん

取材日:2024年2月16日

先進理工系科学研究科の林美佑さんにお話を伺いました。
林さんは、令和4年8月に広島大学女性科学技術フェローシップ制度の理工系女性M2奨学生に採用され、令和5年度からは理工系女性リサーチフェローとして支援を受けています。また、令和6年度からは、日本学術振興会の特別研究員に内定されています。
今回は、林さんに、博士課程後期で実施している研究や生活の様子など、様々なお話を伺ってきました。(記載の情報は取材時点のものです。)

博士課程後期の研究内容について 

林さんの研究内容について教えてください!

「表面改質材の疲労特性に及ぼす表面性状の定量的評価」というテーマで研究を行っています。
私たちが運動すると疲れるように、金属も長期間に渡り繰り返される力によって疲労を起こします。そして金属疲労は人間の様に回復することがありませんので、その抑制が重要となります。そのため機械や装置などに用いられる金属材料には、強度を向上させるために表面改質という物理的・化学的な処理が施されることが多いのです。表面改質処理をするとその金属の様々な因子が変化しますが、それぞれの因子がどの程度強度向上や低下に影響を及ぼしているかは明確になっていません。強度向上を目指すためにはまずそこを探る必要があり、現在はその因子の中で表面粗さに着目して定量的な評価を行うという研究をメインで行っています。具体的には、レーザーで金属表面を研磨することで粗さのみが異なる試験片を用意し、それらを使って強度を測定し、定量的に評価します。表面改質というのは様々な因子が組み合わさって向上するものなので、まずは表面粗さが強度に及ぼす寄与率を明らかにするという段階の研究となります。

このテーマを選ばれた背景を教えてください。

私は高等専門学校(高専)を卒業して学部3年生にあたるタイミングで広島大学に編入してきました。元々材料系の分野が好きだったこともあって材料系の研究室に入り、表面改質の分科会に参加するようになって他大学の学生からも刺激を受け、さらに興味を持つようになりました。あとは、自分自身が人と違う研究をしたいという思いが強く、当時研究室の中で誰もやっていないテーマだったことも大きいです。

研究の面白さ、苦労について教えてください。

研究では金属の試験片を1時間ほどかけて研磨しなければならないのですが、時間をかけて準備をしたのに試験に失敗してデータが取れないと落胆します。
逆に失敗の理由を突き詰め改善することで、それまで取れなかったデータが取れるようになると楽しいです。

なぜ高専に進学したのですか?また高専ではどんなことを学んでいましたか?

1年生の共通授業でCADを使って好きな形のコップを作るというものがあり、それがとても楽しく感じて機械系の学科に進みました。高専は5年間通うのですが、5年生で研究室に入って1年間研究をします。私の場合は制御に関する研究室で手や指のアシスト機器の開発をしていました。筋電位から意思を読み取り、アシスト機器に反映させるというものです。
高専に進学したのは、子どもの頃文房具が好きで、ボールペンをコレクションしていたのですが、自分の本当に好きな色のボールペンがなくて、それなら自分で作ろうと思ったことがきっかけです。そこから工学系に進もうと思うようになりました。いつか文房具の設計をする人になりたい!と思っていて、親から、それなら高専に進学するのもいいんじゃないと言われ、調べてみたらおもしろそうだったので、進学しました。
 

林さんが研究を行う様子

博士課程後期の生活について 

毎日のスケジュールについて教えてください。

金属疲労の試験は結果がいつ出るかわからないので、試験中にずっと見ていることはありません。私は実験室が空いている午前中に研磨作業をして試験機にかけ、午後、試験機にかけている間、発表するためのスライドを作ったり、報告書や論文を書いたり、データ整理などを行っています。
それから私の所属している研究室は学生主体のスタイルなので、博士課程後期の私が学部生・院生の研究のサポートなどもしています。ありがたいことにドクター部屋があり、そこで色々とディスカッションしたり相談に乗ったりという感じです。立場上、専門外のことでも「分からない」というわけにはいかないので、時には一緒に勉強しながら積極的にコミュニケーションを取るようにしています。
また、私の場合は出張に出ることも多いです。

出張ではどのようなことをされていますか?

主な目的は学会への参加、それに疲労部門委員会や表面改質分科会という委員会活動が多くの割合を占めています。学会参加は年5~6回くらいで、ほとんどが自分の発表ですが、後輩の発表を聴きに行くこともあります。また、表面改質分科会では私は学生幹事を務めていて、学生シンポジウムの運営を主体となって行ったり、国際会議の運営にも携わりました。委員会活動は自身の経験値が上がるだけでなく、情報収集や人脈づくりのためにもよい機会だと感じています。
それから他大学の装置を借りて実験をするため、出張することもあります。

博士課程後期への進学について

博士課程後期への進学を決めたきっかけを教えてください。

大学に編入する時点で、大学院に行くことまでは決めていました。そして学部4年生の時に参加した表面改質分科会で研究の楽しさを感じて以来、博士課程後期も視野に入れるようになったのですが、自分の中で女性であることが引っかかってしまい、就職や結婚など将来のことを考えて躊躇していました。しかし実際に就職活動をしている自分に疑問を感じ、きっかけが欲しくて高専時代の恩師に相談したところ、素晴らしいアドバイスをいただいて博士課程後期進学を決断しました。博士課程前期1年の夏頃のことです。

将来のキャリアパスについて

将来はどのようなキャリアパスを考えていますか?

現時点ではアカデミアの道に進み、大学でキャリアを積んだ上で、最終的には高専の教員になりたいと思っています。自分が実際に5年間通ってとても有益に感じましたし、もっと進学希望者が増えて欲しいと思います。15歳という早い段階から専門的な学びができる場は貴重です。恩返しではないですが、私がその一助になることができれば嬉しいです。

女性科学技術フェローシップ制度について

女性科学技術フェローシップ制度に採択されるまでの準備について教えてください。

女性科学技術フェローシップ制度は担当教員に教えてもらうまで知りませんでした。もともと学振への応募も見据えており、提出する申請書の内容が学振と同じということもあり申請したのですが、申請書の作成がとても大変で、途中で諦めかけたほどです。担当教員の励ましと、申請書を何度も見ていただくなどのサポートのおかげで、なんとか乗り越えることができました。フェローシップに申請したおかげで、学振への応募もスムーズにできたので、申請してよかったなと思います。

もし、フェローシップ制度が無かったとしたら、博士課程後期に進学していましたか?

本当に行きたいという気持ちだったので、奨学金等を利用しながら進学していたと思います。ただ、この制度のおかげで博士課程前期2年の後期からアルバイトをしなくてもよくなり、その時間を研究に充てることができました。それまで親に全面的に支援してもらっていたので、その負担を減らすことができたのもありがたかったです。

理工系に進学する女性を増やすために思うことはありますか?

私の印象としては、理工系の女性は今でも結構いると思っていて、ただ、その中で機械系を選択する女性の割合が少ないので、そこを増やしたいなと思っています。機械系の場合は、油などで汚れる、危険などといった女性にとって良くないイメージがどうしてもあると思うのですが、そのような仕事はごくわずかで、設計や開発、研究といった仕事もあるということをアピールすべきだと思います。私自身、学会などに参加しても女性の少なさは実感しますが、楽しいこともたくさんあるので、そうした経験を私なりに伝えることができればと思っています。

博士課程後期を目指す学生へのメッセージ 

もし学部生の自分にアドバイスができるとしたら、どんなことを伝えますか?

言いたいことは2つあって、1つは英語、特にスピーキングを練習して欲しいということです。聞き取れても返答することができない、表現できないことで学会でも苦労しているので。
もう1つは文章作成能力をもっと身につけて欲しいということですね。博士課程後期で一番悩まされているのが書類の作成で、語彙の少なさなどに苦労しています。文章を書く機会は増えるので、もっと早い段階から逃げることなく文章に触れる機会を増やしておけばよかったと思っています。

最後に、博士課程後期を目指す学生たちにメッセージをお願いします!

私の指導教員が「博士課程後期を目指そうと少しでも思っているなら、それは才能だ」とよく言われますが、本当にそのとおりだと思います。数年単位で考えると、他の人たちが就職して自分だけこの道でいいのかと不安な気持ちが出てきてしまうかもしれませんが、長い目で見たらその時しかできないことなので。経済的な部分ではフェローシップ制度など支援も充実していますし、勇気を出して挑戦してみて欲しいです。

取材者感想

「金属疲労などの初歩的な知識から実用化に向けた最先端の内容まで分かりやすく説明していただき、素人ながらとても興味深い内容でした。また、将来を見据え日々研究に取り組み、学会の学生幹事など積極的に活動する姿に憧れます。今後も、様々な場面でのご活躍を応援しております。」(先進理工系科学研究科 応用化学プログラム 博士課程前期1年・松原正真さん)

左から松原さん、林さん


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