取材日:2022年12月21日
先進理工系科学研究科の徳本涼香さんにお話を伺いました。
徳本さんは、令和3年12月に広島大学女性科学技術フェローシップ制度の理工系女性M2奨学生に採用され、令和4年度からは理工系女性リサーチフェローとして支援を受けています。また、令和5年度からは、日本学術振興会の特別研究員に内定されています。
今回は、徳本さんに、博士課程後期で実施している研究や生活の様子など、様々なお話を伺ってきました。
(記載の情報は取材時点のものです。)
博士課程後期の研究テーマについて
徳本さんの研究内容について教えてください!
「物質の起源を知りたい」というのが私の一番の研究テーマです。
あらゆる物質は原子からできており、その原子は陽子、中性子から構成されているということはよく知られていると思います。さらにその陽子や中性子は、物質の最小構成要素であるクォークによって構成されており、このようなクォークから構成される粒子を総称してハドロンと呼びます。実は、初期宇宙では、陽子や中性子とはクォークの構成が異なるハドロンがたくさん存在していたと考えられており、私はそのような粒子同士の相関を測定することで、未だ解明されていない相互作用に知見を与えることを目指しています。
また、私は現在、ダイバリオンと呼ばれる新粒子の探索に取り組んでいます。陽子や中性子などの粒子は3つのクォークから構成されているのですが、ダイバリオンは6つのクォークから構成される粒子のことを言います。このような粒子は量子色力学で存在が否定されておらず最近の理論計算からはその存在を示唆するような結果も出ているのですが、長年の探索にも関わらず未だ見つかっていない非常に興味深い粒子です。
私は、このようなダイバリオンの探索と先述した相互作用の研究を通じて、ハドロンを統一的に理解し物質の起源である初期宇宙の解明に近づくことを目指しています。
とてもロマンのある研究テーマですね。もともと子どものころから物理学や宇宙に興味があったんですか?
物理学に興味を持ったのは、子どもの頃に物理学者が登場する某ドラマを観たことがきっかけなんです。また、数学が好きだったので、数学を使った学問を専攻してみたいという想いもあったので、大学では物理学科に入りました。
物理学科に入学してからは、学部3年次に取り組んだ学生実験での解析経験を通じて、実験物理の研究をしたいなという想いが湧いてきました。一方で宇宙分野に興味を持っていたのですが、当時の自分は宇宙分野に観測や理論といった印象しか持っておらず、実験と結びつかないことで研究室選びですごく悩んでいました。しかし、研究室の紹介の中で、LHC加速器などを利用した実験により、クォークという素粒子を探ることで、マクロな宇宙の初期状態へアプローチする、という話を聴いて、意外性を感じたことから、今の研究室を選びました。
現在の研究テーマとはどのように出会ったのですか?
卒業研究を選ぶ段階では自身が勉強不足だったこともあり、自分が何に興味を持っているのか、何から始めたらいいのかわからないままに与えられた研究を手探りで行っていました。もちろん手を動かすうちにその研究自体の面白さに気づいて、やりがいを感じていたのですが、先輩から受け継いだ研究ではなく、自分が興味を持ったテーマを一から進めたい、人と違うことを始めたいという想いが徐々に強くなっていきました。
そうした経緯から、博士課程前期に進学するタイミングで教員の方に面白そうな研究テーマを聞いたりしていたのですが、その中の1つに現在私が取り組んでいる研究テーマがありました。初めは「研究室内で誰もやっていない」という新しさに惹かれた部分が大きかったと思いますが、自分で色んな論文を読み勉強していくうちに、新粒子探索により様々な分野に多くの知見を与えられる点に理学らしさを感じ、博士課程後期に進学して、さらにこの研究テーマを進めていきたいと思いました。
普段の研究活動ではどんな時に楽しさを感じますか?
研究室に入る前は、研究というのはひとりで寡黙に黙々と行うようなイメージだったのですが、実際には、研究の方針や実験データの解釈について、教員や先輩の方々と毎日何時間も議論しながら進めています。そうしたことに没頭する時間が楽しいなと感じています。
徳本さんの研究室の様子
欧州原子核研究機構(CERN)への出張について
徳本さんは今年、欧州原子核研究機構(CERN)に出張されたと伺ったのですが、現地ではどんなことをされたのですか?
出張の一番の目的は、私が現在参加しているALICE実験で用いる検出器制御システムの現場管理でした。以前からずっと行きたかったのですが、新型コロナウイルスの影響により、行くことができていなかったんです。今年初めて実際に実験施設に行くことができ、自分の解析している研究データはここでとられたのかとようやく認識することができました。現地で、他の研究者の研究発表をたくさん聴くことができたことも、とても刺激になりましたね。
英語でのコミュニケーションはうまくいきましたか?
これまでもzoomを利用して海外の研究者とミーティングをする機会も少なからずあったのですが、元々苦手意識はありました。実際に海外に行ってみると、特に現場作業中は皆早口で何言ってるのかわからなくて苦労しました。文字で書いてもらって理解しようとしても達筆すぎて読めなくて…。仲良くなったインド人に助けてもらって、なんとか乗り切れた状況でした。
海外出張を通じて、どんなことを学びましたか?
とにかく黙ったらダメということを学びました。私は困った時に無言になってしまう場面が多かったのですが、反応さえしていれば、相手が状況を察してサポートしてくれたりするので、英語がうまく分からなくても、とにかく何か反応するべきだなと思いました。
博士課程後期の生活について
普段はどのようなスケジュールなんですか?
私は、お昼前に大学に来て、夜遅くに帰宅することが多いです。最近特にヨーロッパの研究者の方々と一緒に作業することが多くなってきたため、私だけでなく他の人もですが、時差の関係で夜型の生活になっている人が多い気がします。
定例のミーティングは、研究室内のミーティングが週1回、研究室内の研究グループごとのミーティングが週1回あります。また、私の場合、共同で研究している海外の研究者とのミーティングが2週間に1回あります。
研究室内の雰囲気はいかがですか?
研究室は結構仲が良くて賑やかです。学生同士で研究について議論することもよくありますよ。研究室内には3つの研究グループがあるのですが、たまに違う研究テーマの学生に意見を聞いてみると、まったく考えたことの無い新しい視点からの意見をもらえることもあって面白いです。
博士課程後期への進学について
博士課程後期への進学を決めたきっかけを教えてください。
やはり研究が楽しかったので、博士課程後期に進学して研究を続けたいな、という想いがありました。ただ、親からは進学について心配されており、私自身も進学するか就職するかで非常に悩みました。実際、就職説明会にも参加していたのですが、研究を続けたい想いを捨てきれずにいました。
そんな時期に、Micron Awardsやフェローシップ制度が立ち上がり、「こうした制度に採用されれば親に頼らず自力でやっていけるのではないか」と思い、博士課程後期への進学に大きく気持ちが傾きました。また、親からも「そういう制度にちゃんと採用されて支援してもらえるなら、進学してもいいんじゃない」と言ってもらうことができました。
博士課程前期2年生の夏頃にMicron Awardsに採用されたと伺いましたが、この頃はまだ博士課程後期への進学は決められていなかったんですか?
Micron Awardsに応募する時点ではまだ気持ちが揺らいでいましたね。ただ、Micron Awardsの申請書を作成していく中で、「やっぱりまだ研究を続けたい」という想いが、自分の中であらためて強くなっていくのを感じました。結果的にMicron Awardsに採用いただけたことが自信になり、そのまま博士課程後期に進学することを決意しました。
徳本さんは、Micron Awardsに続いて、女性科学技術フェローシップ制度や日本学術振興会特別研究員に立て続けに採択されていますが、このように多くの制度に採用された理由をご自身でどのように分析されていますか?
指導教員の方をはじめとする多くの方にたくさん相談させていただいたことが大きいです。
指導教員の方とは、実際に提出するまでに、数十回くらい申請書のやりとりをさせていただいたように思います。また、以前に特別研究員に採用されたことのある先輩に申請書を読んでいただいたり、分野の違う先輩方に申請書を読んでもらって専門外の方でも内容が分かるかアドバイスをもらったりもしました。申請書をブラッシュアップするだけで1週間が終わってしまうような週もありましたが、そうして何度も何度も修正を繰り返したことで、申請書の質をあげることができたのかなと思っています。
申請書を書きあげるまでにたくさんの努力をされたのですね。ちなみに、今後フェローシップ制度に望むことは何かありますか?
私自身、進学に迷っていたタイミングで、フェローシップの制度が立ち上がり、進学を後押しいただけたことがとてもありがたかったので、こうした制度がより充実していってほしいなと思います。
これまで金銭的な事情で就職を選んだ優秀な先輩たちを何人も見てきましたし、もしもその先輩たちが博士課程前期の頃にフェローシップの制度があったら進学を選んでいたんだろうなと思うので、より多くの学生がこうした支援を受けられるようになればいいなと思います。
将来のキャリアパスについて
博士課程後期修了後のキャリアはどのように考えられていますか?
博士号を取得した後のイメージはまだ細かくは考えられていません。一番の理想は好きな研究をこのまま続けることですので、できればアカデミックに残って研究を続けたいと思っています。ただ、今の研究を活かせる仕事があればそちらも考えてみたいです。博士課程後期を修了された先輩の中には、実験施設で技術者として活躍されている方もいますので、そういった進路も意識しています。博士号取得後のキャリアについて、先輩方にお聞きしたいことはたくさんあります。
博士課程後期を目指す学生へのメッセージ
学部生の頃の自分にアドバイスするとしたらどんなアドバイスをしますか?
「使える英語を学ぶ」ということをアドバイスしたいです。受験英語のように文法を気にしすぎて、実際話す時に言葉が出ないという場面があるので、スピーキングなど、実際に活かせる英語を積極的に学んでおくといいと思います。英語の勉強は絶対に損にはならないし、バリバリ研究したい時に英語がネックになるのはもったいないと身に沁みて思うので、ぜひ学んでおいたほうが良いと思います。
ミーティングが英語で行われる研究室もあると思うので、研究室配属前には英語に慣れておくといいと思います。
最後に、博士課程後期を目指す学生たちにメッセージをお願いします!
以前の世代は、博士課程後期に進学したくても経済的にどうしても難しい、という方がたくさんいたと思いますが、今の世代はフェローシップ制度等が充実してきた、ある意味ラッキーな世代になりつつあると思います。是非、この波に乗ってちょっとでも興味がある人は進んでみたら良いと思います。たくさんの人に博士課程後期に来てほしいです。
取材者感想
「ご自身の研究テーマをとても誠実に真剣にお話しされていて、物理への愛と熱意がジンジンと伝わってきました。海外出張での英語のお話も含め、今まで経験されたたくさんの苦労や不安などもお話しいただきましたが、どれも楽しくお話しいただき、どんな場面も明るく乗り越えられるメンタリティにも感銘を受けました。今後のご活躍をお祈りします。」(理学部物理学科4年・横山貴之さん)
徳本さんの研究室にて(左から徳本さん、横山さん)