骨粗しょう症−パノラマX線写真により早期発見−



下顎皮質骨のパノラマx線写真(左:正常,右:骨粗鬆症)

−広島大学病院の歯科放射線科・田口明講師らが歯科用パノラマX線写真による閉経後女性の骨粗鬆症スクリーニング法開発−



 現在その患者数が1,200万人と試算されている骨粗鬆症患者,特にその大多数を占める閉経後骨粗鬆症患者は,骨折を起こすまで自覚症状がないため,医科を受診する機会が少なく,治療を受けている患者数は200万人に満たないと言われています。しかしながら,更なる社会の高齢化に伴い,骨粗鬆症に起因した骨折による患者の生活の質は低下し,死亡率の上昇および国民医療費の増大が予想され,早急な対応が迫られています。

 潜在的な骨粗鬆症患者(低骨密度患者)を選別し,医科の専門医への受診を促すため,簡便な質問表によるスクリーニング法が医科領域では世界中で開発されていますが,女性の反応は極めて悪いことが報告されています。潜在的患者は,その治療のため積極的に病院に受診する機会は少ないようですが,歯科疾患の治療のために歯科を受診する機会は多いと考えられます。今日歯科では,顎全体が総覧できるパノラマX線写真により,歯やその周囲の歯槽骨を診断し,歯科疾患の治療に役立てています。しかし,それら以外の情報が活用できるということは,ほとんど知られておらず用いられないのが現状でした。

 1993年から行われてきた広島大学病院歯科放射線科と産科婦人科との共同研究により,歯科パノラマX線写真で観察される下顎の皮質骨の粗鬆化が,閉経後骨粗鬆症患者のスクリーニングに極めて有用であることが明らかとなりました。この知見は,2004年の米国レントゲン学会雑誌の12月号に掲載され,事前に全世界にニュースで流されました。本報告は,パノラマX線写真によるスクリーニング能力が,医科での質問表によるスクリーニング能力と同等であることを示したものです。歯科のパノラマX線写真は,日本で年間に約1000万枚近く撮影されていますが,これが骨粗鬆症のスクリーニングに活用されれば,早期発見・早期治療に役立ち,コストの面でも有用と思われます。本手法を用いて実際に骨粗鬆症スクリーニングを行った広島県歯科医師会の調査では,多くの閉経後骨粗鬆症患者をスクリーニングすることができました。

 歯科治療のために撮影されたパノラマX線写真により骨粗鬆症患者がスクリーニングできれば,歯科医師が国民の福祉に多大に貢献できることが期待できます。広島大学病院歯科放射線科では現在,世界17カ国の国々の研究者と協力して,世界中でのパノラマX線写真による骨粗鬆症女性のスクリーニングの有用性に関する検討を行っています。

【記事に関する問い合わせ先】

●広島大学病院 歯科放射線科 田口 明

 TEL 082−257−5691

 E-mail akiro@hiroshima-u.ac.jp 



●広島大学病院 総務グループ副課長 近藤 博明

 TEL 082−257−5014

 


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