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【研究成果】矯正歯科治療における固定式装置が口腔内細菌叢に及ぼす変化を解明

本研究成果のポイント

  • 矯正歯科治療で用いる固定式装置(※1)によって、口腔内(口の中の)細菌叢(※2)がどう変化するかについて、次世代シークエンサー(※3)を用いて解析しました。
  • 今回の結果から、矯正装置を装着することで、口の中では嫌気性菌(※4)が増加し、その他の細菌は減少することが明らかとなりました。

概要

広島大学大学院医系科学研究科歯科矯正学 谷本 幸太郎教授らの研究グループは国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター 久恒 順三 主任研究官と共同で、広島大学病院で矯正歯科治療を受けた患者を対象として、次世代シークエンサーを用いた細菌叢解析を行いました。その結果、口の細菌叢は矯正装置を着けることで大きく変化していました。

本研究では、矯正装置を装着すると、口の中のだ液とプラークでは、嫌気性菌や難培養細菌(※5)が増加することが明らかとなりました。反対に、普段は口腔内の細菌のうち大部分を占める常在菌の割合は、減少していました。これらの結果を過去の研究と比較することで、上記のような状態は、歯周炎へ移行しつつある患者の口腔内の細菌叢と類似していることが示唆されました。

本研究結果は、オープンアクセスジャーナル「Scientific Reports」に掲載されました。

矯正装置による細菌叢変化と、それを様々な歯ぐきの病態の細菌叢と比較した模式図

最上段は歯ぐきの病態を、中段は病態によって異なるそれぞれの細菌構成を示す。どの病態でも多く認められた細菌は緑色で、歯肉炎と関連する細菌はオレンジ色で表されている。下段は、矯正装置装着によって変化した主な細菌を示す。青は矯正装置の装着によって減少したもので、赤は増加したものである。歯肉炎の病態の際に現れる細菌叢と類似していることが分かる。

用語解説

(※1) 矯正歯科治療で用いる固定式装置
歯の表面に接着させた微小な装置とワイヤーを連結したもので、現在最も一般的で多くの治療に使われている矯正装置。

(※2) 細菌叢
微生物の集合体のこと。ヒトの体には、細胞数(約60兆個)を遥かに超える数の細菌が住んでいる。口・腸・皮膚といった、定着している環境ごとに多様な組成がある。

(※3) 次世代シークエンサー
数百万のDNA分子の配列決定を、短時間で行うことができる装置。近年のDNAシークエンス技術の進歩に伴い、細菌叢の研究は飛躍的に発展している。

(※4) 嫌気性菌
生きていく上で酸素を必要としない細菌。ヒトの体のなかでも、口・腸・膣といった閉鎖環境に多く生息する。感染症の原因となる細菌が多く含まれる。

(※5) 難培養細菌
実験室で培養できない細菌。近年まで存在すら知られていなかったが、DNAシークエンス技術の進歩に伴ってその存在が明らかとなった。

論文情報

  • 掲載誌: Scientific Reports
  • 論文タイトル: The impact of fixed orthodontic appliances on oral microbiome dynamics in Japanese patients
  • 著者名: 角 伊三武1,2、久恒 順三2,4、鶴田 圭伊子2,3、谷本 幸太郎1、菅井 基行2,4
    1. 広島大学大学院医系科学研究科 歯科矯正学
    2. 広島大学大学院医系科学研究科 薬剤耐性学
    3. 広島大学大学院医系科学研究科 口腔保健疫学
    4. 国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター
  • DOI: 10.1038/s41598-020-78971
【お問い合わせ先】

<研究内容について>
大学院医系科学研究科 歯科矯正学
教授 谷本 幸太郎
TEL: 082-257-5686
E-mail: tkotaro*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)

国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター 
主任研究官 久恒 順三
TEL: 03-5285-1111
E-mail:hisatune*niid.go.jp (注: *は半角@に置き換えてください)

<報道に関すること>
広島大学 財務・総務室広報部広報グループ
TEL: 082-424-3701
E-mail: koho*office.hiroshima-u.ac.jp (注:*は半角@に置き換えてください)


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