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【研究成果】長期的な肝線維化の進行を予測する肝臓の遺伝子発現のパターンを同定

本研究成果のポイント

  • 長期的な肝線維化の進行を予測する肝臓の遺伝子発現のパターンFibrosis Progression Signature (FPS)を同定しました。
  • FPSは、治療介入により改善し得ることが分かりました。
  • FPSの改善を、将来の線維化改善の代替的マーカーとして使用することにより、抗線維化薬の長期的な効果を治療早期に予測できると期待されます。

概要

 広島大学大学院医系科学研究科消化器・代謝内科学の大野敦司助教らの研究チームは、米国University of Texas Southwestern Medical Center(Dr. Yujin Hoshida研究室)および医療イノベーション共同研究講座 茶山一彰教授らの国際研究グループとの共同研究により、長期的な肝線維化進行を予測する肝臓の遺伝子発現パターンの同定に成功しました。
本研究成果は、12月21日に米国の科学雑誌「Gastroenterology」の電子版に掲載されました

発表内容

【背景】

慢性的な炎症を背景として、肝臓には線維化が起こり、進行すると肝硬変となります。世界で年間122万人が肝硬変で死亡し、その数は過去20年間で46%増加しています。さらに、肝硬変※1は、世界のがん死亡原因の第4位である肝がんの主要な原因とされています。線維化が進行し、肝硬変に至るには通常20~30年かかるため、線維化進行を抑制する治療の効果を臨床試験等の短い観察期間で評価することは現実的に困難です。そのため、長期間内服を継続することにより、線維化進行を抑制できる良い薬であったとしても、一般的な臨床試験の期間内で効果を判定した場合には効果なしと判定される可能性もあります。
そこで、長期的な線維化の進行を予測する信頼性の高い代替バイオマーカー※2があれば、その代替マーカーの変化を評価することにより、抗線維化療法の効果を臨床試験の様な短い時間枠の中でも推定することが可能になると考え、本研究を計画しました。

【研究成果の内容】

まず、C型慢性肝炎※3、または、非アルコール性肝疾患患者※4、計421人の肝組織の網羅的遺伝子発現データを用いて、長期的な肝線維化進行に関わる20個(発現が高いと線維化が進行するリスクが高い高リスク遺伝子14個、発現が高いとリスクが低い低リスク遺伝子6個で構成される)を同定しました。この20個の遺伝子の発現パターンをここではFibrosis Progression Signature (FPS)と呼ぶことにしました。例えば、高リスク遺伝子の発現が高く、低リスク遺伝子の発現が低い場合は、FPS高リスク、その逆の場合はFPS低リスクと判定されます。
 次に同定されたFPSの線維化進行予測能について、別の独立した集団(78人の非アルコール性肝疾患患者)で検証しました。病理学的に肝線維化の評価を行った際の肝組織を用いて、FPSにより低リスク群、中等度リスク群、高リスク群に分類しました。この集団では、中央値2.4年後にも再度病理学的評価を行っており、線維化ステージが1つ以上進行した場合に、線維化進行と定義致しました。その結果、初回評価時にFPS高リスクだった症例では、線維化進行の可能性が高いということが分かりました(オッズ比※5 10.93、p=0.04)。また、ROC曲線(Receiver Operating Characteristic Curve)※6にて、FPSの線維化進行例と非進行例を識別する能力を評価したところ、AUC 0.86と良好な結果でした。
次に、慢性肝疾患患者の肝組織スライスを用いたEx-vivo培養系を用いて、13種類の抗線維化治療候補となる薬剤がFPSに与える影響について調べました。その結果、没食子酸エピガロカテキン※7など、いくつかの薬剤により、FPSを良い方向に調整できる可能性が示されました。さらに、臨床試験においてCCR2/5拮抗薬セニクリヴィロク※8を投与された非アルコール性肝炎患者の治療前後の肝組織のFPSを調べました。その結果、FPSの改善は治療開始1年後の肝線維化の改善に関連していることが分かりました。

【今後の展開】

本研究で同定されたFPSは将来的に線維化が進行する症例を高精度に予測でき、また、治療介入により、FPSを改善させることができることが分かりました。このことから、臨床試験のアウトカムとしてFPSの変化を評価することにより、長期的な線維化進行の抑制効果を、一般的な臨床試験の期間内に評価できるようになると期待されます。

用語解説

※1 肝臓におきた炎症を修復するときにできる線維(コラーゲン)が増加して肝臓全体に拡がった状態。腹水や食道静脈瘤、肝性脳症や黄疸、こむらがえりなどが問題となる。
※2 診断・治療行為、薬効等の最終評価との関連を証明できるマーカー
※3 C型肝炎ウイルスの持続感染により、肝臓に慢性的に炎症が起こっている状態。
※4 飲酒以外の原因で肝臓に過剰な脂肪が蓄積した状態
※5 ある事象の起こりやすさを2つの群で比較して示す統計学的な尺度。オッズ比が1とは、事象の起こりやすさが両群で同じということであり、1より大きい(小さい)場合、事象がより起こりやすい(にくい)ということ。
※6 縦軸に感度(真陽性率)、横軸に1-特異度(偽陽性率)をとり、点をプロットし、曲線を描いたグラフ。この曲線の下方の面積(Area Under the Curve:AUC)は0.5-1.0の間の値をとり、1.0に近いほど診断性能が高いと判断される。
※7 緑茶葉などに含まれるポリフェノールの1種。強い抗酸化作用を持ち、抗肥満、抗炎症、抗菌、消臭などさまざまな生理作用を示す。
※8 CCケモカイン受容体2および5の拮抗薬。非アルコール性肝疾患患者を対象として臨床試験が行われた。

論文情報

  • 掲載誌: Gastroenteology
  • 論文タイトル: Molecular signature predictive of long-term liver fibrosis progression to inform anti-fibrotic drug development
  • 著者名: Tongqi Qian, Naoto Fujiwara, Bhuvaneswari Koneru, Atsushi Ono…Kazuaki Chayama, Shijia Zhu, Raymond T. Chung, Yujin Hoshida
         *Contributed equally.
  • DOI: https://doi.org/10.1053/j.gastro.2021.12.250
【お問い合わせ先】

広島大学大学院医系科学研究科

消化器・代謝内科学

助教 大野 敦司

Tel:082-257-5191

FAX:082-257-5194

E-mail:atsushi-o*hiroshima-u.ac.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


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