呼吸音モニタリングシステムを開発

 広島大学大学院医系科学研究科(救急集中治療医学)の志馬伸朗教授らのグループは、呼吸異常を迅速に診断できる「呼吸音連続モニタリングシステム」を開発しました。呼吸時の異常音をデジタル信号としてキャッチできる集音センサーと機械学習アルゴリズムによる解析プログラムを使い、手術中やICU管理中の患者の呼吸状態をリアルタイムに分析し、異常などがすぐわかるように表示します。これにより患者の病態変化を早期に予測・診断できます。また客観的な数値として示されるため、正確な判断につながります。「呼吸音遠隔モニタリングシステム」では、遠隔診断も可能になり、パンデミックなどの対応にも期待されます。志馬教授や大下慎一郎准教授らが出席した記者説明会(9月29日)では、実際の機器を使ったデモンストレーションも公開しました。

 手術中、術後の呼吸器合併症は発生頻度が高く、患者の重症化、後遺症、死亡など重大な結果をもたらすこともあります。現行の呼吸モニタリングは酸素飽和度などを間接的に評価するもので、呼吸状態がある程度悪化してからでないと数値の変化が表れません。このため、より早く異常を見つける方法が求められていました。

 志馬教授のグループは、これまで広島大学とパイオニア株式会社(現エア・ウォーター株式会社)が研究開発を進めてきた、電子聴診器を用いた呼吸音を可視化できる解析システムの技術を応用し、2017年度から国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援で、呼吸音をモニターするシステムを開発してきました。広島大学病院のICUで挿管下人工呼吸管理後に抜管される患者に、本システムを装着し抜管後の呼吸音を記録しました。その結果、抜管後の呼吸・気道合併症を予測する指標となり得ることが分かりました。

 さらに、電子聴診器を用いた呼吸音を可視化できる解析システムの技術の別の活用として、AMEDの支援で「呼吸音遠隔モニタリング装置」を開発しました。本システムはセンサーとスマートフォンのアプリを組み合わせたポータブル機器で、医師以外の医療従事者や患者本人でも聴診でき、情報を専門医に送ることで診断できるようになりました。新型コロナウイルス感染症拡大で指摘された「感染のリスクから直接聴診が行いにくい」「多くの患者をフォローしなくてはいけない」などの課題解決にもつながると期待されます。これらの成果は、2022年5月にJournal of Clinical Monitoring and Computingに掲載、2022日本気道管理学会 最優秀演題賞などを受賞し、国内外で注目されています。

記者説明会に臨む右から志馬教授、大下准教授

記者説明会に臨む右から志馬教授、大下准教授

呼吸音連続モニタリングシステム(左)と遠隔呼吸音モニタリング装置(右)のデモンストレーション


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