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非小細胞肺癌にオプジーボと新規治療薬の併用治験を開始~第Ⅱ相医師主導治験・有効性と安全性を確認~

 広島大学大学院医系科学研究科 分子内科学 服部登教授(責任医師)は東北大学大学院医学系研究科分子病態治療学分野 宮田敏男教授と株式会社レナサイエンスが共同で開発したPAI-1阻害剤の治験を計画し、標準治療が終了した非小細胞肺癌患者さんを対象とした医師主導治験(第II相)において、9月26日、1例目の被験者が登録されました。

本治験のポイント

  • 有効な標準治療が確立していない「非小細胞肺癌*1」患者さんに対する3次以降の治療として、RS5614(Plasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)阻害剤*2)と免疫チェックポイント阻害薬のオプジーボ(ニボルマブ)併用治療の有効性と安全性を検討する医師主導治験(第II相*3)において、1例目の被験者が2023年9月26日に登録されました。
  • 今回の治験治療では、免疫療法と複数の抗がん剤治療歴を有する切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌患者さんを対象としています。
  • 広島大学では、がんの進行に関与するタンパクであるPAI-1と非小細胞肺癌の進展の関連について、約15年、基礎研究を重ね、PAI-1阻害剤を肺癌患者さんへ投与するに至りました。
  • 今回のRS5614は東北大学発の新薬であり、治験薬は、株式会社レナサイエンス(本社:東京都、代表取締役社長:内藤幸嗣(コード:4889東証グロース))より提供されています。

概要

 今回の非小細胞肺癌を対象にした治験治療では、免疫療法と複数の抗がん剤治療歴を有する切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌患者さん39例を対象に、免疫チェックポイント阻害薬*4のオプジーボ*5とRS5614との併用投与の有効性及び安全性を検討するための第Ⅱ相医師主導治験を、広島大学病院、岡山大学病院、島根大学医学部付属病院、鳥取大学医学部付属病院、四国がんセンター、広島市立広島市民病院の6医療機関で実施します。治験予定期間は2026年12月までで、その後第III相治験*6を行い、広く適用を目指します。

 今回の医師主導治験は広島大学病院広島臨床研究開発支援センターが、データマネジメント業務、統計解析業務等の治験業務を担当しています。治験調整医師は広島大学病院 呼吸器内科 益田武診療講師と広島大学病院 広島臨床研究開発支援センターの平田泰三教授です。

背景

 広島大学と株式会社レナサイエンスは、共同研究を実施しており、PAI-1が肺癌の増殖や血管新生に関与すること、さらにオプシーボと同じ作用を持つ抗PD-1抗体に耐性となった肺癌細胞がPAI-1を高発現するなどの知見を明らかにし、非小細胞肺癌モデルマウスを用いた非臨床試験で抗PD-1抗体とRS5614の併用投与の有用性も確認しました。本治験で有効性と安全性が確認できれば、非小細胞肺癌に対する新たな治療法が提案できます。
 ドライバー遺伝子*7に変異が無い進行性非小細胞肺癌に対する1次治療には、プラチナ製剤*8併用化学療法と免疫チェックポイント阻害薬が用いられていますが、治癒に至る症例は少なく、2次治療としてドセタキセル*9等の化学療法が実施されています。しかし、無増悪生存期間は5か月と極めて短く、3次治療が必要となります。3次治療まで至るのは、5割程度であり、治療に大きなニーズがありますが、現時点で、標準治療は定まっていません。今日では、3次治療として2次治療までに使用されていない化学療法薬が用いられていますが、その効果は十分でなく、副作用も多くみられます。オプジーボは、免疫療法の治療を受けていない患者さんでは、化学療法よりも有効性が高く、副作用が少ないことが報告されています。ただ、今回の治験の対象患者さんのように、免疫療法の治療歴のある患者さんでのオプジーボの効果は限定的であることが報告されています。よって、オプジーボの奏効率を上昇させ、副作用が少ない併用薬の開発が待ち望まれています。

用語解説

*1 非小細胞肺癌
肺癌はがん死亡原因のトップである予後不良の疾患です。日本における肺癌の罹患数(2019年)は、男性84,325人、女性42,221人であり、死亡数(2020年)は男性53,247人(男性1位)、女性22,338人(女性2位)で、肺癌の80-85%が非小細胞肺癌です。

*2 Plasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)阻害剤
私たちの体を作っているたんぱく質の1つにPAI-1というタンパクがあり、血管内皮細胞や肝臓、血小板、脂肪細胞などに存在しています。また、最近の研究で、このPAI-1が、がんの進行(がん細胞の増殖やがんの増殖に必要な血管新生)に関与することが報告されました。今回の治験で使用するRS5614(PAI-1阻害剤)は、このPAI-1の働きを阻害する働きを持つことが確認され、また免疫細胞ががんを殺しやすい環境に変える効果もあることも分かりました。RS5614がPAI-1の働きを阻害することで、オプジーボの治療効果を高める役割を期待しています。

*3医師主導治験(第II相)
健康な人や患者さんにくすりの候補を実際に使っていただいて、有効性や安全性について調べて、国(厚生労働省)から「くすり」として承認を受けるために行う臨床試験のことを「治験」といいます。医師主導治験とは、製薬企業でなく医師が企画・実行する治験のことです。
治験は、通常3つの段階があり、順番に各段階で有効性や安全性を確認しながら進められ、治験で得られた結果は、承認申請の際に厚生労働省に提出する資料になります。第II相治験では、少人数の患者さんを対象に、「くすりの候補」の有効性と安全性、またどのような使い方をしたらよいのかを調べます。

*4 免疫チェックポイント阻害薬
免疫の恒常性を保つために、自己に対する免疫応答を阻害し過剰な免疫反応を抑制する分子群として免疫チェックポイント分子が発見されました。免疫チェックポイント分子はリンパ球の過剰な活性化を抑制して自己を攻撃させないために存在しますが、がん細胞は免疫系からの攻撃を回避するために免疫チェックポイント分子を悪用します。現在、PD-1、CTLA-4などさまざまな免疫チェックポイント分子が同定されています。免疫チェックポイント阻害薬は、免疫チェックポイント分子の作用を阻害する医薬品で、現在治療薬として用いられている薬剤はすべて免疫チェックポイント分子に直接結合しそれを阻害する抗体医薬です。

*5オプシーボ(ニボルマブ)
プログラム細胞死1(PD-1)という免疫チェックポイント分子を標的とする抗体医薬(ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体)で、免疫系の抑制解除による抗がん作用を狙った医薬品です。代表的な免疫チェックポイント阻害薬です。

*6第III相治験
第III相治験は治験の最終段階になります。多数の患者さんで、第II相試験の結果から得られた有効性、安全性、使い方を確認します。さらに、現在使われている標準的なくすりとの有効性や安全性などを比較します。

*7 ドライバー遺伝子
がんに関する研究の結果、がん細胞は正常の細胞に比べて、ある種の遺伝子やタンパク質に異常が認められる、あるいは量が増加していることがわかってきました。この異常な遺伝子は、「がん遺伝子」と呼ばれ、がん化やがんの増殖の原因になっていると考えられています。特に、がんの発生や進行に直接的な役割を果たす遺伝子を「ドライバー遺伝子」と呼びます。

*8 プラチナ製剤
肺癌の治療に用いられる抗がん剤(細胞傷害性抗がん剤)の一種です。がん細胞内の遺伝子本体であるDNAと結合することにより、がん細胞の分裂を止め、やがて死滅させます。シスプラチン、カルボプラチンなどが含まれます。

*9 ドセタキセル
植物成分を原料として半合成された化合物です。細胞が分裂する際に必要な細胞構成成分の一つである微小管を安定化及び過剰発現させることにより、がん細胞の増殖を阻害します。

【お問い合わせ先】

広島大学病院 呼吸器内科 益田武
Tel:082-257-5196 FAX:082-257-7360
E-mail:ta-masuda*hiroshima-u.ac.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


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