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【研究成果】発疹の形状から蕁麻疹の体内メカニズムを解き明かす数理皮膚医学を創出―数理モデルと臨床医学の融合による新たな蕁麻疹治療法の開発へ―

 京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)/大学院医学研究科の李聖林 教授/主任研究者、広島大学大学院医系科学研究科の秀道広 前教授および高萩俊輔 同准教授らの研究グループは、数理モデルを活用して蕁麻疹(慢性蕁麻疹:CSU)の発疹(膨疹)の形状を解析し、その形態上の特徴を生体内の病理的メカニズムと関連付け、膨疹を5つのパターンに分類しました。さらに、このパターンを用いて発疹の幾何学的な診断基準を開発しました。そこで、105人の患者を対象にこの基準を適用したところ、本数理モデルと基準の有効性が実証されました。本研究は、発疹の形態に応じて蕁麻疹の体内メカニズムを解明するために数理モデルを使用した最初の研究であり、蕁麻疹の新規治療法の開発へ道を開くことが期待されます。
本研究は、2023年12月4日10時(英国標準時)に国際学術誌『Communications Medicine』にオンライン掲載されました。
 

 皮膚は人体で最大の臓器であり、外部環境から身体を守るのと同様に、体内の生理機能を一定に保つホメオスタシス(恒常性)の維持に重要な役割を果たしています。そのため、皮膚病は患者の生命を脅かすばかりでなく、生活の質に重大な悪影響を及ぼします。しかし、ヒト特有の皮膚疾患の場合、適切な動物(生物)モデルが存在しないために、多くの場合、限られた臨床データに基づいて病態を推測せざるを得ません。蕁麻疹はそのような疾患の代表例であり、人口の5人に1人が生涯に一度は発症します。身体の表面に数ミリから数センチの様々な形の膨疹として現れ、非常な痒みを伴います。特に慢性蕁麻疹(CSU)は完治が難しく、数年あるいは数十年にわたって症状が続きます。

 このCSUは、多様な形状の膨疹として皮膚表面で明らかに視認できるにも関わらず、それを引き起こす体内のメカニズムは謎に包まれてきました。近年、自己免疫反応や細胞浸潤などを含む、蕁麻疹の様々な病態生理学上の特徴が研究されています。そこで、こうした要素を生体内の動態に結びつけることが、個々の患者の容態に沿った治療法を開発するために非常に重要となってきます。

 そこで本研究では、生体外(in vitro)の実験データを用いて血管内および血管外双方の動態を組み込んだ階層的数理モデルを構築して膨疹の形状を解析し、こうした形態学的な特徴を生体内におけるCSUの病理的な動態と結びつけました。そして、膨疹のパターンを5種類に分類しました。さらに、臨床の現場で活用できる「膨疹形状の分類基準」(the Criteria for Classification of Eruption Geometry:EGe criteria)を開発しました。そこで、105人の患者を対象に、この基準に従って膨疹を分類したところ、実際の慢性蕁麻疹の膨疹の形状が数理モデルで発見された5種類の形状に分類できることが、87.6%という高い値で示されました。

 「本研究は、皮疹の形状に着目し、皮疹の形とその病態生理をつなげるために数理・生物・医学の融合アプローチを用いた最初の成果です。本研究は蕁麻疹だけではなく、皮疹の形を特徴とする様々な皮膚疾患において、病態解明における新たなアプローチ手法と治療法の開発に道を開くものと考えられます。例えば、本研究で構築された数理モデルを搭載したソフトが開発されれば、医療現場では患者さんの皮疹の形のデータから生体内の状況が推定でき、医師の的確な診断を補助することができます。また、患者さんが自分の膨疹の写真を撮って、根本的な原因を診断するためにデータを提供したり、治療の効果を予測したりすることができます。本研究は、動物モデルが利用できないヒト特有の病気のメカニズムを理解するために、数理と臨床医学の融合的アプローチが極めて有用であることを示しています」と、李聖林教授は述べています。

 本研究グル―プは、この取り組みを通じて、数理科学と臨床皮膚科学を融合させ、皮膚疾患の病態生理を解明し、難治性皮膚疾患の新たな治療戦略を開発する、新たな学際的研究分野としての「数理皮膚医学」を切り拓き、臨床現場で実用化していきたいと考えています。
 

論文情報

タイトル    Mathematical-structure based Morphological Classification of Skin Eruptions and Linking to the Pathophysiological State of Chronic Spontaneous Urticaria
著  者    Sungrim Seirin-Lee, Daiki Matsubara, Yuhki Yanase, Takuma Kunieda, Shunsuke Takahagi, and Michihiro Hide
掲 載 誌    Communications Medicine
DOI    10.1038/s43856-023-00404-8
公開日    2023年12月4日

【お問い合わせ先】

<研究に関するお問い合わせ>
李聖林(い・せいりん)
京都大学高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)主任研究者/教授
TEL:075-753-9809
E-mail:lee.seirin.2c*kyoto-u.ac.jp

<報道に関するお問い合わせ>
京都大学高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)
リサーチ・アクセラレーション・ユニット
Tel:075-753-9878
E-mail:ashbi-pr*mail2.adm.kyoto-u.ac.jp

広島大学 広報室
Tel:082-424-4383
E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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